先生の言葉 全集
36.不服な人
…………。
あのー。出会っていきなりで、すみません。先頭の戦士の方、なんか元気ないようですけど、大丈夫ですか。いや、モンスターである私が聞くのも、おかしいなとは思うんですがね。悩みとかいろいろある状態で、下の階のモンスターを相手にすると、命取りになりかねないなと思いまして。まあ、私が相手なら、どうにでもなりますが。
え、この方、初めて会ったときからこんな感じなんですか。
何かあるんなら、ちょっと話してみてくれませんか? ええ、はい……。
なるほど、訓練場で冒険者の登録をしたときに、あと少しでサムライになれたのになれなかったと。それをずっと悔やんでいる、ということですか。確かに、それは残念でしたね。サムライといえば、君主やニンジャと並ぶ上級職の花形ですから。あ、後ろの司教さん、怖い顔しないでください。あなたの鑑定も素晴らしい技術なんですから。
とは言っても、そういった職業が普通の職を全てにおいて上回るかと言われると、そうでもないらしいですよ。まずよく言われるのは、途方もない経験が必要になるってことですよね。ここにもよく、隠れて修行に来る上級職の方がいらっしゃいます。やっぱりみんな、白鳥のごとく、水面下で頑張っているんですね。それを怠ると、その分、他のメンバーとレベルの差がついてしまいます。そんな差は、一見大したことないようですが、そこをつかれて、パーティが壊滅することだってあるんじゃないですかね。
あと、サムライと司教の方に特に顕著ですが、一人前と言えるようになるのに、かなり時間がかかるのも短所ですね。普通の職の方は、13レベルもあれば一人前と言えるでしょうけれど、サムライの方ですと、魔法全て覚えきるのに最低でも22レベルかかるようですから。経験が多数必要な上に、一人前になる時間もかかるわけで、非効率なことこの上ありません。それに、もうサムライになれないと、決まったわけではないのですから、もう少し身を入れて戦闘をしたほうがいいと思いますよ。
ところで、私、友好的なんですけど、どうします?
あんたを倒しても、サムライになれるわけじゃないし、立ち去る?
そうですか……。それでは、さようなら。
……私のようなザコでも地道にコツコツ倒していけば、転職によるサムライの道も見えてくると思うんですけど。人生が、思う通りに進まなかったということのほうが、あの方にとってはショックだったのかもしれませんねぇ。