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【弱ペダ】まきしまさんと妖精のさかみちくん

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 翼竜の鬣と頭の角の向こうに見えていた岩肌が突然途切れ、視界が一面、空の青に占領されたと思った瞬間、ぐるりと視界がひっくり返った。目の前に茶色の地面が見えてやっと理解する。翼竜が宙返りをしたのだ。鞍から浮き上がりそうな体を、ギュッと太ももでイルクの背を締め付けるようにして堪える。鞍と体をつなげるベルトで落下しないようになっているのだが、それでもこの一瞬の浮遊感に尻がそわりとする。
 一方、坂道がきゃあきゃあと喜びの声を上げた。
 これが怖くないのなら、田所が言ったようにレース参加も可能かもしれない。
 本当の速度で坂道の小さな体が浮いてしまわなければ、だが。
 となれば、坂道には成体に近い子供の翼竜か、体の小さな種族が合うかもしれない。早く飛ぶには筋肉がきちんとついていなければならないからだ。うまく召喚できたとして、の話ではあるが。坂道なら、もしかしたら出来るかもしれない。
 その間にも、翼竜は宙返りから自由落下のように下へ飛ぶと、突然急旋回して岩山をとぐろを巻くように飛んだと思うと、また急上昇したり、宙返りを繰り返したりする。
「凄い凄い! もっと! もっと早く飛んでください!」
 坂道が強請る。
 それに応えて、イルクは機嫌良く、曲芸とも言えるような飛行を繰り出す。巻島にとっては久々だ。初めて呼び出したときに、振り落としてやる、と言わんばかりに散々やられたのだ。しかも、速度も激しさも段違いだ。それこそ、イルクがくたびれるか、巻島が酔ったり気を失うまで止めない我慢比べになった。
 イルクが宙返りの間に体をくるくると捻る動きをすると、翼竜の体にしがみついていた手が流石に遠心力で振られて離れてしまう。と、両手を挙げて喜んでいるような坂道の体がふっと高く持ち上がった。
 鞍に体を繋ぐベルトが切れたかどうかしたのだろう。
 それを頭が納得したのは後のことで、その時はとにかく坂道の体が浮いている、と言う事実しか認識できなかった。
 危ない、と言う考えが次の瞬間浮かび、咄嗟に腕を伸ばした。
「坂道!」
 坂道は目を丸く見開いたまま、イルクと巻島から浮き上がり、遠ざかる。いや、頭上に広がる茶色の地面へ「落ちて」いるのだ。身体を腕を掴もうと坂道へ伸ばした手が空を切る。途端、ゆっくりと見えていた光景が、急に早くなった。坂道があっという間に小さくなった。
 坂道が驚いて、そして恐怖に駆られてか、叫ぶ。
「坂道!」
 ぐおう! イルクが巻島の叫びを凌ぐ大音声で吠えた。
「追うッショ! 追ってくれ!」
 イルクが判っている、と言うように地面へ向かって一直線に飛ぶ。だが、坂道の体が小さくてなかなか見つからない。イルクが何度か吠えた。同じように坂道を呼んでいるのか。まだか、もうすぐ地面だ。この距離で居なければ、地面に……。いやな想像でさっと頭から血の気が引いて、冷たい汗がどっと出た。
 これ以上はもう無理だと言う、地面スレスレまで急降下し、こんな急旋回、急停止はない、と言うほどの急制動をイルクがかけた。衝撃で危うく巻島もイルクも、身体の筋を傷めそうなほどだった。
「……! 巻島さん!」
 声がかかった方を巻島が見る。と、イルクの翼の傍で、坂道がふわりと妖精の羽を羽ばたかせながら浮かんでいた。
「さかみち……! ケガは……?」
 安堵と狼狽で震える手でようようベルトを外すと、まろぶように巻島がイルクから降りる。そして、恐る恐る坂道の体に手を伸ばしては、恐れるように躊躇う。
「けがはないです。でも僕ちょっとびっくりしちゃって……。でも、……が、イルクが飛べって言ってくれて」
 坂道がちょっと泣きそうな声で喋る。
「そうだ、僕飛べるんだったって思い出して……。あ、妖精なのに飛べるの思い出せないってどうなんだって感じですよね。でも、本当に驚いちゃって。何が起きてるのか判らなかったから……」
 巻島は足の力が抜けて、へなへなと地面に座り込む。
「巻島さん!」
 坂道がびっくりして傍へ飛んでくる。
「どこかケガ……」
「いや、驚いただけっショ」
 巻島がやっとのことで答える。驚きすぎて、心配しすぎて、心臓が飛び出るかと思った。まだ心臓がどきどきしている。
「僕……、ごめんなさい……」
「いや、無事ならいいっショ」
 くぅ、と見守っていたイルクも一声優しく鳴くと、鼻づらをそっと坂道に押し付けた。
「……! ありがとう。君が言ってくれなきゃ僕思い出せなかったかも」
 坂道は嬉しそうに言って、翼竜の鼻に頬を寄せた。
 これは、一刻も早く妖精に力を習いに行かせなければなるまい、と巻島はその光景を見ながら心に決めたのだった。