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【弱ペダ】まきしまさんと妖精のさかみちくん

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「今度聞いてみますね!」
 坂道が興奮したように答えた。

「いいか、しっかりと掴まるっショ」
 レースへ向けての練習で、召喚に応えた馴染みの翼竜の背に坂道と共に乗る。
「本当に大丈夫か?」
「はい!」
 急造の坂道用の鞍に座り、坂道が元気に、期待でキラキラした目で返事をした。初めて乗るのに緊張していないのは、翼竜で飛ぶ速度と不安定さが判っていないからだろうか。それとも、肝が太いのか。仲の良い翼竜だからだろうか。いや、普段から歩くより飛ぶ方が多い坂道には、地上より空中にいる方が当たり前で、速度など関係ないのかも知れない。
「良かったな」
「巻島の得意なところは、アップダウンが激しいし、急旋回も多いからな。踏ん張らねぇと振り落とされるぞ」
 金城が微笑み、田所が坂道を脅かすような事を言って、冗談だ、と大声で笑う。
「田所っち、やりすぎっショ。頼むぞ」
 田所を窘めると、人で言うならちょうど肩口辺りにしがみついた坂道を見ながら、巻島がポンポン、と翼竜の首筋を叩く。翼竜は鼻筋や顎のあたり、それから首筋を撫でられたり、やさしく叩くようにすると喜ぶ。馬に少し似ていた。クルル、と翼竜が機嫌よさそうな、それでも巻島にそうされるのが不本意なような声を出した。
 かと思えば、肩口の坂道を思いやるように少し首を回して、クォウ、と一転優しい声で何事か鳴く。
「ハイ! すごく楽しみにしてたんです!」
 坂道が翼竜に向かって答える。それに翼竜もクル、クル、と喉を鳴らして答えていた。不思議なことだが、二者のやり取りで意思疎通が出来ていると信じられるような光景だった。
「ホントですか?」
 複雑な声を出していたその意味が判ったらしい坂道が、更に破顔する。笑みで顔じゅうが口になってしまいそうなほどの笑顔だ。
「巻島さん! ……が、イルクって呼んでほしいって言ってます!」
 相変わらず翼竜の本当の名前がなんというのかさっぱり判らない。けれど、愛称であろうイルクは聞き取れた。翼竜とのやり取りを見ていた金城と田所は、驚いたような顔をして巻島を見てくる。
「……そうか。イルク、頼むっショ」
 巻島が鼻を撫でながら言うと、グゥ、と仕方ねぇな、とでも言いそうな雰囲気で翼竜が声を出す。その様が、お前に呼ばせる義理はねぇが、坂道が言うからだから! 仕方なくだからな! と本当に渋々という感じで、巻島は思わず笑ってしまう。
 何笑ってるんだ、と翼竜が少し怒気を込めたような調子で、グルゥ、と鳴く。
「悪い、悪い」
 巻島が謝るが、本当に不承不承ながら、それでも坂道の甘えを素直に聞いてしまう翼竜が意外にお人よしに思えた。
「俺ら、どうにも坂道には甘ぇっショ」
 グゥ。お前と一緒にするなと、否定できないがそれでも賛同したくない意地を露わにしながら翼竜が唸った。
「巻島! ちょ……、オイ!」
 田所が慌てて、翼竜や坂道を指さしたり、巻島に何かを訴えようと口をパクパクさせる。普通の反応だろう。巻島だって最初は正直驚きで頭が働かなかったのだから。
「あー、戻ってきたら説明するっショ」
 巻島は口元をぽりぽりと掻きながら、どう説明するか考えなければと思った。
「いや、だってだな……!」
「わかった」
 更に何かを言い募ろうとした田所を、金城が肩をポンポンと叩いて落ち着かせる。金城は金城で冷静でいるように見えて、実は内心すごく焦っているだろう。嘘や誤魔化しは効かないだろうと、思わず天を仰ぎたい気持ちになった。
「行くぞ」
 翼竜の首を軽く叩き、巻島は背に乗った。
「ハッ!」
 掛け声を掛けると、イルクが畳んでいた翼をバサッと空へ向かって大きく広げる。地面に伏せるようにしていた身体に力が入って、背中が緊張と力を貯めたことで大きく膨らんでたわむ。ぶお、と翼が打ち振るわれると、巻島の身体に急に重さが掛かる。一瞬翼竜の背に少し押し付けられるのを感じたが、すぐにふっと浮遊感に取って代わった。ばさ、ばさ、と翼を動かす筋肉が鞍の下で動くのが判る。羽ばたく毎に、浮遊感と飛ぶ風を頬に感じる。ゆっくり動いていた景色が次第にどんどん早く後ろへ流れて行くようになる。
「飛んだ!」
 坂道が興奮で叫ぶ。イルクがそれに応えてか、クォウ、と喜びの色を乗せて一声鳴いた。
 バサ、と言う翼竜の翼が空気を打つ音、空を飛ぶ勢いで身体中に当たってくる風。高度を上げようと旋回しながら飛び上がっていく姿勢で、山並みが斜めに見える。見下ろせば既に地表が遠い。森も、遠くに見える村の家並みも小さい。途方もない開放感だ。翼があるということは、こういうことか、と思う。
「すごいです!」
 坂道が大喜びで周りを見ながら感嘆の声を漏らす。
「楽しいか?」
「はい!」
 坂道が笑顔で答えた。それを見て、巻島はイルクの左の鬣の辺りをポン、と叩く。普段は鳴き声など上げないイルクが、承知、とでも言いたげにウォゥ、と答えて、右方向へゆっくりと首を回し始める。翼竜に足で拍車でも入れようなら、怒りで直ちに振り落とされる。特にイルクはそうだった。それでも力任せに言うことを聞かせる者もいないでもないが、何故か巻島にはそれが出来なかった。
「坂道、これから競技用のコースに行くっショ」
 そう言うと、坂道がいよいよかと言う興奮と、期待と、そしてほんの少しばかり不安な顔をしながら、うん、と頷いた。
 右下へ体重が引っ張られるような角度でぐるりと方向が変わると、遠く見えていた山並みへ向かう。深い緑に覆われている山並みを越えると、徐々に植物の緑色が消え、乾燥した茶色の世界に変わる。その一部が、切り立った岩山になっていた。
 ここまでもレースのコースの一部だ。普段の練習やレースならほんの一瞬で飛び去ってしまう距離だった。今日は坂道を乗せているので、まだ速度も遅い。
 イルクは慣れたように高度を少し落とし、深くひび割れたような渓谷に飛び込んでいく。視界が狭まり、茶色の切り立った壁が自分の体のすぐ傍で擦れるように流れていくようだ。長い年月をかけて岩を削り、深い渓谷となった狭く曲がりくねった裂け目を、翼竜が身を右に左に傾けて飛んでいく。巻島でさえ気を抜くと左右に体が振られて気持ち悪くなることがある。ひょうひょうと風が耳元で鳴る。それでも、まだ崖のゴツゴツした感じが見える分、坂道に配慮して遅く飛んでいる。
 普段はただの茶色の壁にしか見えないほどの速さなのだ。ともすれば、曲がりくねっていることすら見えないほどだ。翼竜も、巻島も、速度でほぼ何も見えなくても苦労しないほど道を覚えているからできることなのだ。
 渓谷の向こうに緑の山が見えた。カーブの終了だ。
「坂道、体を伏せてしっかり掴まるッショ」
 巻島が言い終わらない内に渓谷から一転、岩肌に沿ってほぼ真っ直ぐに翼竜が空に向かって上昇する。翼竜の背にへばりつくようにしがみついていないと、上っていく風圧に押され、下への重力に引っ張られて落ちてしまいそうだ。視界を維持する硝子の覆いをつけていなければ、風の強さに目も開けていられない。