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【弱ペダ】第2話 まきしまさんと妖精のさかみちくん

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 これまではある程度歳を重ねた相手だったから、相手が何かと慮ってくれて勘弁されていたようなものだ。
「ああ、気を付けるっショ」
 巻島は茶を啜りながら答えた。

 空が赤く染まる頃、巻島と東堂は再びゾーラの家に向かっていた。森の中はすでに暗くなっている。黒く沈んだ木々の上の空が、夕焼けの赤と、まだ沈み切っていない太陽の黄色が、雲を複雑な色に染めていた。
 ゾーラの家からは、一足先に明かりをつけたと見えて暖かい黄色い光が漏れている。
 コツコツ、と遠慮気味に扉を叩くと、ゾーラが出迎えた。
「お待ちかねよ」
 そうにやりと笑った顔が、少しやつれて見えた。一歩部屋に踏み込むと、坂道が二、三歩歩きかけて、はっとした顔をする。そして、ふわりと宙へ浮くとパタパタと飛んできた。今日はそれを延々とやらされたのだろう、途中から顔が半泣きに崩れた。
「巻島さぁん!」
 泣き声で途中まで飛んだ勢いのまま、巻島に自由落下で飛び込んでくる。坂道がどしん、とぶつかって巻島の首っ玉に齧りついた。
「お、おい……。坂道……?」
 巻島がちゃんと迎えに来た安堵なのか、ぐしゅぐしゅと泣いたままだ。ゾーラの方を向いて、今日の首尾を尋ねる。
「まぁ、力は使えなくないわね。後は使うことに慣れれば大丈夫だと思うわ」
 ゾーラの答えに、巻島は少しほっとした。使わないことで、坂道の力がなくなってしまうのではないのかと心配していたからだ。
「助かったっシ……です」
 ゾーラと約束していた金貨を渡す。そして、市場で買った焼き菓子も渡す。
「あら」
 ゾーラが袋から零れ出る甘く焼いた香りに顔を綻ばせる。
「うま……、美味しかったので。良かったら食ってくれっシ……、ください」
「いただくわ」
 ゾーラに挨拶をして、巻島たちは妖精の家を後にする。最後には少し機嫌を直したのか、坂道はゾーラに小さな声でやっと挨拶をした。随分と厳しく指導されたのだろう。
「よし、帰るっショ」
「はい」
 まだ少し鼻を啜っている状態だが、家に帰れると判って坂道は笑顔になる。暗くなった森の中をランプを翳して歩く。
「練習きつかったか?」
 妖精の事情や実態については、聞いても答えが返ってこないのが当たり前だ。話すのはタブーとされているから、他の種族からは尋ねないことが一種礼儀ともなっている。が、巻島は坂道が今後も練習をする意思があるかどうか、確認したかった。
 きつかったか、と言う問いに頷いた坂道は、ちょっと躊躇ってから、おずおずとだが口を開いた。
「でも、僕もうちょっと練習してみたいです」
 巻島の方を伺うような顔で見上げてくる。
「いや、お前がやってみたいなら、それが一番いいっショ」
 むしろ、イヤだと言われたらどうやって練習を続けることを説得しようか困っていたところだ。坂道にやる気があるなら何よりだ。
「はい、僕頑張ります! ……ちょっと、ゾーラ先生怖いですけど……。あっ! 折角教えてくれてるのに、怖いって失礼ですよね! でも、ちょっとあの勢いには押されちゃうっていうか……、逆らえないっていうか……」
 坂道の言いたいことは判らないでもない。
「あっ、でも、ちゃんと僕が判ってるか、待って見ててくれるんです。それに……、その……、えーと。いろいろな使い方も見せてもらったので……」
 坂道は詳しいことは言えないけど……、と言いたげな遠回しな表現と気まずそうな顔をしながらも、力の使い方を習うということに前向きになっているようだ。
「そうか。なら良いっショ」
 巻島はそう言って、坂道の頭を撫でた。
「妖精のことについては、色々と学べただろう?」
 東堂が当たり前のようについてきて、坂道へ話しかける。
「はい。えっと……、あの……」
「ああ、構わん。妖精のことは他の種族に話してはならないからな。ただ学べたかどうか、それだけ判ればよいのだよ」
 坂道の戸惑いを察して、東堂が前髪をはらりと払い、ふっ、と笑いながら答えた。
「はい。今日だけでずいぶん色んなことを教わりました」
「そうか。ならば俺が紹介した甲斐もあったというワケだな」
 坂道の答えに、東堂が満足げに笑う。
「ああ、助かったっショ」
 巻島もそう言わないではいられなかった。坂道が生まれた時も、今回も、東堂のツテがなければ、妖精に会うことも出来なかった。この世界には妖精はたくさんいるというのに、こちらが望んでも必ずしも会えるとは限らないし、ましてや直接話をすることなど、なかなかないことだからだ。
「なに、巻ちゃんとメガネ君のためだ」
 東堂がフッと笑うと、夕陽を跳ね返してキラリと歯が光った。種族を問わず東堂が人気があるのも納得できないでもない。多くの人々と接する仕事柄と言うこともあるだろうが、翼竜のレースでも女性が多く観戦に来ていて、レース競技に影響なくまた他の観客の迷惑にならぬようルールを守り、かつそれでも誰が一番熱く応援が出来るか、と言う応援合戦のような様相を呈していることすらあるほどだ。巻島は見たことはないが、中央の都でかなり伝統と権威のある歌劇集団の熱烈なファンも独自の規律があるとかないとか。東堂のファンはそれに似ている、なんて評価も漏れ聞こえるほどだ。一種熱狂的とも言えるそんな彼女たちに対しても、東堂は平等に丁寧に接している。
 自分には到底真似できるとも思えない。
 自分は翼竜レースが出来れば良いし、細工物も嫌いではないが、レースの資金と日々生きていくための活計に過ぎない。長い付き合いのレースの仲間はいるけれども、新たに友達や知り合いを作ろうと言う気持ちもなかった。そんな自分には、東堂のようなマメな人付き合いなど到底向いているとは思えなかった。
 そんな余りに違い過ぎる二人が、翼竜レースで互いを好敵手と認め、競い合い、挙句にレース以外でも訪ねてくるような知り合いになるとは、出会いとは全く判らないものだ。
「さて、今日の晩飯は何にするのだ? メガネ君も腹が減っただろう?」
「はい」
 東堂の言葉に坂道がすっかり元気に返事をした。
「尽八、今日も来るのか?」
 とは言え、もともと人付き合いの苦手な巻島は、ここ数日巻島の家に入り浸っている東堂に思わず聞いてしまう。
「もちろんだ。なに、夕食は手伝ってやろう」
 言外に何日も家に居るのだから、今日くらいは帰ったらどうだと言う意味を込めたのだが、まるで通じていないようだった。東堂は任せろ、と言わんばかりに親指をぐ、と立てて笑う。
「僕も! 僕も手伝います!」
 坂道も、巻島に抱き付いたまま、ハイ、ハイ、ハイ、と手を上げる。当たり前のように抱いて帰ってきてしまっているが、折角飛ぶ練習をしたのに良かったのだろうか……。と、そこまで考えて、巻島は面倒くさくなって空を見上げた。
 すっかり陽の落ちた空に、一番星がキラリと光る。
 まぁ、良いか。
 それなら、お望み通り目一杯働いて貰おう。折角だから少し凝った料理にしよう。一つ溜め息を吐いて、巻島はにやりと一人ほくそ笑んだ。

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