二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【弱ペダ】第2話 まきしまさんと妖精のさかみちくん

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

 始まりは決して望んだものとは言えないが、今は坂道が居る生活が気に入っている。だから、完全に預けてしまうつもりではなく、最初から習う必要がなくなるまで何度でも、何日でもゾーラの元へ通わせるつもりだったのだ。
「ん? 話してなかったか?」
 ちゃんと話したと思っていたのだが。巻島は坂道が追い出される、などと誤解した理由を思い出そうとした。
「食事のときか?」
 きちんと話したはずだと思うのだが、確かに家から毎度通うのだとはっきり言わなかったかもしれない。そのせいかと坂道に説明しようと口を開いたが、すぐに巻島は口を閉じることになる。ど、と言う衝撃とともに坂道が再び巻島に抱きついたからだ。
「よかったぁぁぁ」
 後半は泣き声に混ざって、ぐしゅぐしゅと泣きながら安堵の言葉を洩らす。
「珍しいわねぇ。妖精の子はそもそも好奇心が強い方だけれど、それでもこんなに他の種族を慕うほどの執着まで持っているなんて、私は聞いたことがないわ。妖精らしからぬ妖精ね」
 ゾーラは半ば呆れたような、感心したような口調で呟いた。
「ならば、収まるべきところに収まった、とでも言うしかあるまいよ。巻ちゃんも言ってみれば、魔族らしからぬ魔族だからな」
「それって自慢げに言うことなのかしら?」
「もちろんだとも。この俺の自慢の友だからな」
 東堂がどうだ、と胸を張って言ったのを、冗談だと受け取ったのか呆れたのか、ゾーラがふは、と吹き出して笑う。それが、厳しそうに見える印象から、一瞬ひどく可愛らしく見せた。
「さ、そろそろお勉強する気になったかしら? どう、坂道?」
 ゾーラが大分泣き止んできたものの、まだしゅん、しゅんと鼻を啜る坂道に尋ねる。坂道は巻島に伺うように、何かを確かめるように見上げてくる。
「ちゃんと迎えに来るっショ」
 巻島がごしゃごしゃと頭を撫でた。大泣きしたせいか、頭髪がややしっとりと汗で濡れていた。巻島の答えに、嬉しそうにハイ、と答えると坂道はゾーラの方を振り返った。
「あの、よろしくおねがいします」
 そして、床に降り立つとゾーラに向かって丁寧に一礼した。
「坂道……」
 その坂道を見て、ゾーラが驚き戦慄く。
「せんせい……?」
 ゾーラの様子に坂道が首を傾げる。
「妖精は飛ぶのよ。飛ぶものなの」
 ゾーラはぶつぶつと呟くように、呪文のように言った。
「そう言えば、さっき飛ぶのが思い出せなかった、と言ったわね?」
 一転、厳しく問い質すようにゾーラが坂道に詰め寄る。坂道はじり、と一歩床を後退る。それを、ゾーラがすぅ、と宙を飛んだまま距離を詰めてくる。もう二人の額と鼻がぴたりとくっついてしまいそうな距離だ。
「妖精は歩くことなんて滅多にないわ。いいえ、歩いたっていい。けれど、妖精はやはり飛ぶのが大前提なのよ! 飛ぶとか飛ばないとか、考えないのよ。意識しないほど飛ぶのが当たり前なの。いい? まずは飛ぶ特訓をしますからね! 寝てても飛べるくらいにするのよ!」
「ね……、寝て……?」
 坂道は鼻先にびしりと突き付けられた指先を、恐ろしいもののように見つめて、そしてゾーラが言い放った言葉に驚いた。どうしよう? どうしたらいい? と坂道は不安げに巻島の方を見る。巻島は……。
 心の中で頭を抱えた。これは明らかに、飛べない種族と暮らす弊害だ。
「さ、行くわよ!」
 巻島が何を言うべきか迷っている内に、ゾーラが坂道の襟首をむんず、と掴むと、ずるずると宙をまるで引きずるように引っ張っていく。
「え? ま、巻島さん! 巻島さん!」
 坂道の手が空しく宙を掻く。頑張れ、としか巻島は声が掛けられなかった。それも届いたかどうか判らない。
「坂道! 羽が動いてない! 飛ぶのが基本と言ったでしょ! 逃げたければ飛んで逃げなさい」
 オホホホホ! と言う高笑いと、巻島さぁん! と言う坂道の悲痛な叫びが、ゾーラの家の一室に吸い込まれていった。ゾーラの指導はもう始まっているらしい。
「おい、尽八。大丈夫か……?」
「うーむ、どうやらスパルタ方式のようだな」
 巻島の問いには答えず、東堂が珍しいものを見た、と言わんばかりに感心したように言ったのに、巻島は後で迎えに来た時の坂道がどうなっているかを想像して、思わず天を仰いだ。

 ゾーラの家を出て、森を抜ける。そして巻島と東堂は、坂道の練習が終わる夕方まで時間を潰そうと近くの村へ向かった。巻島が仕上げた細工物を店に届ける予定だったのもある。
「うん、良く出来てるよ」
 細工物を丁寧に見た店主が、袋に入れた報酬を台の上に載せた。
「ども」
 巻島が言葉少なに報酬を懐の隠しに入れる。
「そういや、前に持ってきた翼竜の作品はなかなか好評だったよ。また出来たら持ってきてくれ。アンタのなら少々大きくても買いたいって人がいてね」
「ああ。また出来たら」
「頼んだよ」
 店主に巻島が頷いた。以前に翼竜を装飾に組み込んだ髪飾り、スカーフ留め、その他装飾品などにした細工物をいくつか作ったのだ。巻島の細工物は、鉄、貴金属の他、石、骨や角、木などが材料で、磨いた貴石や塗料をつける。その仕上がりの細かさを気に入ってくれる客が数人いるらしい。巻島自身は会ったことはないが。
 巻島と東堂は市場へ行き、野菜や果物、干した魚などの食料、そして研磨剤など細工物に必要な道具を買い足した。買い物を終えると、一息吐こうと市場の中の飲食が集まる辺りへ移動する。ぐるりと広場を取り囲むように簡易な小屋掛けの店が立ち並ぶ。広場には粗末な板と樽や箱を並べた簡易の食卓が作られていて、好きな店で食べ物や飲み物を買い、皆そこで腰かけて食べていく。焼き菓子と茶を扱う店で温かい茶を買うと、小さな木の皿に焼き菓子を幾つか乗せたものを一緒に出してくれた。開いた卓へ座ると、湯気の立つ上澄みをふうふうと吹いて啜り、ほう、と一つため息を吐いた。
「しかし、さっきのは凄かったな。全力で泣いていたではないか。ちゃんと説明しなかったのか? 巻ちゃん」
 東堂が四角い焼き菓子を摘まんで口に放り込むと、サクサクと音を立てて咀嚼する。木皿には、東堂が摘まんだ綺麗なきつね色に焼き上げたもの、カカオを混ぜた茶色をしたものが、それぞれ丸や四角い形をしたものが六つほど乗っていた。
「ちゃんとしたっショ、説明」
 巻島も丸くて濃い茶色をした焼き菓子を摘まんで齧る。ほろ苦いカカオとさっくりと焼き上げた歯ごたえが良い。砂糖が貴重品だということもあるが、甘さが控えめなのも美味しかった。優しい香りの茶とよく合って、ほっとする。
「まぁ……、全部、じゃなかったみてーだが……」
 適切かつ妥当に、だが全てを説明できていなかったが故に誤解が生じたのが、先ほどの騒ぎだ。巻島は困ったように口元のほくろを掻く。
「オマエは言葉が少ないからな。判ってくれる者ばかりではなかろう。特にまだ小さいのだから、察すると言うのも難しいだろう」
 東堂が、まぁ俺は判るけどな! と言いながら注意をしてくる。悔しいが東堂の言うことも正しい。自分では無口だと思っていないのだが、言葉が少ないのはその通りで、それでも意を汲んでくれる友人に甘えていると自分でも思い当たるところがなくもない。