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【弱ペダ】いまは

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 汗をかいたシャツを着替えて、次の授業の準備をしながら返事を打つ。何なら、今の方がかなり頻繁に連絡を取り合っている気がする。文字だけだが、高校時代同じ学校にいた時と変わらないようなやり取りだ。
 そして、ふとあることを思いついてメッセージを入れた。
「お前ンとこ、授業何使ってる?」
 すると、荒北と同じオンライン会議ソフトの名前が返ってきた。今回の休校や在宅勤務などで一気に知名度が上がったソフトだ。仕事や学生の授業だけでなく、在野のセミナーや習い事などにも使われているらしい。更には、こうしたビデオ通話が可能なソフトで、オンライン飲み会なども流行っているとか。
「今度、それで飲み会でもやってみるか」
「いいね」
 新開から喜んでいる表情のスタンプが一緒に送られてきた。
「イーネ」
 そう思わず微笑んでしまう。
 福ちゃんも誘えるじゃなァい。
 同じソフトを使っているなら、出来る。となれば、金城も誘えるし、街宮と石垣だって誘えるだろう。
 晴れて酒が飲める歳だ。と言っても、基本的に筋肉には不向きな摂取物ではある。だから、部活として禁止にはなっていないが、普段はほとんど飲まないのが当たり前――一部には毎日飲んでいると言う剛の者も居ると聞くが――になっている。だが、大きな試合の打ち上げや、合宿の最終日には酒が用意されて酒とノンアルコールとが入り乱れた飲み会になることもある。荒北も普段は飲まないが、飲めなくはない、と言うことも知っている。
 気心の知れた彼らだ。酒を飲んでも飲まなくても良い。ただ、使えるツールがあるのだ。会いたくても会えないなら、顔を見て話すのも良いではないか。他愛もないことを気のすむまで喋ったっていいだろう。
「皆誘うか」
 荒北はそう呟くと、ポチポチとメッセージを入れる。
「福ちゃんと石垣誘っとけ」
 そして午後の講義に望んだ。

 その日の授業が終わって、スマホを見ると、新開からのメッセージが届いていた。
「OK」
 と言うスタンプの後に、メッセージが続いていた。
「でも、最初は二人でやらないか?」
 文字を読んで、その意味が沁みてかっと身体が熱くなる。
「は……ッ! 恥ずいこと言ってんじゃねーよ。大体やったばっかりだろ、この前ェ!」
 スマホのメッセージアプリに付随したビデオ通話は一度やっている。自分の顔が写るのが恥ずかしくて、五分もしないで切った。それと同じことだろと思ったが、暫し考えて違うな、と思い至る。パソコンからビデオ通話をしながら、ダラダラと話すなんて、まだしたことがない。
「チッ」
 荒北はガリガリと頭を掻く。会えないのが堪える、か。こっちもだっつの。
「今日、やるか?」
 荒北はそう返事を打つと、新開が即座に承諾の返事を送ってきた。

 決めた時間にソフトを開いて待っていたら、写った向こうはパソコンの向こうに料理を並べていた。
「靖友はメシ食ったのか?」
「アァ? 今日はもう食っちまったヨ!」
「飲み会って言ってたから、すっかりそのつもりだったよ」
 荒北はそう言えばそうだった、と思い出した。最初は飲み会をしようと誘ったのだ。だが、今日は違うと何故か思ってしまった。
「いーから食えよ。俺も飲むし。アルコールじゃねーけどォ」
 茶を淹れたマグカップを掲げてみせる。
「そうかい? じゃ、遠慮なく」
 そう言って、新開が画面越しに野菜炒めとご飯を食べ始めた。ちゃんと食べたはずなのに、腹が空いてきたような気がした。
「美味そうだな、それ」
 自分だって野菜炒めを作れるが、何故だか相手の料理の方が美味しそうに見えた。明かりのせいだろうか?
「作りに行ってやろうか? 野菜炒め」
 新開が片目を器用につぶって、悪戯っぽく笑う。
 画面の片隅に写る自分の顔は、スマホでやった時よりも恥ずかしさが薄らいでいる気がする。授業で慣れたせいだろうか。それよりも新開の顔を見て安心した。直接会えない不満はあるけれど。電話だってしていたのに、顔を見て喋れるとだけで、こんなに気持ちが変わるものかと驚きもした。
 いーじゃなァい、これ。
 知らず、嬉しくなる。そして、嬉しくなった自分に少し恥ずかしくもなる。会えないのが寂しいのは判っていた。けれど、それは自分で判っているよりも、酷く堪えていたのだろう。だからこそ、この先まだ耐えられる手段を見つけて、嬉しくなったのだ。
 荒北はハッ、と笑った。
「バァーカ。いーから、家にいろ」
 それを聞いて新開が、だよな、と笑った。
 いつかのために。
 今は会えないのも、この先の二人のための時間だから。

 後日、明早と洋南のメンバーでオンライン飲み会とやらを開催した。特別酒を用意しなくても、飲み物と食事で十分盛り上がった。誰しも喋れないと言う状況が、辛かったようだ。
 更にまた後日、それを知った東堂が「何故誘わんのだ!」と言う文句を寄越してきた。東堂の方では別のソフトを使っていたので、どちらが統一するか、一頻り揉めることになった。

-- end
作品名:【弱ペダ】いまは 作家名:せんり