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【弱ペダ】巻坂を『○○しないと出られない部屋』に放り込んでみ

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 オープニングが流れた途端、坂道がうわぁ、と溢れる尊敬のまなざしで見つめてくる。巻島もその期待に応えようとしたが、よく聞いていたはずの曲なのに歌い出しからのメロディがさっぱり思い出せず、結局もごもごと途切れて、サビを何とか歌うので精一杯だった。当然、結果は低評価だ。
 と言うより、むしろ点数などないと言った方が正しいような結果だった。
 ――よく聞いてる曲と、歌える曲は同義じゃねぇ……!
 確かに、空で歌詞や曲を思い出せるほど聞き込んだ曲ではなかった。だが、巻島はそれ以上の衝撃を受けていた。たった一曲ではあるが、巻島はカラオケの難しさを思い知らされた気がしている。
 カラオケとは歌いたいか、歌いたくないか、と言う選択をするものだと思っていた。だから、巻島はカラオケを「歌いたくない」としていたのだ。
 だがどうだ。渋々であっても「歌う」ことは出来ると思っていたのに、実際はそれほど簡単なものではなかったのだ。カラオケとは曲とリズムに乗って、実際に歌詞を口に出して歌えるか、歌えないかなのだ。もちろん、上手い、下手と言う評価もあるだろうが、それはまず、歌をちゃんと口から出せることが大前提なのだ。その上での他人に聞かせる技量がどうか、と言う評価になるワケだが、巻島自身、そもそもが出来ていないとしか思えなかった。
「巻島さん……」
 打ちのめされた巻島に、坂道が心配そうに声をかける。当然ながら、扉はなんの反応もない。
「……やるっショ」
 がっくりと肩を落とした巻島は、意を決してぼそりと呟く。そもそも、こんなところで無駄な時間を取られたくない。いや勿論、坂道が一生懸命に好きな歌を歌っている姿など、こんなところでしか見られないだろう。それはそれで初めての姿を見られて嬉しくないはずがない。だが、折角の部活の用事にかこつけたデートである。一応付き合っている間柄の二人なのだ。それを、こんな情けない姿を延々見せる時間にしたくない。むしろ、二人で時間を使うなら、全力でもっと楽しい方向に使いたい。であるならば、何が何でも条件をクリアして、一刻も早くここから出なければならない。
「巻島さん」
 リモコンを手にした巻島を見て、坂道がパッと顔を輝かせた。
 次に選んだのは、一時期あちこちでかかっていた、日本のアーティストの曲だ。それこそ、ここ数年の曲のうちでも、誰もが知っている有名な曲だと言えるだろう。
 それならば、さほど聞き込んでいない巻島でも、歌詞とメロディが思い出しやすかった。一曲目よりも比較的よく歌えたと思うが、それでもつっかえたり、一部歌えなかったりしたせいで、点数は半分以下と言う成績だった。
「クハ、なんつーことやらせるっショ」
 巻島はまだ点数が及ばない悔しさがあるものの、自分が実際に声を出して曲を歌うことに少し慣れてきた感触があった。とはいえ、「確実に歌いきれるレパートリーがない」と言う問題点が浮上してくる。
「このままじゃ、いつまでかかるか……」
「そうですね……」
 巻島のボヤくのを、坂道が何事かを考えながら答える。
「巻島さん、僕、もう一回歌ってもいいですか」
 そして、坂道が尋ねてくる。
「ああ……、かまわねーが……」
「僕、ちょっと引っかかってたんです。あっ、さっき二人とも歌わないといけないって言ったのに、また何言ってんだって感じですよね。あのっ、そ、それでもですね。この提示された条件の80点て、『どういう』80点なのかなって」
 巻島も確かに、と思う。坂道が一度80点を出している。誰かが80点を取るのが条件なら、そこで扉が解放されてもよかったはずだ。だが、そうではなかった。
「歌える曲は一回きりで一発で80点出さなきゃいけないのか、何度同じ歌を歌っても良いから80点取れ、なのか。二人共歌ってそれぞれ80点なのか……」
「それとも、二人一緒に歌って80点なのか……」
 巻島の言葉に、坂道が続きを引き取った。扉に書かれた言葉から考えられる選択肢が複数ある。
「やっかいだな……」
 坂道が頷く。
「とりあえず、僕もう一曲歌ってみます」
「それで、俺か……」
 少し自信なさげに巻島が笑う。
「だが、それなら最短で出られそうだな」
 もちろん、巻島が一回で80点が取れればだが。坂道が二曲目を選曲する。今度もアニメの歌だと思われる。画面に歌詞が表示されるが、その後ろの画像がどうやらその曲を歌っている歌手のミュージックビデオらしい。
 これもそつなく歌って、坂道は80点を越したものの、やはり扉は開かなかった。
「すいません……」
 坂道がしょんぼりと謝る。
「なに、お前は良くやってくれたっショ」
 そう、ここからは巻島が男を見せる番である。巻島はさらに曲をリモコンから選択した。流れてきたのは、少し古いコマーシャルで使われていた曲だった。
 だが、巻島の健闘も及ばず、80点はまだ出ない。今度はそれでも50点を超えた。
「くそ、何かねーのか」
 巻島は確実な歌を選ぼうと、カテゴリーを見た。坂道はそんな巻島を見守っている。
 これしかねーか。
 巻島は、童謡、児童唱歌のカテゴリーを選ぶ。もう、格好つけている場合ではない。覚えているはずの童謡を片っ端から入れた。しかし、小さい秋と、春の小川を出だしで間違えた。三曲目、四曲目も惜しいところで点数が出ない。見ればどこにあったのか、坂道がいつの間にかタンバリンを手に持って、歌う巻島に合わせて一生懸命タンバリンを叩いていてくれた。巻島を盛り上げてくれるその目がキラキラと期待で輝いていて、後何曲までならそのまなざしを失わずに済むかと巻島は脇に嫌な汗を掻き始める。
 そして。最後のダメ元で選んだ「アメージング・グレース」でようやっと80点を取ったのだった。
 かちゃりと鍵が開いた音がした途端、巻島と坂道は力が抜けて足から崩れるように、床にへたり込んだ。
 やっとのことで開いた扉から、巻島と坂道がよろぼい出る。外は一体どこかと思えば、つい先ほどまで歩いていた通りだ。何事もなくそのまま歩き続けていたような錯覚に襲われる。だが、巻島の身体はとてつもない疲労感を感じていた。
「まるで一瞬だけ夢を見たようです……」
 驚いたような、気の抜けたような口調で、坂道が言う。
「ああ……。とんでもない夢っショ」
 巻島は皮肉な調子で言いながら、やっぱりカラオケだけはごめんだ、と思う。
「でも、歌ってる巻島さんカッコよかったです」
 えへへ、と坂道が笑って巻島を見上げてくる。その笑顔に、巻島はきゅうと心臓を鷲掴みにされたような気がした。くそ、こんな街中じゃなけりゃ、今すぐ押し倒して……、いや、落ち着け。
「いや……。キモイでイイっショ」
 そう言って、巻島は暴れ出しそうな己の衝動を押さえつけると、ごしゃごしゃと坂道の頭を撫でた。

-- end