二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【弱ペダ】新荒を『○○しないと出られない部屋』に放り込んでみ

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

 
「靖友」
 新開はそう呼びかけながら、目の前の荒北の体に腕を回す。
「あ? ってか、何だよ」
 荒北は新開が抱き寄せようとするのに一瞬そのまま身体を任せそうになって、ふとここが公共の場所だと言うことに気付いて、じろ、と険のある目つきで新開を制止した。流石、と新開は心の中で、荒北らしいと感心すると同時に、少し寂しい気持ちにもなる。彼が自分との関係を大事にしていることも、それだけに周囲に気付かれぬように気を使っていることも判っている。
 新開も二人の関係を気にしてないワケではない。けれど、荒北を失うことがそれ以上に耐えられない。自分を気遣って離れようなんて荒北が考えてるとしたら、それこそ何を仕出かすか判らないくらいに。そんなわけで、TPOなんてくそくらえと思っているくらいの新開からしてみれば、隙があれば荒北と親密に……、出来れば「相当」「かなり」親密にしていたいのだが。
 とは言え、荒北が新開に抱き寄せられるのを嫌ってないことも、それを喜んでいる自分に照れていることも、恥ずかしがっていることも丸判りなくらい、顔と耳が真っ赤になっているのが可愛いし、気付かれたらイヤなので黙って引き下がることにする。
「悪い、悪い」
 荒北と二人っきりなんて、出来ればこの状況を終わらせたくない。なんなら荒北が離れられないようにするためなら、二人の関係を世間に明らかにすることも厭わないとまで思っていても、こんな、二人の関係を誰かの興味を満たすためのネタに使われるのは嫌だった。
「ア? そういや、ここ何処だ?」
「さあ」
 やっと状況が違うことに気付いた荒北に、新開はもうそう言うしかない。新開もついさっき気が付いたのだから。
「さぁ、じゃねーよ。タイヤ見に来たんだろーが。それが何でこんな部屋にいんだヨ!」
 荒北が怒鳴る。と言っても、怒っていると言うよりは自分の頭を整理したくて喋っているようなものだ。
 二人は部活の休みに、買い物に出かけて来た。いつものように自転車を専門に扱う店に寄って、パーツやら道具やらを見ていた。店舗の奥まった売り場にはタイヤがあって、タイヤを見たいと言う新開と連れ立ってその一角へ踏み込んだだけだったはずだ。
「ああ、そう言えば、入ってきたはずの扉がないな……」
 新開は自分たちが歩いてきた方を振り返るが、そこは壁があるだけだ。窓のない部屋は壁も天井もクリームホワイトで統一されている。そして、新開の正面、荒北が背を向けている後ろに、一つ扉があった。
「理屈は判らないけれど、どうやらどこかの部屋に入っちまったみたいだな」
「ったァく。部屋ってンなら、なきゃダメだろーが。入口がよォ! 歩いてていきなり部屋の中に居るなんて、あるわきゃねぇ!」
 荒北がイチイチもっともなことを言う。が、部屋の中に居ると言う状況は変わらない。荒北も一頻り指摘して、それでも目の前で起こっている状況が変わらないことに納得したのか、苛立たし気に溜め息を一つ吐く。
「チッ」
 荒北が呟いて、ガリガリと頭を掻いた。
 やっぱり、こんな靖友を興味本位で誰かに見られたくない。さっさと済ませてしまおうと、新開は荒北の腕を掴むと身体を引き寄せる。
「ちょ……っ、なァにしてンだヨ!」
 荒北が咄嗟に捕まれていない腕で、新開の胸を押し返す。
「お前ナァ! こんなとこで…っ、つか、ここから出なきゃだろ、まずはァ!」
「だから、出ようと思ってさ」
 いきり立つ荒北の背後を指差す。
「出る……?」
 荒北はその指が示す先を辿って振り返ると、扉に「ハグしないと出られない部屋」と文字が現れている。貼り紙やモニターが設置されているようでもない。と言って、扉に直書きされているようでもない。まったくもって不思議だ。
「アァ?! なんなんだよ、アレェ!」
 見た途端に荒北が苛立って問いただすように新開に詰め寄る。まぁ、そうだよね。
「所謂『○○しないと出られない部屋』ってヤツかな」
「なんだソレ」
 おっと。荒北が気色ばんだ様子で新開に詰め寄ってくる。その目が本気で怒っている時の迫力になっている。
「どういう仕組みか全く判らないけど、何の脈絡もなくこうして部屋に閉じ込められる。そして、提示された条件をクリアしないと、この部屋から出られない。まぁ……、定番の組み合わせとか、意外な組み合わせで閉じ込められたりするらしいけど。要は一部の人たちが喜ぶシチュエーションてわけだ。それが今回は俺と、靖友」
 登場人物にこういうメタ発言させるのもどうかと思う、と思いながら、指を銃の形にして新開は荒北を指差す。案の定荒北は何のことだか判らない顔できょとんとしている。だが、その判らなさが、荒北の怒りに本格的に火をつけたようだ。
「『○○しないと出られない部屋』ァ? ナメてんのか、アァ?」
 荒北はそう言うと、つかつかと扉に近づいて取っ手をガチャガチャ回したり、扉を引っ張ったり押したりしている。果てには、スライドドアかと疑って、横に引く始末。だが、扉はいっかな開かない。
「くそ……っ、どうなってんだ」
 荒北がドン、と苛立ちで扉を叩き、部屋の中をぐるりと見回す。新開も倣って部屋を見るが、正方形に近い部屋はがらんとしていて、何もない。部屋は明るいにもかかわらず、天井や壁に照明すらない。恐らくはドアを叩き壊せるような得物となる何かを求めていたのだろうが、残念ながらそれは見つからなかった。
「くそっ、いきなりこんな部屋に閉じ込められるとか、あるわけねーだろ!」
 荒北はまだ諦めきれないらしい。
「おい、新開! お前はそっちから確かめてみろ」
 そう言って、壁を曲げた指の関節で叩いて確かめる。
「OK、靖友」
 新開は、半分こうしたクリア条件が提示された部屋では、おそらく調べても無駄足になるだろうと思いながらも、荒北の言うとおりにする。もしかしたら、本当に気付かなかっただけで誰かの悪戯で閉じ込められた可能性もなくはないと思っていたからだ。だが、壁はコンクリートか分厚い板で作られているらしく、どこも壊せそうな薄さの音がしなかった。
「床か?」
 荒北と新開はついでに床もどんどんと隅から踏み鳴らして確認してみるが、床もみっしりとした建材が使われているようで、薄い部分はどこにもなかった。
「天井じゃねーだろーな」
 荒北はだっと走り出し、その勢いで壁を蹴って天井へ飛び上がる。そして、天井を拳で殴った。
「イッテ!」
 ごつん、とそれは大きな音がして、荒北が流石に痛みを訴える。
「靖友、大丈夫か」
 着地したものの、手を押さえて蹲る荒北に、新開が駆け寄る。暫くはぐっと痛みを堪えていた荒北は、がばっと顔を上げて立ち上がる。
「オイオイオイ、マジかヨ! コイツはヤベェぞ、新開!」
 荒北が新開に詰め寄る。
「どこにも換気口がねェ……。早く出ねーと、窒息しちまう」
 荒北が新開の胸倉を掴まんばかりの勢いで言う。その顔が青ざめていた。
「そりゃマズイな。じゃぁ、はい」
 新開が両腕を開く。
「ハァ? お前この状況判ってんのかァ?」
 一瞬目をぱちくりして、荒北が機嫌悪そうに言う。
「落ち着けよ、靖友。おめさん、忘れちまったのかい?」