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セブンスドラゴン2020 episode GAD

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Prologue


 Phase1 無垢なる暗殺者

 暗闇に包まれたビルの中を、男が息を切らせて駆けていた。
「はあっ……はあっ……!」
 肥満体の男は、顔中汗まみれにし、ドアを開けて部屋に逃げ込んだ。しかし、逃げ込んだ先には既に人がいた。
 男が逃げ込んだ部屋に立っていた人物、その顔は暗がりでよく分からないが、背格好からして少女のようだった。
「ひっ、ひいっ……!」
 男は再び逃げようと、ドアの方を振り返った。しかし、少女が常人ならざるほどのスピードでドアの前に回り込まれてしまった。
「ざーんねん、もう逃げられないよー?」
 少女はナイフを取り出し、切っ先を男に向ける。
「ひっ、ひええ!」
 男は、恐怖のあまりに腰を抜かし、その場に尻餅をついた。そこへ少女がゆっくりとにじり寄る。
「まっ、待ってくれ! 頼む、見逃してくれ! そそ、そうだ、金ならいくらでもやろう!」
 少女は男に最も接近すると、屈んで男のネクタイを掴み、ナイフの先端を首に突き付けた。
 互いの息遣いが分かるほどに近付いた事で、少女の顔立ちがはっきりする。
 編み込んだ赤い髪が特徴的であり、目鼻立ち整った、おおよそ人殺しなどしようがないと思えるほどに、あどけない少女であった。
「おじさーん? わたしはねぇ、お金には興味ないんだー。だってもういっぱい持ってるもん」
 話し方も年端のいかない少女のそれであった。
「ななな、なら、欲しいものはないか!? 何でも用意して……ひいっ!?」
 少女は、ナイフを男の鼻先に向けた。
「見苦しいよー、おじさん。死際はもっと潔くしなきゃ。あー、でも欲しいもの、思い付いたかも?」
「いい、言ってみろ! すぐに用意……!?」
 男は突如、声を出せなくなった。それは、少女がナイフで男の声帯部分を寸分の狂いなく切り裂いたためだった。
「……早く静かにして欲しい、かな」
 少女は続け様に男の心臓を貫き、完全に息の根を止めた。
「もう終わったか。さすがの腕前だな……」
 男の殺害が終わった途端、少女は後ろから呼びかけられた。
「っ!?」
 油断していたわけではなかった。これまで一度たりとも背後を取られたことのなかった少女が、初めて背後に立たれた瞬間であった。
 少女は、斜め前方に飛び込んで回転し、体勢を立て直した。そして腰から銃を抜く。
 少女の後ろに現れたのは、暗がりでもよく分かる、まっさらな白髪の頭をした、背の高い少年であった。
「そう警戒するな。俺は敵じゃない、お前にその男の始末を依頼した客だ。銃を下ろせ」
 少年は両手を上げ、戦うつもりはないという意思表示をする。
 見たところ丸腰であり、背後を取った瞬間に攻撃してこなかった事も考えると、戦意はないと思えた。
 しかし、状況が状況であり、完全には信用ならない。そのため、少女は無言で銃口を向け続けた。
「信用ならんか。まあ、仕方あるまい。俺の名は鴫原統治(しぎはらとうじ)。ムラクモ機関の者だ」
 少年、トウジは名乗り、素性を明かした。
「ムラクモ、機関? 聞いたことのない組織だね」
「それはそうだろう。ムラクモ機関は日本政府公認の極秘組織だ。尤も、都市伝説として知られているようだがな」
 少女は、トウジが出任せを言っているとは思えなかった。自分の所属組織を明かすことは、この世界においては相当な事である。本当に何かの用があるために、わざわざ姿を現したのだと思った。
「日本政府に味方する人が、わたしのような殺し屋に依頼だなんて。わたしを誰か知らないのかな?」
「もちろん知り及んでいる。欧州最強と名高い暗殺者だとな。銃を使うのはよほど危機に迫った時で、ナイフでの音無しで速やかな殺害を得意とするらしいな」
 そして、とトウジは続けた。
「その類い稀なる殺しの腕前にも関わらず、いずれの組織にも属さぬため、その力を危険視された者らから刺客を送られ続ける、ターゲット『D』その者だという事もな」
「よく知ってるようだね。ということは、君もその刺客の一人ってことだね!」
 少女は引き金を引いた。大きな銃声と共に弾丸がトウジを撃ち抜いた。そのはずだった。
 弾丸は、トウジの眉間の前で動きを止めていた。やがて推進力を失い、カラカラと音を立てて床に転がった。
「ふん、デコイを展開しておいて正解だったな。しかし、発砲したということは、最早話し合いは通用せんな。少しばかり手荒く行こう!」
 トウジは手をかざした。
「マナパワーを弾丸へ変換、くらえ!」
 トウジの体が一瞬青く輝くと、かざした手から赤と黒の光弾が放たれた。
「っ!?」
 少女はとっさに身をかわした。少女を外した光弾はそのまままっすぐに突き進み、少女の後方の窓ガラスを、けたたましい音を立てて割った。
 少女はすぐに体勢を整え、トウジに銃口を向け、更に二発発砲した。
 しかし、やはり弾丸はトウジの体に到達する前に止まり、地面に転がる。
「あれをかわしたか。その身のこなし、敏捷性A級……いや、まだ分からんな」
「驚いちゃったよ。まさか超能力みたいなものを使える人がいるなんて」
「ふん、超能力などというちゃちなものではない。これはマナを使った紛れもない魔法だ。俺の見立てが正しければ、お前にもあるはずだ。隠された力がな」
 銃は最早通用しないと悟り、少女は銃をしまった。
「お見通しってことかな? なら見せてあげるよ。わたしのとっておきをね……」
 少女はナイフを逆手に持ち、自身を最強の暗殺者たらしめている特殊な力を発揮する。
 一瞬にして間合いを詰め、ナイフを振るった。
「隠し味だよ!」
「ぬっ!?」
 少女のナイフの刃が、泡立っているような緑の光に包まれていた。
 科学では解明できない猛毒を含んだ刃が、これもまた非科学的能力によって展開されていたトウジの障壁を溶かし、破壊した。
「触れれば焼くぞ!」
「っと!」
 トウジは、炎の障壁を作り、少女の追撃を防いだ。
 少女はすぐさま危機を察知し、距離をおいた。
 二人の間に広く間合いがあいた。
「……その力、確信したぞ。お前は敏捷性S級能力者、タイプ『トリックスター』だ」
「トリック、スター?」
 ふと、遠くからサイレンが聞こえてきた。
「ちっ、銃声を聞かれたか……」
 トウジは舌打ちした。
「戦いはこれまでだ、ここは俺が引き受ける。お前はさっさと逃げろ」
「引き受けるって、わたしの代わりに捕まるつもり?」
「心配は無用だ、警察ごときに我らの力を暴くことなどできん。さっさと行け」
「…………」
 少女は、トウジの意図が理解できず、なかなか動けなかった。
「そうだ、忘れ物だ」
 トウジは、ホルダーからカードを抜き取り、少女へと投げつけた。
 少女はそれを難なくキャッチする。
「お前の力を貸して欲しい。一ヶ月後、都庁前にて待っているぞ」
 少女はようやく意図が理解できた。受け取ったカード、ムラクモ選抜試験の招待状を上着のポケットに入れ、素早い動きで窓から去っていった。
「行ったか……」
 やがてサイレンの音が最も近付き、どかどかと警察が部屋になだれ込んできた。
「動くな!」
 警察は銃を構え、部屋を見渡す。
「誰もいない!?」
 部屋には、血の海に沈んだ男の死体が転がるだけであった。