小説版アマガミ ~森島先輩はそこにいる~
休み時間に薫にそう言われて、相変わらずの謎の直感力の鋭さに驚いたが、今度こそこの胸の内を悟られてはいけないと思った。何故なら、その時の僕は、彼女の魅力に魅せられて、好きになってしまう一歩手前のところまで来ていたからだ。
これはさすがに危ないと思い、薫が去った後、冷静になるために屋上へ向かった。
国語の授業中。
今の自分の心情をそのまま表す言葉を知りたいという欲求が起こって来、気づけば僕は机の上に乗った国語辞典を手に取ってページをめくっていた。
『愛(いと)しい……かわいい。恋しい。慕(した)わしい。』
うん。良い言葉だ。
僕は咀嚼して、飲み込み、さらに良い言葉を欲して『慕(した)わしい』の語を調べた。
『し』のページをぺらぺらとめくる。
『慕わしい……心がひかれて、そばに近づきたくなる気持ち』
これだと思った。
一言一句を味わいながら再びその文を読んだ。
これこそ、今の僕のどうしようもない心情を言い得ていると思った。
今朝起きた時の、あの、誰かに手を伸ばして抱きしめたいと思うような気持ちは森島先輩への『慕わしい』気持ちが溢れたものだったのだと納得した。
僕は満足して国語辞典を閉じた。
子供の頃に、親から誕生日プレゼントにゲームソフトを買ってもらった時や、親戚からお年玉をもらった時を思い起こすような、得した気分が残った。
作品名:小説版アマガミ ~森島先輩はそこにいる~ 作家名:美夜(みや)