終わりのない空4
アムロは一礼すると退室し、予約してあった自身の部屋へと向かった。
そのアムロの後をラグナス少佐が追ってきた。
「アムロ大尉」
アムロは振り返ると、こちらを見つめるラグナスに視線を向ける。
「ラグナス少佐…」
「少し話ができるか?」
「…はい」
アムロはそのままラグナスを自身の部屋へと招き入れた。
「コーヒーでいいですか?」
「ああ、ありがとう」
先ほどブレックスがいた部屋程の広さは無いが、それなりのランクの部屋をクワトロが取ってくれたらしい。
部屋に備え付けのコーヒーメーカーでコーヒー淹れて、ソファに座るラグナスの前に置く。
「少し背が伸びたか?顔色も良い」
「え?あ、はい」
自分を心配するラグナスに複雑な表現を浮かべる。
「すみません…僕が脱走した所為で、少佐には迷惑を掛けてしまったんですよね…」
「大した事はない。准将が取り立ててくれたお陰で降格も免れた。それに、私も君はあのままあそこに居るべきではないと思っていた」
「ラグナス少佐…」
相変わらず表情は読めないが、少なくとも自分に悪意は持っていない事は分かる。
「クワトロ大尉達は良くしてくれるか?」
「はい、あの人達のお陰で人並みの生活が出来る様になりました」
「そうか…。クワトロ大尉とはあれからどうだ?」
「え、クワトロ大尉と…ですか?」
ラグナスの質問の意図が分からずキョトンとした顔をする。
なんだろうと考えを巡らし、そう言えばオーガスタにいる頃は、とにかくクワトロを警戒して口すらきかなかった事を思い出す。
「ああ、初めはやっぱり警戒してしまい、口もまともにきけませんでした。今でもまだ少し緊張しますけど、大分普通に会話が出来るようになりました」
「会話だけか?」
「え?まぁ、揶揄われてますね」
アムロの答えにラグナスが口元に手を当て少し思案する。
「ラグナス少佐?」
「いや、何でもない。そうか、まだその程度の関係なんだな」
「その程度?…確かに、アポリー中尉やロベルト中尉程砕けて話したりはしないですね」
「そうか…」
ラグナスの意味深な表情にアムロが首を傾げる。
しかし、ラグナスは小さく笑うだけで考えが読めない。
「ブレックス准将からの要請だが、まだ心の傷は癒えていないだろう?無理に引き受ける事はない」
ラグナスの言葉に、アムロはビクリと肩を竦ませる。
「でも…准将は僕のパイロットとしての復帰を望んでいるのですよね…。それに、クワトロ大尉達も近々その組織に加わるのでしょう?」
「そうだな、月のアナハイムから戦艦が完成したとの連絡が入った。三人はその戦艦に搭乗する事になる」
「そうですか…」
暗い表情を浮かべるアムロに、ラグナスは席を立つとアムロの隣へと移動する。
「もしも、一人になるのが嫌なのならば、私と一緒に暮らすか?」
「え?」
「私はパイロットではないからな。アーガマ…その戦艦に乗艦せずに月に常駐する事も可能だ」
顔を覗き込む翡翠色の瞳にアムロは息を飲む。
何処かで見た事がある懐かしい瞳、その瞳に惹きつけられて目が離せない。
「ラグナス少佐…」
「どうだ?アムロ大尉」
「…どうして…そんなに良くしてくれるんですか?」
「理由か?」
「…はい」
答えるアムロの頬に手を添え、そっと口付ける。
「君の事が気に入っている。君とクワトロ大尉がそう言う関係では無いのならば遠慮する必要はないからな」
「クワトロ大尉と…そう言う関係?」
アムロは突然の口付けと、クワトロとの関係を聞かれて困惑する。
「分からないか?」
思ったよりも色恋事に疎いアムロに、もう一度口付ける。
今度は触れるだけではなく、舌を滑り込ませて深く。
「んん…」
ラグナスはアムロの後頭部を固定し、逃げられないようにして口付けを深めていく。
アムロはそれに抵抗する事も出来ず、為すがままにそれを受け入れた。
ようやく解放されて、必死に息を吸い込みながら、朦朧とした瞳をラグナスに向ける。
「アムロ、こう言う大人の関係の事だ。私は君にこの関係を求めている」
「ラグナス…少佐…?」
と、そこにコンコンとドアをノックする音がする。
入り口へと視線を向ければ、既に部屋へと入り、内側からドアをノックするクワトロがいた。
「クワトロ大尉…」
「おや、早かったな。クワトロ大尉」
「准将との話は直ぐに終わりましたから」
「そうか」
ラグナスは何事も無かったかの様に立ち上がり入口へと向かう。
そして、すれ違いざまにクワトロへと余裕の笑みを浮かべる。
そのラグナスを、スクリーングラスの下からクワトロが睨み付ける。
「ラグナス少佐、あまり勝手をして貰っては困る」
「そうかい?すまなかったな」
ラグナスはドアに手をかけると、振り返ってアムロへと声を掛ける。
「アムロ大尉、私は本気だ。考えておいてくれ」
そう言うと、軽く手を振り部屋を出て行った。
残されたアムロは、状況を上手く飲み込めず呆然とする。
そんなアムロへとクワトロが歩み寄る。
「大丈夫か?」
「…クワトロ大尉…」
口付けの余韻の残る唇に指を這わせ、アムロは何が起こったのか分からないと言った表情でクワトロを見上げる。
そのアムロを、クワトロが思い切り抱き締める。
「ク、クワトロ大尉⁉︎」
「……アムロ…!」
絞り出すようなクワトロの声にアムロは驚く。そして、クワトロから伝わる激しい感情に目を見開いた。
To be continued
すみません、力尽きました。
なるべく早めに続きを書きます。