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彼方から 第三部 第七話 & 余談・第四話

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 彼方から 第三部 第七話

 ――また、邪魔『モノ』……
 
 セレナグゼナの街……
 小高い丘の上に建つ、瀟洒な館――街の者は皆、そこを『占者の館』と呼んでいる。
 その館の前に……イザークは今、立っていた。
 侵入者を防ぐ為の、聳えるように大きな門を破壊し、震える手足でこちらに槍や剣を向けてくる、門衛として常駐しているのであろう、グゼナの兵士たちを気に留めることも無く歩を進め、しっかりと閉じられた扉の前に、立っていた。
 
 ――ノリコ……

 体の内側――その奥底から、力が際限なく、湧き上がってくる。
 自らが必要とし、欲した『力』。
 止められようはずがなかった。
 
 大岩鳥に攫われ、力を使い過ぎ、変容した姿をノリコに見られてしまったあの時……
 この『力』を制御出来なくなったらどうなるのか――どうなってしまうのか、分かった。
 だが、もう、変容は止められない。
 あの時の変容が、終わりではないことが分かっていても……
 これ以上『力』を使えば、己の精神がどこまで耐えられるのか……この身がどうなってしまうのか――分からなくても……

 『力』と共に『負』の感情が――『闇』の意識が、自我を飲み込もうと膨れ上がってくるのが分かる。
 今はまだ、耐えられる……だが!
 自我を失ってしまったら、理性を失ってしまったら……何をしでかしてしまうのか、分かりはしない。
 それでも……!
 イザークは『力』を欲した。
 『発作』を起こした状態では……片腕を切り落とされたままでは、決して、ノリコを助け得ることは出来ない。
 彼女の命を何とも思わない連中なのだ……
 欲する儘に、ノリコを『黙面』とやらの生贄に捧げようとしている連中なのだ。
 躊躇っている場合ではない。
 間に合わなくなってしまう。

 ――あいつを……ノリコを護れるのは……
 ――……おれだけだ

 ――おれが……
 ――おれが、ノリコを護る

 『今』、この時に於いて、己の中に内在する『力』を使わないで、なんとするのか――!
 ノリコを護る。
 ノリコを取り戻す……
 彼女の姿を、声を、その笑顔を……再び見る為に。
 その『為』にも……

 イザークは、扉の閂が下ろされている辺りを目掛け、その拳を振り下ろした。
 金属が、苦し気に歪む音が聴こえる。
 だが、まだ、『壊れて』はいない。
 もう一度、その冷たい双眸を扉に向けると、先刻よりも更に強い力で、拳を振り下ろしていた。

           ***
 
 奥行きのあるエントランスが 視界一杯に広がる……
 天井がとてつもなく高い……豪華なシャンデリアが吊り下げられ、何十……いや何百もの蝋燭が明かりを灯している。
 その全てが無駄で、無意味なものにしか思えない。

 ……バンナと同じ『気』を持つ連中が、雁首を揃えてこちらを見ている。
 『黙面』とやらに、『力』を与えられた連中が……
 何の脅威も感じなかった。
 だが、数は多い――それが鬱陶しい。
 個々の力など……ただ与えられただけの力など、恐れるに足らない。 
「――ッ!?」
「なにっ!?」
「あれが奴か!?」
 ゼーナの屋敷を襲撃し、ノリコを奪い去った連中が、集団の最前列に陣取っている。
「違うぞっ!!」
「違うっ! あの時、我々が見かけた姿ではないっ!!!」
 だから何だと言うのか……
 連中の驚き様に、微かな苛立ちを覚える。
「見ろ見ろっ! 違うだろっ!! 普通じゃないだろーーっ!!!」
 仲間の後ろで、自らが正しかったと言わんばかりに、バンナが喚き散らしている。
 その耳障りな甲高い声を忌むかのように、イザークは行く手を遮り、敵意を向けてくる連中を、ねめつける様に見回していた。

 ゆっくりと歩を進める。
 まるで、魅せられたかのように、誰もがイザークから視線を外そうとはしない。
 だが……
「う……」
 戸惑い、威圧されているのが分かる。
「こいつは……」
 彼の者の異形の姿に――彼の者から発せられる『気』に、その『力』の大きさに……
「化物か……?」
 ワーザロッテの親衛隊の誰かが、そう呟く。
 その言葉に――イザークは眉根を寄せ牙を見せると、冷たく水色に光る瞳で、その場に居る全員を見据えていた。

          ***

 刻が、止まる……
 静寂が、エントランスを支配している――
 沈黙の中、先に動き出したのはイザークの方だった。

 静かに、床に滑らせるように、足を踏み出す。
 戦闘は避けられない。
 戦いの火蓋を自ら切るかのように、イザークは一気に、駆け出していた。

「来るっ!!」
 彼の者の動きに、親衛隊たちが咄嗟に身構える。
「なめるなっ!」
 丸腰で向かって来る者に対し、剣を構え、攻撃に転じる。
「普通であろうとなかろうと、我らの壁! 通しはせぬわっ!!」
 これだけの人数がいるのだ。
 『黙面様』から『力』を与えられた強者が、これだけいるのだ。
 たとえ、彼の男が本当に『化物』であったとしても、たった一人で何が出来ようか。
 敗北など、連中にとって万が一にも、有り得ることではなかった。

 トラウス兄弟の弟が、剣を振り翳し、イザークを迎え撃つべく走り出す。
「うっ!?」
 だが、その眼前から、標的の姿はフッと、消え失せていた。
 侵入者を見失い、一瞬、視線を彷徨わせる。
「跳んだっ!!」
 だが、他の仲間の声に反応し、即座に自身の頭上を振り仰ぐ。
 遥か頭上を舞う、イザークの姿が眼に入る。
 エントランスに集まった、ワーザロッテの親衛隊たちを一気に飛び越え、奥へと、向かおうとしている。
 だが……
 それをむざむざと許してくれるほど、『親衛隊』は甘くはなかった。

「跳躍など! 我らにも出来ることっ!!」

 一人の小柄な男が鞭を手に、イザークの跳躍と同じだけの跳躍を見せる。
「おれのムチは、力を何倍にも増幅できるっ!」
 与えられた力で強化された身体能力を以って、中空を舞うイザークの片足を、手にした鞭で見事に絡めとってみせた。
 自身の身を中空に置いたまま、小柄な男は鞭を引き、イザークの体を床へと叩き落す。
「それっ!!」
 更に、集まった仲間の中心にまで彼の体を引き摺り、寄せた後、小柄な男は意気揚々と床へと降り立った。
「やった!」
 不様に床に背を付けた侵入者を見て、やはり、自分たちの力の方が勝っているのだと嬉々とする者たち。
「止めだっ!!」
 更にその力を誇示すべく、親衛隊たちは剣を振り上げていた。

          ***

 ――邪魔を……するなっ!

 剣を振り上げ、群がろうとする者どもを見据え、牙を剥く……
 『この程度』のことで、勝ち誇っている『輩』に苛立つ。
 床に叩き落とせば、こちらの動きが止まるとでも思っているのか――止めを刺せると……?

 鞭で絡め捕られた片足を、思い切り引く。
 その反動で体を起こしながら床に手を着き、その手を支点として、イザークは足を振り回し始めた。

「うわわわわっ!!」

 引かれた勢いに呑まれ、小柄な男は鞭から手も離せずに、振り回されてゆく。
 どのくらい回されたのか……
「ひいーーーっ!!!」