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彼方から 第三部 第七話 & 余談・第四話

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          ***

「やれやれ……」
 三人を見送り、部屋に佇むライザから、溜め息が漏れる。
「あれがこの国の重臣連中とはな――聞いて呆れる」
 部屋中に散らばるクッションを、ライザは嘲るように見回していた。
「まぁ、だがしかし、これも仕事……やることをやらねば、報酬が貰えんからな」
 口の端が歪んでゆく。
「剣を扱うことも出来ぬ臣官長と……」
 ただ、顔に張り付けた様にしか見えなかった笑みに、感情が籠る。
「恐らく能力者だろうが、女の渡り戦士が一人――労することはない」
 自身を過信し、相手を侮り、愉悦に瞳が歪んでゆく。
「楽な仕事だな……」
 吊り上がった口元から、含んだ笑い声が漏れ聞こえて来る。
「このわたしの能力に勝る者など――居はしないのだからな……」
 言葉とは裏腹に、自重するかのように喉の奥に笑いを押し込めるが、それでも堪えきれずに、ライザは肩を揺らしている。

 足下……視界に入ったクッションを、蹴りつけ、飛ばし、部屋を出て行く。
 クッションは凄まじい勢いで壁にぶち当たり、瞬間、弾け散る。
 中身の綿が、部屋一杯に撒き散らされるのを肩越しに見やりながら、不気味な笑みを張り付かせ、ライザは廊下の先、灯明の届かぬ闇へと、姿を消した。
 
          ***

 ――後手に回るのを、忌み嫌ったのだけれど……
 ――そんな必要……なかったわね

 特別室のバルコニー……
 部屋からは死角になる壁に凭れ、エイジュは一つ、溜め息を吐いていた。
 態々『刺客』を雇い、何を企んでいるのかと思えば……

 ――帰りの道中を襲い、『盗賊』の仕業に見せかけるだけ……とはね
 
 単純――そして、短絡的。
 だが、それは確かに良くある話であり、最も、間違いのない方法なのかもしれない。
 目的を果たす為にやることは一つ……金で何でもやるような連中を集めれば良いだけなのだから……
 集めた連中がどうなろうと、襲わせた相手がどうなろうと……『盗賊』の仕業である以上、国の重臣にまで、事が上がってくることはない。
 自分たちが関わっていることが表沙汰にならなければ、それで良いのだ。
 面倒なことになりそうなのであれば……目障りな者を『全て』、『消す』……
 それで、事は終わる。

 ――『向こう側』に影響を受けている者のやることは、皆、同じね……

 邪魔者は、ただ排除する。
 どんな形であれ、どんな方法であれ……
 『向こう側』の『主』の命の儘に動いていさえすれば、都合の悪いことは皆、眼の前から去ってゆく。
 望むまま、望むモノが――望んだ地位や権力が、手に入る……

 ――そんな『力』……
 ――一時のモノでしかないと言うのに

 だが、残念なことに、国を動かす立場にある者ほど、そんな儚い『力』を欲して止まない……

「さて……そろそろ、戻らないといけないわね」

 真上に掛かる、冴えた月を見上げ、頬に身を寄せる、小さき生き物の頭を撫でる。
 バルコニーに吹き込み、木の葉を舞い上げる一陣の風と共に、エイジュの姿は掻き消えていた。


     余談・エイジュ・アイビスク編
        第五話に続く