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終わりのない空5

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終わりのない空5


「シャ、シャア⁉︎」
突然の抱擁に驚き、アムロは思わず男の本名を呼んでしまう。
「…れた?」
「え?」
「あの男に何を言われた?」
「何って…」
クワトロは一旦アムロから離れると、両肩を掴んで問い詰める。
「何を言われたんだ?」
「い、痛いよ」
肩を掴む指が食い込み悲鳴を上げる。
その声に、クワトロの指が緩んで小さく息を吐く。
「…すまない」
いつも冷静なクワトロの、感情的な行動に驚く。
「…大丈夫…」
「何故あの男とキスを?君はあの男が好きなのか?」
「あれは少佐がいきなり!それに少佐を好きかなんて考えた事もない」
「しかし、研究所であの男に抱かれていただろう?」
押し殺した様なクワトロの声にアムロがビクリと肩を震わす。
「あれは…」
その先を言おうとして、研究所での恐怖がフラッシュバックする。
「…っ」
アムロはクワトロから顔を逸らすと、唇を噛み締めて恐怖に耐える。
「すまない、思い出させてしまったか」
「……大丈夫…です」
額から零れ落ちる汗に気付き、クワトロがアムロを優しく抱き締める。
「すまなかった…」
クワトロの大きな胸に抱かれ、その温かさに心が落ち着いていく。
アムロは頬をすり寄せ、クワトロの鼓動と体臭を感じ、目を閉じる。
『なんでだろう…この人の腕の中がこんなに落ち着くなんて…』
「すみません…」
「いや、私の方こそすまなかった」
「いえ…」
アムロはゆっくりとクワトロの胸から顔を上げると、そのブルーの瞳を見つめる。
「正直、ラグナス少佐の事は自分でもよく分かりません。あの時は…ただ、薬を抜くための処理をしてくれただけだと…」
催淫作用のある薬を投与され、自分ではどうしようもなかった。そんな自分にラグナス少佐が手を差し伸べてくれた。
そこにどんな感情があったのかは分からない。ただ、あの時はその手に縋るしかなかった。
「そうか…。少佐もその時はそのくらいにしか考えていなかったかもしれないな」
「はい、だからまさか、僕の事をそういう対象に思っていてくれたなんて思いもしなくて…」
「そういう対象?」
「え?あ…えっと、大人の…その…恋愛対象として…でも僕は男だし、少佐もそういう嗜好の方ではなかった筈ですし…」
「そういう嗜好か…。そうだな、しかし元々そういう嗜好ではないからと言って同性に恋愛感情を抱かないとは限らない」
「え?」
「事実、私も元々そういう嗜好ではなかった」
クワトロはアムロの頬に手を添える。そして、ふっくらとした唇に自身の唇を重ねた。
アムロは目を見開いたまま、近付いてくる綺麗な顔を見つめ、その口付けを受け止める。
ラグナスに続き、クワトロにまでキスをされ、もう何が何だか分からない状態だった。
「ク、クワトロ…大尉…⁉︎」
「シャアだ」
「え?」
「君にとって…私は“シャア”だろう?先ほど久しぶりにその名で呼ばれて心が躍った」
「あ…えっと…」
慈しむような瞳で見つめられ、アムロはどうしたら良いのか分からず戸惑う。
「君を、少佐に奪われそうになって確信した」
「シャア?」
「私はどうやら君が好きらしい。少佐に奪われたくない」
恐ろしく整った顔の男に真剣な瞳で見つめられ、息を飲む。
『こんな綺麗な人が…僕を?』
平凡な容姿で、モビルスーツを操縦するくらいしか能のない自分を好きになる理由が思い当たらない。
あるとすれば…。
「…それは…僕がララァと同じニュータイプだからですか?それに…戦力として必要だから?」
不安げな瞳で見上げるアムロに、クワトロが小さく首を横に振る。
「そうではない。君だからだ」
「だって、僕を戦力にする為にあそこから逃してくれたのでしょう?」
「確かに、その目的でオーガスタ基地に潜入した。しかし、あそこでの君の様子や、今の穏やかな君を見て、そんな事はどうでも良くなった。君が幸せならば無理にパイロットに戻る必要はないと思っている。ただ、君と共にありたい」
「でも…僕は平凡だし、モビルスーツに乗る事しか出来ない…。貴方が僕を好きになる理由が分からない」
「そう思っているのは君だけだ」
クワトロは柔らかなアムロの癖毛に指を絡めて優しく梳く。
「この柔らかな髪も心地良いし、普段は内向的な癖に意外と気が強くて負けず嫌いなところや、料理を美味しいと褒められた時の、少しはに噛んだ笑顔。一緒に過ごすようになって、君のふとした仕草に心が躍り、目を奪われた」
蕩ける様な笑顔でそんな事を言われ、アムロの顔に熱が集まる。
「…で、でも…」
「まだあるぞ、この綺麗な琥珀色の瞳も良い。それから…」
「も、もう良いよ!」
段々恥ずかしくなってきてクワトロの口を掌で押さえる。
すると、その手を掴まれ掌に口付けられる。
「ひゃぁ」
思わず叫ぶアムロに、クワトロがクスクスと笑う。
「あ、揶揄っていたんですか⁉︎」
「違う、揶揄うためにキスなどしない」
そう言いながらアムロの後頭部に手を回し、もう一度口付ける。
今度は先程のような軽いものでは無く、口腔内を貪り尽くされるような激しい口付け。
「ん、んんんっ」
ラグナスからの口付けとは比べものにならないくらい激しく、それでいて自分を求め慈しむ優しさも感じる。
クワトロから向けられる想いに、アムロは驚きながらも喜びを感じていた。
『なんで…?この人は…僕を殺そうとした人なのに…嬉しいなんて…』
長い口付けから解放されて、放心した様にクワトロを見上げるアムロに、クワトロがゴクリと息を飲む。
 互いの唾液で濡れた唇、ピンク色に蒸気した頬、そして涙で潤んだ琥珀色の瞳。
「アムロ…」
「…シャア?」
クワトロはアムロの濡れた唇を優しく親指で拭う。すると、アムロが目を細めてその指をそっと舐める。
「…っ」
クワトロは唇を噛み締め、アムロの肩をグッと掴み、そのままソファに押し倒した。
「あ…」
「…アムロ、そんな無防備な顔を見せられては私の理性が保たない」
「理性…?」
トロンとした瞳で見上げるアムロに、クワトロが小さく息を吐き、自身のネクタイのノックに指を掛けて緩める。
「君が悪い…」
「…え?」
クワトロは、未だに状況を把握出来ないでいるアムロにのし掛かり、再びアムロの唇に自身の唇を重ねる。
そして、アムロのネクタイにも指を掛け、スッと解いた。

「君を抱く」


◇◇◇


 ベッドの上で、気怠い身体を起こし、隣で自分を見つめる美丈夫を見下ろせば、蕩ける様な笑顔を向けられる。
「どうした?」
こんなハイスペックな人間が自分を想ってくれているなんて未だに信じられない。
アムロはそっとクワトロへと手を伸ばし、その頬に触れる。
「本当に僕…貴方と寝たんだ…」
「嫌だったか?」
「…そんな事ない…」
少し顔を赤らめながら首を横に振る。
「そうか…」
と、ホッとした様にクワトロが微笑む。
その笑顔にアムロの心臓が跳ねる。
『何でこんなにドキドキするんだ?僕、どうしちゃったんだ?』
顔を真っ赤にするアムロを見つめ、クワトロがクスリと笑う。
「君は本当に思っている事が顔に出るな」
「なっ!か、揶揄わないで下さい!」
「揶揄ってなどいない。好ましいと思っている」
その言葉に更にアムロの顔が赤くなる。
作品名:終わりのない空5 作家名:koyuho