その先へ・・・5
タバコを3本地面に投げ捨てた後、アレクセイの視線の先に待ち人が現れた。
わずかな合図を送ると気が付き、周りに目を配りながら駆け寄ってきた。
「同志アレクセイ……。あの‥…」
硬い表情で近寄ってきたのはイワンだった。
「よう……。よく来てくれたな」
イワンは右手を差し出した。赤みの残る拳を開くと小さなメモが現れた。アレクセイが彼の右手の様子を見た時に、密かに握らせたものだった。
「悪かったな。わざわざ。店、賑わってるみたいじゃないか。忙しいのか?」
「あ、ええ……」
「今夜は厨房に立つのか?」
「いえ……今日は……。この手じゃナイフはちょっと持てなさそうなので……。それに……」
いつも明るい表情の彼は伏し目がちで、闇の中ではあるが恐らく顔色はあまり良くないのだろう。
アレクセイは少しイワンに近づき、彼に小声で告げた。
「早速だが、ルウィが探しているというアルラウネの暗号文、おまえが持っているな?」
「………」
「ミハイルの書類は膨大で一朝一夕には目を通せるものではない。だが、おれはアルラウネの筆跡はよく知っていてな。パラパラとめくるだけでもだいたいは目に留まるはずだ。それが無い。だがルウィのあの言い方だと絶対あの中にあると言っている。となると……おれの許に書類が来た時には、もうすでに何者かによって抜き取られていたという可能性が出てくる。それが真実だとすれば、出来るのはあの書類をおれのもとに持ってきたイワン、おまえだ。……どうだ?おれは間違っているか?」
ハッとしてアレクセイを見つめたイワンはギュッと口を結ぶと、ゴソゴソとコートの胸元を探り茶色い封筒を取り出し両手でアレクセイの目の前に差し出した。
「……その通りです。ぼくが……同志アレクセイに渡す前に抜き取りました。……これがフロイライン アルラウネの連絡文です」
(その先へ……6へ つづく)