宇宙に虹、大地に黄昏
「私のこと、嫌いになったでしょ?」
「何も言えないよ。君に拒否されたくはないからな」
こう答えられるのも予想できたから、あえてきいたのだ。したたかである。
そんなしたたかさとは無縁のフォルティスは、無邪気に人の弱みを握るルミナの
隠然さに対し、自分を冷笑するのである。
自分はこの程度の歳の少女に敗北したのだ、と。
しかし、そんな自己的な惻隠《そくいん》に浸る時間はない。
フォルティスはシート裏の備品を膝下に押し込み、補助シートを出してやった。
その作業が終わる前に、ルミナはヘッドレストをつかみ、シートの後方に頭から飛び込んでいた。狭いコクピットの中、フォルティスの頭上をふらつく小さな姿態はとても綺麗に見えた。
フォルティスの自尊心は既に、ズタボロだということである。
(俺についてくきたことで、後悔する時がくるだろうな・・・・・)
その独断的かつ蓋然的な思考によって、遠くを見るような顔が明確に表現された。
「後悔するのは好きじゃないから、しないよ」
ルミナが補助シートを立つ形でフォルティスの顔を覗き込み、答えてくれた。
そんな答えをきいても慰めにはならなかったが、フォルティスには機体の推力を上げていくほかはない。
それにより、数秒後には宇宙《そら》を駆ける一条の閃光と化すのである。
(こいつは、自身を背負わせて、俺が死ぬのを阻止しようとする・・・それだけの
ことをする理由は何だ・・・?)
暫くは、こんな猜疑心に苛まれるのである。
つまりフォルティスはまだ、マカリアに縛られたままなのだ。
作品名:宇宙に虹、大地に黄昏 作家名:アスキー