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灼青と珀斗 弐 ─夜話─

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────第一夜─────



夜は更けて、何一つ、音は聞こえない。
 一つの夜具の、隣で寝る、林殊の寝息を除いては。

 あどけなく、眠る林殊に、都の怪童を思わせるものは何も無く、靖王にとっては、ただの可愛らしい幼い頃の『小殊』でしかない。

 全くの無防備。
 全くの油断。


   ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼




 林殊は余程、疲れたとみえ、大嚊(おおいびき)をかいて、盛大な歯軋りをし、、、、やっと静かになった。
 それもそうだろう。
 あの後も、遠回りをして金陵に戻ったが、『珀斗が物足りないと言ってる』と言って、日暮れまで乗り回していた。
 林殊は、『川で汗を流してきた』と言って、さっさと靖王の衣服に袖を通した。
 その後は『腹が減った』と、牛の丸焼きでは無かったが、たっぷり用意していた肉料理を、平らげ、書房で幾らか話をしていたら、林殊は、瞬く間に眠気に襲われた様で、舟を漕ぎ出した。
 そして、従者が、書房に夜具を整えている間に、林殊はたちまち、爆睡してしまったのだ。
━━仕方のない奴だな。━━
 すっかり、力が抜けて重くなった林殊を、抱き上げ、夜具まで運んで、寝かせようとした。
「珀斗ぉ、、、、。んふふふ、、。」
 ぎゅっと、靖王の首を抱き締める。
━━小殊、、、私は珀斗か?、、、。━━
 だが、靖王も満更ではなく、こんな幼い頃のと変わらぬ林殊が、可愛いく見えて仕方がない。
 林殊に、馬と間違えられても、不満どころか、微笑ましく思えてしまう。

 靖王府に移って、色々と周りが変化した。
 皇宮から出、新府を構え、まだ半年と経たない。
 雑事に忙殺されて、振り返る時間も余裕も無く。

 何故か今、この時、林殊が側に居る事で、初めて孤独に気がついたのだ。
 『早く一人前にならなくては』、そんな緊張感が、心のどこかに常にあった。
 一人でとる食事の間も、次第に増えてきている執務の時間も、皇宮にいた時とは余り変わらないのに。靖王府では何かが違った。
━━ずっと馴染み親しんだ、官女や太監が居ないせいかも知れないな、、。だが、皇宮の者を、連れてくる訳にはいかない。皇宮の者は、皆、父上の為にいる者なのだ。━━
 靖王府の家職や従者は、全て祁王が手配してくれた。皆、信頼のおける者達だ。
 何一つ不満はない、心配も、不安も無いはずなのに。
 皇宮を出てから今日まで、周りも見ずに、ただ、必死に駆けていた様な気がした。
━━周りも見ずに、、ふふふ、、馬と一緒だな。━━
 普段は腹八分目に、そう習慣付けていたのだが(静嬪がそう躾けた)、林殊につられ、貪るようにたらふく食べ、珀斗や灼青の事を語り合った。
 林殊の苦労話も聞いた。
 珀斗と一緒に厩で寝たら、潰されそうになった事や、林殊が珀斗に、いかに信頼をさせていったのか、等。ほぼ自慢話だったが。
 聞いていて嫌ではなかった。
━━こんなに楽しい夕餉は、久方ぶりだった。━━
 林殊は鼾をかきだし、深い眠りに落ちていく。
 普段なら林殊は、無闇に、人に髪や体に触れられるのを嫌がる。
 塵が髪に着いていても、何が嫌なのか、人に取らせることは無い。接触出来るのは、靖王や霓凰や林殊の母親
位だろうか。
 それが今は、、、。
━━触り放題だぞ。こんなに深く眠って、お前、、、武人として、どうなんだ?━━
 鼻を摘もうが、耳を引っ張ろうが、首筋をくすぐろうが、何をしても目を覚まさない。
 ふっくらした頬や、艶やかな髪、ついつい触りたくなってしまう。小さな可愛い『小殊』なのだ。
 整った目鼻立ちは、林家の血筋だろう。腕や足、背中は、幾つも傷跡があるのに、顔にはひとつも無い。日に焼けても、そこらの男のように浅黒く焼けたりはしない。元々が色白なのは、一目瞭然だった。
 林殊は、幼い頃から、外で遊ぶのが好きだった(屋敷の中だと、物が壊れるという説がある)。母親の晋陽公主と度々皇宮を訪れては、靖王と遊んだ。奔放な林殊は、靖王に謙ったりしないので、ほぼ靖王が子守りをした形だが。だが、靖王はそれが嫌ではなかった。寧ろ、林殊の訪門を、待ち遠しく思っていたのだ。まるで、本当の兄弟の様だ、と周りの者の顔は綻びた。林殊も靖王も、そう言われて、嬉しかった。
 靖王の母親は身分が低く、皇宮の中でも、明白(あからさま)に差別をしてくる官女や太監も、少なからずいるにはいた。だが、靖王の生母、静嬪は、元々は宸妃の為に、林家が遣わした医女でもあった為、そう酷い扱いは受けてはいない。静嬪を虐めれば、気性の強い宸妃が黙ってはいない。
 静嬪を虐げたなどという話が、宸妃の耳に入ろうものならば、その気性故、太監や官女達は、宸妃に酷く罰せられる。堪ったものでは無い。
 静嬪を、貶める官女や太監は、決まった者達だ。皇后や、特に越妃付きの者達だった。
 静嬪は、女官や太監から、不当な扱いを受けても、宸妃には言わずに、黙していた。気性の激しい宸妃が、騒ぎを起こすのを避けたのだ。騒ぎを起こして、宸妃が叱責される様に、きっかけを作ろうとしていたのは、察せられた。
 やられっぱなしで黙ってはいない宸妃の気性は、武門の一族の気性、そのものだ。
 武門の林家の一族だけに、容姿だけではなく、一族の気性も、林殊は受け継いでいた。何事にも常に強気だった。何処から来るのか、物事に、絶対の自信があった。
 その姿が、周りの者には些か不遜に見える事もある。


━━ん?。━━
 靖王は何かを見つけた。
━━髪紐が切れそうだ。、、、、ああ、湖で珀斗が、噛んで遊んでた時に、、。━━
 見れば見る程、髪紐は切れてしまいそうで、心配になる。
━━疾走している時に切れて、外れてしまったら、、━━
 林殊が、珀斗に跨り、疾駆する。
 髪紐が切れ、林殊の結い纏めた黒髪が、ハラハラと解れ、風に靡く様が、靖王の脳裏に浮かぶ。
━━、、、、、、危ない。
髪が気になって、珀斗に落とされたらどうする?。
、、、、、非常に危険だ。━━
 馬上の林殊の、解けた髪が、風に弄ばれる。髪は林殊の顔に掛かり、、、馬上の林殊は目を伏せる、、、。
━━あぁぁ、、、小殊!、なんて危ないんだ!。切れそうな紐は直しておかねば!!!。━━
 靖王は、林殊の横たわる、寝台の枕元に座り、髪紐を外した。
 張りのある林殊の髪は、忽ち解けてゆく。豊かな髪が、枕の上に広がっていく。
 髪まで解かれても、林殊は、全く起きる素振りも見せない。
 靖王は、切れそうな部分を、しっかりと結び直した。
 そして、紐を元通りに戻そうと、眠る林殊を起こさぬように、手櫛でそっと髪を纏めていくが、元気な林殊の髪は、中々言うことを聞かない。
━━都の怪童は、髪の毛まで、とんでもなく元気だ、、。とても元通りには出来ぬ。、、、つか、寝てる人間の髪を結うなんて無理。━━
 靖王は、結うのを諦め、仕方なく、林殊の枕元に紐を置いた。
 そして、乱れた髪を指で梳いて、整えた。
 林殊の髪は滑りが良く、いつまでも触ってしまいたくなる。
 林殊が起きている時には、絶対に出来ない事だ。林殊が嫌がるからだ。
 横向きになった、林殊の顔にかかった髪が、後ろにいくように、丁寧に、ゆっくり、指で梳いてやった。