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宇宙に虹、大地に黄昏 プレアデス

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プレアデス


フォルティスが招待されたのは、中央に長方形のデスクがあり、鉄板で構成された内壁をもつ、質素な部屋だった。おおよそ、会議室といったところであろう。
部屋の奥に立つ男は、手にしたディスプレイに目を通しつつ、部下らしい男に指示を出していた。
彼はフォルティスが入室したのを視認すると同時に、早急に退室するようにと命令を付け加えたようだった。
「君がマイア君だな?周知かも知れないが、私はレインズという。わがレジスタンス、プレアデスの実質的な代表をやっている」
さすがのフォルティスも、この男は知っていた。彼は、年齢による貫禄もあってかジオンの高官だったとか、軍に太いパイプを持っているとか噂されていた。実際、こうして目の当たりにすると、筋骨隆々で厳格な顔立ちが印象的であるし、ネオ・ジオン将校の制服を着ているのだから、納得がいった。武人というのが現代に存在するのであれば、こうなのであろう。
「彼女はルミナ・エレクトラ。人事や経理関係の担当だ。こんな小規模な集団でも管理というのが必要でな」
レインズは、自分とフォルティス以外で部屋に唯一残った少女を紹介した。彼女はレジスタンスにはとても似つかないほどの小柄で、神経の過敏さを感じさせた。
「早速で恐縮だが・・・」
レインズは少し声量を落とし、陳謝するような態度をしてみせた。
「君にモビルスーツ1機、並びにパイロット1名、他10余名をあずけたい。承諾してもらえるかね?」
フォルティスには、レインズという人間の魂胆は解っていた。しかし、そもそも外への足がないのだから、拒否権など無いに等しかった。それに、自機は改修されてしまったし、少しの期間でも世話になったのだから、と言って断れないのがフォルティスという青年だった。
「ただし、一つ伺っておきたいことがあるのです。率直に言って、あなたはどのような理想をお持ちなのですか?」
フォルティスは、一時的でも共同しなければいけない相手には、思いを訊いておくという慣例があった。その問に対し、レインズはディスプレイを置き、青年の瞳を熟視した。
「 君も、近年のコロニー駐留軍のやりかたは知っているな? そういった連中を打倒し、我々市民が自ら治安維持活動をする、というのが目的だ」
「ぼくがパイロットだからって、遠慮はいりません。続きを話してくれませんか?」
フォルティスは、彼の簡略な説明に傲慢さを感じ取り、咄嗟に文句を言い付けた。
同様の経験を何度かしているという状況が、彼にそうさせたのだ。
「そうか・・・。失礼なことをしてしまったな。謝罪する」
真実、無意識的とはいえ、この軍隊上がりには相手が若い兵士だという侮りがあった。その空気はレインズにとって居心地の悪いものであったから、次いで口を開いた。
「続けよう。これまで、スペースコロニーの各政庁は連邦によって管轄されてきた。それは問題ではない。しかし、奴らは市民に圧政をしき、権利などは認めなかった。市民を都合で宇宙へ追放しておきながら、なんの保障もせず、腫れ物同然の扱いをしたのだ。そんな存在に一方的に管理され、搾取されるのはコロニーの意思に反する。だからコロニーは地球から独立させて、スペースノイドによって統治されていかねばならない。すでに宇宙だけで完結できるという事実は時間が証明しているのだ」
「コロニー国家を建てると言うのですか?」
フォルティスは、ジオンの思想がまだ生きているという現実を思い知った。平時であれば、一義的な意見として取材していただろう。
「そうだ。議会、軍事、領域の管理等、これまで地球で行われてきたすべてを宇宙で完結させる」
「その国王になるつもりで?」
「いや、それは君のような後進に一任する。しかし、務めを果たせていなければ私が実権を握ることになる」
(無能であれば、姿だけ偉そうにして指導者気取りをやらせるというのか? そんなことで・・・!)
この男は、目的のために動けるし、信用もできる。だが、そのためなら何であろうと切り捨てる。これは、狡猾だ。武人などとんでもない。それがフォルティスが感じた印象だった。