SSKR
総悟にはおかしな性癖がある。ドSなのは周知の事実だが、もうひとつ、おそらくは俺しか知らない。
Sっぷりを発揮して周囲に迷惑をかけることに比べれば害なんてないも同然だが、非常に理解しがたい。少なくとも俺にはまったく分からない。
総悟は、ささくれフェチだった。
…そんな奴聞いたこともないが、実際コイツはそうらしい。自他、男女、手足問わずにささくれを偏愛する、簡単に言ってしまえば、変態だ。
「ちょっ、変態呼ばわりはヒドイんじゃないですかィ土方さん」
「うるせェェ!!人のモノローグを読むな!大体なんなんだよささくれフェチって!ワケわかんねーんだよ!」
「うるせーなあ、何に興奮しようが人の勝手でしょう」
「そーいう言い方すんなァァァ!!」
ああ忌々しい。意味が分からん。確かにささくれが好きだろうが何が好きだろうが人の勝手だ。だが一緒にいて非常に体力を消耗する。ツッコミは体力を消耗する役回りなのだ。ちなみにスルースキル習得への道は大分前に総悟の性質と俺の性分により閉ざされている。
「大体その変態とお付き合いをしているのは他でもない、」
「ばっ…うるせあああァァ!!!」
(何がお付き合いだ、俺とお前でそんなかわいらしく形容できる関係になれると思ってんのか)
右手の中指にできたささくれを左手の親指で構いながら溜め息を吐いた。
終業後も書類に向かうことは既に習慣と化していた。それも終えて風呂を浴びて、ようやく休めると自室の障子を開けると俺の布団を敷いてその上で寝そべる総悟が目に入る、そこまでひとまとめにして最早ツッコミも必要のない当たり前の日常に成り果てている。
構わずに総悟を蹴飛ばして布団の上の空いたスペースに腰を下ろせば、やはり出てくるのは溜め息だった。
「今日も疲れた…」
「おつかれさんでーす」
「いや、ほぼ君のせいだったんだけどね」
「じゃあ俺が癒してさしあげやすよ」
「……」
待ってましたとばかりに総悟が起き上がって、一番に唇が落ちてきたのは左頬だった。ちゅ、とおさない音を立てて離れていく。目元だとか、鼻の頭だとかに戯れにキスをしてから、俺の手を持ち上げて自分の口元にもっていく。
「……ん、」
舌でささくれを刺激されて声が出る。これは気持ちいいとかそういうんじゃなくて、単に痛いからだ。総悟は皮膚がめくれて赤くなっているところを執拗に舌で押してくる。 指先全体を舐めたり、歯を立てたりされて、俺のささくれは一向に治る気配を見せない。
キスをしたり肌を合わせたりする、そういう関係になってから、総悟は俺の前でささくれを気にするようになった。さすがに変だという自覚はあるのか、俺以外の前ではささくれのさの字も出さないというのに。
昼間すれ違った、顔も知れない娘のことを思い出す。若い女はささくれなんか作らず指先まできちんと手入れしておかないといけない。でないとおきれいなツラの皮をかぶった変態に、その指喰われちまうかもしれねえぞ。
一般市民はそんな被害に遭っちゃいけねえだろう。こいつにこんな目みせられるのは俺ひとりで十分だ。
「、土方さんのささくれ超イイ」
「……そうかよ」
何がどういいのか分からないけれど、と思う俺は完全に絆されている。重症だ。指先ばかりを愛撫してくる、俯いた顔を眺めながら思う。
何がどういいのか分からないけれど、
(こいつが満足なら、まあいいか)
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080830 勢いとノリの産物