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清川@ついった!
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手を振るときは、さりげなく

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ヘッドフォンは重低音で揺れている。僅かにしか分からない英語の歌詞が、殆ど絶叫に近い歌声で叫ばれて三郎の鼓膜を揺らした。足下の白い歩道の線を眺めて三郎は歩いている。灰色の空から、雪が降り、三郎の頬に落ちる。冷たくて、左目の目元に落ちた雪を払った。煙草はまだ銜えたままで、払った拍子に長い灰がぽろりと落ちて、直ぐに灰は歩く人の雑踏に紛れ何処に消えたのか三郎にも分からなかった。
視線を上げると、三郎は立ち止まった。後ろを歩いていた男は急に立ち止まった三郎に対して舌打ちをし、体を捻って、避けて歩いた。川面から覗く大きな岩の様に、人は三郎を避けてスクランブル交差点を渡った。迷惑そうな視線を数人が向けたが、三郎は、見つめた一点から視線を逸らす事が出来なかった。
少しづつ、男が近づいて来る。三郎は、足に根が生えた様になってその場から動く事が出来なかった。変わる事無い大きな目が細められている。隣に居る友人との会話に困った様に笑うその顔は三郎の記憶の中で見る笑い顔と寸分のズレも無く重なった。心臓が飛び上がる程、大きな音を立てたが、頭は冷静にあの記憶は本物だったんだ、と思っただけだった。短く切られた髪が揺れている。声を出す度白い息が溢れて、耳が痛くなりそうな程赤く染まっていた。目が合った様な気がしたが、直ぐに男は友人に視線を戻したので、はっきりと目が合ったかどうかは三郎には分からなかった。
男が、目の前まで来た時、三郎は思わず男の腕を掴み、
「ら、いぞう」
と声をかけてしまった。殆ど衝動だった。雷蔵と呼ばれた男は、驚いた顔を三郎に向けている。そりゃそうだろう、身も知らない誰かに急にすれ違い様に腕を掴まれたのだから、男が返事を返す前に、隣に居た友人が、
「何なん、雷蔵。君の知り合いかあ、」と関西寄りの発音で男に問うた。背の低い男で、雷蔵の右半身から顔を出す形で、三郎の顔を覗いていた。“らいぞう”と言う言葉で三郎は、またどきり、として口を噤んだ。雷蔵は、頬を指でかき、三郎の顔を暫く眺めていた。口は半開きで、何か言おうと動いていたが、音にならないので三郎には雷蔵が何を言いたいのか分からなかった。信号が点滅し始めて人々の足が少し早くなり始めている。ここの信号は、赤から青になるのは遅いが、青から赤に変わるのは早かった。何も言おうとしない雷蔵に三郎は「すいません、昔の友人に似ていたもので、」と言って、足早に二人からは離れて信号を渡った。
信号を渡り切る少し前、三郎は後ろを振り返ると、雷蔵もまた友人に引っ張られながら、三郎を見つめていた。今度ははっきりと目が合う。雷蔵は困った様に笑って三郎に子供の様に大きく手を振っていた。
「そんなに大きく振らなくても見えてるよ、」
二人の姿は人ごみの中で紛れてしまったが、大きく伸ばした雷蔵の指先が人ごみの頭から見えた。三郎は恥ずかしさと、気まずさと沢山の嬉しさを込めて小さく雷蔵に手を振りかえした。雪がしんしんと降り始めている。フィルターギリギリまで吸った煙草を携帯灰皿に捨てて、新しく銜え直すと、三郎はもう一度、スクランブル交差点の信号が青になるのを待った。