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サヨナラのウラガワ 1

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サヨナラのウラガワ 1



 この想いは、棄ててしまわなければいけない。
 だけど…………、それは、どう考えてもできそうにない。
 あふれそうな気持ちは奥底へ。
 消せない想いは、裏側へ――――。

 俺はただ、近くに居られればいい。
 もう、それだけしか、許されるわけがないから。



Back Side 1

 ――――ままごとみたいだ。
 衛宮士郎がそう思ったのは、無理もない話だ。
 役を決めて、それになりきる、子供のやる遊びのようなもの。
 それが自分たちの関係だと、認めるしかなくなっている。
 少し前、士郎には恋人ができた。
 誰かと恋人になるなど初めての経験で、士郎は何をどうすればいいかなど何も知らない。恋人だなんだと宣言されても戸惑うしかなかった。
 さらに困惑を深めたのは、その相手となる者が予想だにしない、絶対にありえない、と士郎が言い切れる存在だからである。しかも同性の男同士。戸惑うどころか、軽くパニックを起こしかねない状態であった。
 とはいうものの恋人となる前に、週に一度の身体を繋げる行為と、日に数度のキスを繰り返していた。いわゆるセフレというものではなく、何かしらの熱も滾る想いもなく、ただ必要に迫られての、仕方のない行為の数々だけが二人の間にはある。その行為は、どれも存在を維持するための儀式だった。
 士郎と恋人になった相手は、人ならざる者。英霊と呼ばれるサーヴァントである。普通の関係でないのは当たり前の話だ。
 その英霊と呼ばれる存在と紡ぎ出せる関係など士郎は知らない。普通の恋人すらいなかった士郎には、極端にハードルの高い相手だった。

 士郎の理想と憧れをその一身で具現してしまった男――――アーチャーのサーヴァントである英霊エミヤは、聖杯戦争後も現界し、留まっている。
 留めたのは士郎だ。
 戦い続けた夜が終わり、朝の訪れとともに消えゆくアーチャーに手を伸ばしたのは士郎自身。元々のマスターである遠坂凛は引き留める言葉を発したが、手を伸ばすには至らなかった。だというのに、端から彼女たちの絆をもぎ取るように手を出したのは、アーチャーことエミヤと元を同じくする士郎だった。
 その瞬間に何を考えていたかなど士郎には思い出すこともできない。ただフラつく足を、その消えそうな存在に向かって進めていたというだけ。
 一等強く士郎の心を占めていたのは、還らせてはならないという、どこから湧いたかもしれない使命感だ。
『ここに居ろ!』
 ずいぶんと高圧的に言う士郎に面食らったままのアーチャーは、条件反射のように伸ばされた手を取った、と士郎には見受けられた。
 なぜ己の手を取ったのか、なぜ契約に応じたのか。
 そのことを士郎はアーチャーに問い質せないままだが、身体が勝手に動いてしまった、というようなことを凛にこぼしていたという。
 かくして主従となった士郎とアーチャーだが、聖杯戦争終了後の休息もそこそこに、いがみ合う間もなく、直面する問題を速やかに解決していかなければならなかった。
 士郎がセイバーと契約をしていた時と同じく、アーチャーは霊体にはなれない。したがって、人間として表向きの生活をすることになる。
 元になる存在が現代人であるアーチャーに生活面での問題はなく、士郎の住まう衛宮邸は部屋数だけは多いので寝泊まりするにも困らない。そして、出入りする人間に、アーチャーのことをどう説明するのか、ということも簡単にクリアできた。
 セイバー同様、養父・切嗣の海外での知り合いという前提で、士郎の姉代わり藤村大河や、後輩の間桐桜には納得させることに成功する。
 同居に関しては容易にクリア、といったふうに、一つ一つをアーチャーと相談という名の言い合いで解決していった。
 そうして最後に、最大にして最重要な問題を残すことになる。
 サーヴァントは人間ではない。その存在を維持するための糧となるものはマスターから与えられる魔力だ。
 魔力は食事などから少しずつ補給することはできるものの、それはあまりにも微々たる量で、サーヴァントの現界を支えるには足りない。したがって、サーヴァントというものは契約主であるマスターから魔力を流してもらうのだ。
 それがなければ、契約の縛りがあろうとも、魔力切れを起こして座に還ってしまう。
 聖杯戦争で士郎たちが、すでに壊れてはいたものの、基本的な機能だけは有していた聖杯を破壊した手前、聖杯がもたらしていた奇跡のような力は完全に失われている。魔術師であるマスターの力量だけでサーヴァントを維持するとなると、それなりに上級の魔術師でなければ難しい。
 士郎は魔術師のランクで言えば下の下あたりの実力しかない。アーチャーの元マスターである冬木の管理者・遠坂凛に比べれば、へっぽこどころの話ではないのだ。
 凛と比べれば雲泥の差な士郎が、英霊であるアーチャーを留めるとなると至難の業になるのは間違いない。
 英霊という桁違いの使い魔を使役するには、相応の対価が必要となるのは当たり前の話。そんな身に余る使い魔を引き留めた手前、士郎がなんとしても補わなければならないものがあるのは必至だ。
 サーヴァントの糧である魔力。それを士郎はアーチャーに提供しなければならない。
 契約が成れば通常、魔術師から魔力は流れていく。が、へっぽこの魔術師見習い・衛宮士郎の場合は、半人前で未熟者。魔術師と呼べるべき実績など無いに等しい。
 その上、魔術師としても底辺なら魔力量もサーヴァントを維持するには難しいような量でしかない。だが、引き留めたアーチャーを現界させるために、士郎は魔力を与えなければならない。
 そうして、できることをすべて提示してみた結果、残ったのは直接的な魔力供給と補助的な経口摂取、及び食事と睡眠だった。
 そのうちのどれか一つ、というわけではなく、すべてをこなして、どうにか現界に足る魔力が供給できる、という現実が二人に重く圧し掛かる。
 士郎もアーチャーも互いに口を開けず、しばし無言のまま小一時間睨み合い、他に術無し、と匙を投げ、直接供給をする決意を固めたアーチャーに対し、士郎は諦めきれずに、まだ他の方法を考えてみようと提案した。が、アーチャーは時間の無駄だと取り合わず、する、しない、で、さらに押し問答を繰り返すうち、あの朝のようにアーチャーの身体の末端が透けて揺らぎはじめ、やむを得ず士郎は合意に至った。
 恥ずかしいやら申し訳ないやらで、身体の痛みも男としての矜持すらもどうでもよく、ただアーチャーに言われるがまま、すべてを任せ、どうにか初めての供給は成功、と呼べるかどうかは別として、どうにかアーチャーの現界を維持することはできた。
 それから週に二度ほど、というスパンで儀式を繰り返し、慣れてきてからは週に一度で、現界するには十分な魔力量を供給できるようになった。
 アーチャーの現界に関して、セイバーにはほとんど魔力を与えられなかった士郎にそんなことができるのか、と凛は首を捻り通しだったが、士郎とアーチャーは、元が同一の存在という間柄であるためか、相性というものが良いのだろう。魔力が馴染みやすく、またアーチャーの燃費の良さもさいわいしていたようだ。
作品名:サヨナラのウラガワ 1 作家名:さやけ