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サヨナラのウラガワ 1

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 聖杯戦争からひと月もすれば、何不自由なくアーチャーは現界をこなし、士郎もほっと息をつけるようになっていた。
 それから間もなく、恋人という間柄になったものの、魔力の直接供給という外せない事柄が大前提であることは変わらない。週に一度というスパンも変わらないまま。
 しかし、恋人というものであるのなら、“そのテの行為”が付随するのは当たり前だ。日常的に魔力不足状態のアーチャーに申し訳なさしかなかった士郎には、今後、その回数が増えていくのは申し分ない。
 主従ではなく、恋人という関係は、自分たちにとって、とてもいいことだと思っていた。はじめのうちは。
 微かな引っかかりを覚えたのは、おそらく恋人関係になってすぐのことだと士郎は記憶している。
 恋人という括りになったものの、しばらくしてもアーチャーとは何を話すわけでもなく、以前となんら変わらない関係性を続けている。そして、魔力供給以外で触れ合うこともない。
 士郎がいくらこういった恋愛事情に疎いとしても、それなりに気づくものがある。
 ――――恋人になる前と何も変わらないんじゃないか?
 その小さな疑問は次第に確信に変わり、日々アーチャーと過ごすことに違和感と憤りを覚えはじめた。
 目が合うこともなく、週に一度の魔力供給以外で触れ合うこともなく、週末でも休日でも出かけることもなく……。
 一つ屋根の下にいるにはいるが、恋人というのはこういうものじゃない、という考えは、だんだんと士郎の頭を占めていき、重く胸に圧し掛かってくる。
 あれも違う、これも違う、そういうのも違う。
 違和感ばかりが士郎の目につき、鼻につき、アーチャーと恋人としてつきあっているということの意味を見出すこともできず、恋人宣言からふた月もするころには、どうにも士郎はやりにくさだけを感じるようになっていた。
 見つめた先の鈍色の瞳には、感情というものが窺えない。二人で過ごすときには、表情というものが全くない。
 士郎とて、普通の恋人たちのようにベタベタくっついていたいわけではないが、それにしてもあまりに恋人というにはかけ離れた状態ではないかと思うのだ。
「アーチャーは、なんで俺とつきあうんだ?」
 已むに已まれず、士郎は訊くしかなくなった。本当ならば、こんなことを確認したくなどない。アーチャーにも失礼だろうと思うし、何より、そんなこともわからないのか、と呆れられるのが嫌だった。
 それでも士郎が訊いたのは、不安しかなかったからだ。
 だから、アーチャーが自らの意思で恋人になろうとしたのかどうか、それを確かめなければ恋人などにはなれないと、真摯にこのことに向き合うべきだと気がついたから、勇気を振り絞って訊いたのだが、
「貴様が私を好きだからだろう」
 さも当然という物言いで、アーチャーは、しれ、と答えた。
「そ……っか…………」
 何も解決はしなかった。
 それどころか、終わりが見えてしまった。
 士郎の落胆は大きい。
 多少なりともアーチャーの感情があるものだと思っていただけに、士郎にとってその返答は、岸壁から突き落とされたような気持ちにさせるものだった。
 それが、マンションを探すきっかけとなった。なぜかというと、アーチャーにそこに移ってもらうためだ。衛宮邸にいれば、アーチャーは恋人関係を解消するとは言わないだろうと踏んで、アーチャーに住まいを用意すればいいと考えたのだ。
 だが、まだ踏ん切りをつけたわけではない。
 恋人関係は続いている。
 思い違いだと微かな期待を籠めて、週一ごとの抱き合う行為にアーチャーの感情を見出そうとした。が、魔力供給という儀式の枠を出ることはなく、アーチャーの気持ちも、考えすらも、なんら掴めるものはなかった。
 ようやく士郎は恋人という関係に、終止符を打つ決意を固めた。
 それからは、日々準備に勤しむだけだ。
 まず何よりも優先するのが、アーチャーへの魔力の供給方法だ。直接供給を必要としない魔術師になるには、士郎には圧倒的に時間が足りない。したがって他の方法を取らなければならない。
 となれば、まず、魔術の師匠である凛に指示を仰がなければならない。
 士郎から、相談がある、と持ち掛けられ、自宅に招き入れた凛は、士郎の言葉に耳を傾け、やれやれ、とばかりに遠坂家に所蔵されている魔術書の中から一冊の本を貸してくれた。
「衛宮くん。本当に、それでいいのね?」
 噛み砕くような口調で凛に訊かれ、士郎は頷く。
「ホントに、一時の気の迷いだったのねー……」
 凛の言葉に首を傾げれば、こっちのことよ、と凛は困ったように眉を下げていた。
「あんたたち主従のことに口出しはしないけれど、コミュニケーション不足は、魔術師とサーヴァントという関係以前に、人として命取りよ、衛宮くん」
「遠坂? いったいなんのことだ?」
 凛に呈された苦言に意味を見出せず、士郎は首を傾げてその言葉を受け取るだけだ。
「…………まあ、いいわ。アーチャーのこと、頼んだわよ? 私は来月のはじめにはセイバーと一緒にロンドンに行かなきゃならないから。夏休み中には帰ってくるけど、アーチャーは座に還しました、とかいう報告は聞きたくないわよ?」
「そんなわけないだろ。恋人なんて関係をやめるだけだ。俺も、アーチャーには現界していてもらいたいし……」
 それがただの我が儘だと知りながら、士郎はアーチャーの現界を望むことをやめられない。したがって、恋人などというものではなく、ただアーチャーの存在が近くにあるというだけでも士郎にとってはさいわいなのだ。
 アーチャーに教えを請うでも、稽古をつけてもらうでもない。ただこの世界にアーチャーがいる、それだけで士郎には十分だった。
 見守っていてくれとも言えない。一等傍にいてくれとも言えない。
 それでも、アーチャーが同じ世界にいることだけが、今の士郎にはすべてだと思える。
 ――――恋人なんかになったから、おかしなことになったんだ……。
 普通の、親兄弟のような、友人とは少し違うが近しい関係のようなものでいい。アーチャーと友達になどなれるはずもなく、兄弟というのも違うが、目指すところは恋人ではなく、そういう、どこかで繋がっていられるような間柄になりたいと、今はそんなふうに思うだけだった。



◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 俺の理想……。
 聖杯戦争が終わって、朝日に透けて消えそうなアーチャーを、どうしようもなく引き留めた。
 アーチャーは心底驚いていて、差し出した俺の手を掴んだものの、“たわけ”からはじまる罵声を山ほど浴びせてきて……、そうして契約を果たした。
 俺の魔術師としてのへっぽこさは、やっぱり英霊なんて代物を留めるには何もかもが足りない。すぐに足りなくなる魔力は、直接供給とその他諸々の方法で補うしかなかった。
 痛くて、気持ち好くて、辛くて、恥ずかしくて、だけど、優しくて……。
 思い出すだけでも赤面してしまう。
 なんだかんだいっても、そのときのことを思い返せば、アーチャーは、どこまでも紳士的だったといえるんだろう。
 慣れない俺を気遣って、いつもの厭味も罵声も聞くことがなくて、びっくりしている間に身体が繋がっていたっけ。
作品名:サヨナラのウラガワ 1 作家名:さやけ