サヨナラのウラガワ 2
呆れながらこぼし、セイバーはアーチャーの腕に触れる。普段のアーチャーならば、いくら睡眠状態だとしても腕に触れられれば目を覚ますだろうに、今は全く反応しない。おそらく機能停止のような状態なのだろう、魔力がある程度戻るまでは、アーチャーは重病人と変わらない。
「シロウが来るまでに、少しでも補っておかなければ」
この状態では話すこともできないだろう。
瞼を下ろし、セイバーは治癒を施す要領でアーチャーに魔力を分け与えようとした。が、
ばち。
火花が散るようなものではないが、静電気に触れたときのような小さな衝撃を掌で受け取る。
「…………魔力が、拒まれている」
アーチャーの腕から離した掌を見つめ、ふう、と呆れたため息をこぼした。
「まったく……」
アーチャーはこんな状態でも、士郎のサーヴァントであることを示したいのだろうか、とセイバーは苦笑いを浮かべるしかない。
他人の魔力は要らない。士郎の魔力しか受け取らない。
凛の宝石でどうにか保つことができている現界状態で、アーチャーはその矜持だか意地だかを存分に発揮してくれる。
「凛の宝石は飲んだというのに……」
逼迫度合いが前とは違うのだろう、士郎の到着が遅れれば選り好みなどしていられないというのに、アーチャーはセイバーからの施しを拒否した。
「仕方がありませんね」
断られるのであれば、セイバーには何もできることはない。立ち上がり、室内に目を向けたセイバーは、何やら既視感に襲われてしまう。物のない殺風景な、こんな部屋を見たことがある。
「どこで見たのだったか……?」
少し記憶を探ればすぐに思い出せる。士郎の部屋だ。
彼の部屋は和室だが、この部屋と同じように物が少なく、殺風景だと感じた。
眠るアーチャーの顔を見下ろし、思わず笑みがこぼれる。
「貴方もやはり、エミヤシロウなのですね」
似ているようで似ていないところが大半ではあるが、根本的なところに隔たりはない。士郎とアーチャーは、どんなに本人たちが否定しても同じ存在なのだ。
「恋人ではなくなったというのなら、いったい貴方がたは……?」
今回のことは、二人の関係が急激に変化したために起きた軋轢ではないかとセイバーには思える。互いに少し落ち着けば、また元通りになるのではないか、と楽天的に考えたくなる。
「それにしても、アーチャーが……」
士郎ならばまだしも、アーチャーが士郎を恋人だと言ったことに、セイバーはただただ驚くだけだ。彼が、士郎との恋人関係を認めていたことに、やはり驚きを隠せない。
アーチャーの士郎に向ける態度や仕草は、到底恋人に接するものに見えなかったのは事実。
恋人だと思っていたのなら、そのように振る舞ってほしいものだ、とセイバーはため息をつき通しだった。
サヨナラのウラガワ 2 了(2020/8/26)
作品名:サヨナラのウラガワ 2 作家名:さやけ