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サヨナラのウラガワ 2

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 呆然としながらセイバーは確認を取る。なぜそんな状況に陥っているのかがセイバーにはわからない。何しろ、セイバーから見た士郎は、ただただアーチャーの現界を望んでいるとしか見えなかったのだ。供給に失敗するならばわかるが、その儀式すらしていないとなると、士郎がアーチャーとの契約を破棄しようとしているとしか考えられなくなる。
 そんなわけがない、とセイバーは願いにも似た希望を頭に浮かべるが、
「……ああ、していない…………」
 アーチャーの返答は、あっさりとセイバーの希望を打ち砕く。
「な……、なぜですっ? シロウは、貴方を現界させようと、必死になって、」
「マスターに……拒否され、れば……、私には……どうすることも、できない……」
「拒……否?」
 呆然と呟くセイバーに、アーチャーは窓の方へ目を向け、口の端を上げる。自嘲の笑みを浮かべたようだ。
「ど……、どういう……? 拒否、とは、シロウが、ですか? なぜです? 私たちがロンドンに行く前は、シロウはきちんと貴方に供給をしていたはずです。だというのに――」
「詳しい、ことは……、マスターに、訊いて……く、れ……」
 瞼を下ろしたアーチャーに、セイバーは腰を浮かせて、その顔を覗き込むようにベッドの縁に手をついた。
「供給をしてもらわなければ、こうなることがわかっていたのですよね、貴方は? どうしてシロウに言わないのですか。シロウとて鬼ではない。貴方の現界が逼迫しているのならば――」
「アレが……望まないことを……、できるわけが、ないだろう…………」
「望まない……? シロウは、貴方に座に還れと言ったのですか?」
 いや、とアーチャーは小さな声で否定する。
「シロウは、貴方を引き留めたのですよ? 貴方の現界を望まないはずがありません。シロウは、何を望んでいないというのです?」
「…………恋人では、ないと……」
「こ、こいびっ……。た、確かに、貴方がたは、そういう関係になると言っていましたが、アーチャー、貴方も本気で――」
「凛に、どうにかしろと……言われ、アレの意思を汲んだつもりだった……。だが、それは……気の迷いだったそうだ……」
「気のまよ……。そ、それは……」
 すぅ、と眠るように意識を手放したアーチャーに、セイバーは何も言えず、浮かせた腰を落とした。
「アーチャー、貴方は…………」
 アーチャーの言葉を素直に受け取れば、彼は士郎と恋人でいることに異論はなかったようだ。凛に焚き付けられたとはいえ、アーチャーはきちんと士郎との関係を築こうとしていたのだと、今さらながらセイバーには感じられた。
「ですが、アーチャー、貴方の態度は……」
 決して望んで恋人でいるのではない、ということを前面に押し出していたとセイバーは記憶している。士郎のために、嫌々ながらつきあってやっている、という感じにしか見えなかった。
「それでは、シロウには伝わりませんよ、アーチャー……」
 そんなわかりにくい態度では、きっと士郎には理解されない、とセイバーは断言できる。
「貴方は、シロウと、どうなろうとしていたのですか……? いえ、どうなりたいと思っていたのですか……?」
 セイバーには、二人の気持ちの機微などわからない。だが、士郎が、どう見てもアーチャーを特別視していることだけはわかっていた。
 それが恋人だという話になり、二人の様子をセイバーは黙って見守っていた。契約した当初こそ言い争いが絶えない二人ではあったが、それなりにうまくやっているように見えていた。
 アーチャーは士郎の気持ちに気づき、その気持ちを受け取るつもりで恋人になったと聞く。殺そうとした相手と恋人になることが、しかも、アーチャーにとっては過去の自分的な存在である士郎を相手にすることが、どれほど内面的な変化を必要としたかは計り知れない。
 それでもアーチャーは士郎と恋人になることを選んだ。だが、あれはなかったことだと士郎に言われては、アーチャーにはもう、己に向かっていた士郎の気持ちも何もかもが消え失せたのだとしか思えない。
 皆が士郎に目を向けていた。
 凛とセイバーはもちろん、詳しいことなど知らない藤村大河も間桐桜も、士郎のことだけには敏感に反応を示していた。
 誰もアーチャーの気持ちには気づかない。いや、気づこうともしない。もちろん、アーチャーがそう装っていたというのが一番の原因だろうが、たとえサーヴァントと云えど、人間と同じ感情があるのだ。確かに生を終わらせた存在ではあるが、現界して衛宮邸で生活をしているアーチャーのどこが、人間とは違う、と言えるのだろう。
「困ったものですね、貴方も、シロウも……。そして、私たちも……」
 この世界に現界するアーチャーが、常に受け身であったことに今ごろ気づき、セイバーは反省を籠めたため息をつく。
 そっと白い髪を指先で撫でてみた。
 いつもは後ろに撫でつけられていた髪が今は無造作に下りていて、色合いは違うものの、士郎と大差ない顔つきに見える。
 士郎がアーチャーと恋人関係をやめ、アーチャーを新都のマンションに住まわせることになったと凛から聞いたときは、おそらく士郎になんらかの事情があり、アーチャーもそれに同意しているとセイバーは思っていた。
 だが、アーチャーがこのような状態で発見されてしまっては、しかも、一方的な士郎の態度が見え隠れしていては、いくらセイバーでも、士郎に対して憤りのような感情が湧くのは仕方がない。
 どれほどセイバーが士郎贔屓であっても、筋の通らないことは認められない。凛が連れてくる士郎から事情を聞かなければ判断はできないが、今の状況は、どうにも士郎に非があるように思える。
「アーチャーを座に還そうなど、シロウは思っていませんよね……?」
 それはセイバーの確信であり、希望である。
 士郎がアーチャーを特別な存在だと思っていることは事実であり、アーチャーが士郎に対して、聖杯戦争中のような殺意を持ち出すことがなくなっていたこともセイバーは知っている。
 口では厭味や小言を士郎に浴びせるようだったアーチャーに、士郎も負けじと反発してはいたが、衛宮邸にいる二人は、それほど悪い関係ではなかった。
 だというのに、今、二人の関係はいったいどうなっているのか。セイバーには予想だにしない事態である。なんだかんだと言い合いながら魔力供給やその他のことも、どうにかうまくいっていると思っていた。
「ほんのひと月会わないうちに、どうしてこんなにも……」
 セイバーはやるせなくなって、何度目かのため息をこぼす。
 こんなことなら凛に相談して、自身とアーチャーの契約を交代してもらい、再び自身が士郎と契約を結んだ方がよかったのかもしれないと、今さらながら悔やむ。
 セイバーならば、以前と同じように食事をとり、士郎と隣り合わせの部屋で休めば、現界するだけのことは簡単にこなせていた。セイバー自身の魔力で士郎からの不足分を補えていたのだ。
 だが、士郎が契約を望んだのは、セイバーではなくアーチャーだ。いくら説得したとしても、その提案は受け入れられなかっただろう。
「本当に、しようのない方たちです……」
作品名:サヨナラのウラガワ 2 作家名:さやけ