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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(上)

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「――左様か」
「あの件と関係あるかは分からないけど、小耳に挟んだからさ」
「ま、嬉しいニュースなんじゃないか?」

 斉藤は言葉とは裏腹に煮え切らない様子で、深く息を吐く。

「だがよう――ミ=ゴとかいう野郎は許せねえ。それにエリックも気がかりだぜ」
「斉藤君……」

 斉藤にどう声をかけたものか迷っていた時、バリツがふと思い出したことがあった。
 それは、別れ際に、エリックがバリツへ向けて放った言葉だった。

――オマエ、何かに魅入られてイルぞ。セイゼイ用心するコトだな。

(何かに――魅入られているとは? あれは一体?)

 そして、続けて思い出されたことがあった。
 自分たちを助けてくれた存在は、エリックだけではなかった。

 「きさるぎ駅」のベンチで無防備に寝転んでいた、謎の「幼女」。

 彼女は捜し物と引き換えに、凶暴化した猿たちに負われていた自分とバニラを転移させ、逃れるチャンスを与えてくれたのだ。
 そして――「きさるぎ駅」から脱出する際には、駅員の服装で自分たちを現世へと送り届けてくれた。

 バリツは二人に問いかける。

「そういえば――あの『幼女』はなんだったのだろうか?」

 陶芸家と新聞記者は顔を見合わせるが、まもなく、互いにバリツへと視線を戻した。斉藤が首を横にふる。

「……さっぱりわかんねえな。エリックもマジで知らなそうだったもんな」
「その通りだね。バニラ君はどう思う?」
「んー……」バニラは顎に手を当てる。
「少なくとも悪意はなさそうだったけどね。かといって、深入りもしない方がいい気はする」
「深入り……か」
「あの空間自体が、現実とは異なる世界だったからさ。あの子についても――あまり深く考えない方がいい気はするかな」
「……うむ」

 バニラの言葉は理に叶っているように思えた。
 だが、バリツは、嫌な想像を、終ぞ払いきれなかった。
 エリックが残した、最後の言葉も相まって。

(私自身が望まなくても、すでに深入りしてしまっている……そんなこともあり得るのだろうか?)

 彼らはその後もいくつか言葉を交わしていたが、やがて、沈黙が場を支配していた。
 フランスのことわざで言うところの、天使が通った、といったところだ。

 そんな中――。
アシュラフによってとっ散らかされた部屋をなんとなく見渡していた斉藤が、ふと何かに気づいた。

「ようバリツ――ありゃ写真か?」


☆続