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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(上)

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「んー……結局ダウジングの意味は、なんだったんだろう?」
 興味深そうに呟くバニラに、バリツは片手を小さく上げて言う。
「バニラ君……たぶん、深く考えても答え出ないヨ……あの子のやること……」

「ま、事情はだいたいわかったぜ」斎藤は腕を組んで、深く頷く。
「んじゃあの大穴は、バリツが趣味であけたわけじゃないんだな!」
「んなわけないでしょ!?」
「ハハハ! まあお前はそういうのしないよな!」

 斉藤は呵々大笑する。
バリツは思った。彼、他の人、例えば自分だったらそういうのも趣味でやりかねないって言いたいんだろうか……?

「ところで――」バリツは咳払いをし、問いかける。
「斉藤君はどうしてここに? 仕事場は北陸であろう?」

「おう。そういや話してなかったな」

 斉藤は(掌で促すバリツに片手で挨拶を返しつつ)空いていた丸椅子に腰掛ける。

「ちょいと壺作りの絡みで世話ンなってる工匠が、渋谷のはずれにいてよ。ここからそう遠くなかったし、寄り道してみたんだ」
「左様であったか。って……そういえばずいぶんとイメチェンしたみたいだね?」

 以前会った時はさっぱりとした開襟シャツに短髪姿の斉藤だったが、今はリーゼントに革ジャン姿。丸椅子の上で大股を開いたその座り用は、所謂ヤンク・ロックバンドのメンバーさながらだ。
 元々引き締まった体格の斉藤には、なるほど似合う衣装でもあったが……状況が状況ゆえに言及しそびれていたが、こうしてみると、これまでと比べて随分と思い切ったイメチェンぶりであった。

 斉藤は「似合ってるだろ?」と笑みを浮かべる。

「まあ芸術家たるもの、固定概念は捨てないといけねえからよ」
「な、なるほど」

 そのカッコで北陸から渋谷を経て、私んちまで足を運んできたのかネ……と思いつつ、バリツは話題を変えることにした。

「それにしても、奇遇なタイミングだったよ。ちょうどバニラ君も来てくれていた所だしね」
「だよな! 改めて久しぶりだ! バニラ」
「うん、斉藤」

 バニラは口元を緩めながら挨拶を返すが、目は笑っていなかった。しかし彼が(少なくとも知る限りでは)斉藤を嫌悪しているわけではないことを、バリツは知っていた。

 新聞記者である菓子バニラは、若くして元戦場カメラマンの経歴を持つ得意な男だ。
 その壮絶な過去は、火傷の跡を伴う、右頬いっぱいの古傷から。光の宿らないその鋭い目つきから。そして――ことある毎の、あまりに老練たる立ち振る舞いから察することができた。

「改めてバニラ君もすまない」バリツは謝罪する。
「ゴタゴタに巻き込んでしまったね……」
「いや別に? 壊されたの俺んちじゃないし。見てる分には面白いし」
「な、なるほど……」

 抑揚のない言葉は、しかしながら、バニラなりのジョークだったのかもしれない。家の損壊の事実を考えると、笑えない話だが……。
 バニラは言う。

「でも、アシュラフって子……確かに想像以上だねえ」
「でしょ? でしょ?」

 泣きそうですとばかりの顔でバリツが合いの手を挟むと、「おお」と呟いた斉藤がぽんと手を叩いた。

「そういや、バニラはアシュラフに会うの初めてだったか!」
「まあ、皆から小耳には挟んでたけどね……きさるぎ駅とかいうやつに巻き込まれる前とかね」

「きさるぎ駅……『猿夢』の怪異だね」

 つい数ヶ月前の出来事を改めて思い出したバリツは、身が引き締まる思いがした。

聞くものを殺戮の悪夢へと誘う、『猿夢』の都市伝説。

その魔力に囚われた自分たち三人と、バリツの助手であるタン・タカタンの四名は、この世ならざる怪異の世界へと迷い込み、絶体絶命の状況に立たされた。
しかしながら、数奇な運命の末、命からがらの生還を果たしたのだ。

それにしても、幾度となくかつてない死の恐怖にさらされた一連の体験は、忘れようもなかった。

「あんときは皆大変だったよな……って、今日はタンの奴いねえのか?」
「ああ。彼は他の仕事を掛け持ちしているんだ」

 タン・タカタンは、バリツ唯一の専属スタッフであり、斉藤やバニラとも面識があった。良くも悪くも独自の考えを持ち、思ったことをすぐ口に出すタイプの彼は、ムードメーカーにしてトラブルメーカーであったが、バリツは信頼していた。
(『猿夢』の世界では不注意が故に、危機的状況を招いたりもしていたが……。)

「タン君は、この邸宅を保持するための営繕や庭仕事にも従事してくれているから、アシュラフ君がやってきた後は毎度世話になっているのだが……」

「タンの奴も忙しいみたいだな――おっと、そういやバニラがバリツんちに来てた理由もまだ聞いてなかったな」

「そうだったね」斉藤の問いかけを受け、バニラは言葉を継ぐ。
「俺がここにきたのは、取材で近くを通りかかったのもあるけど、あの悪夢の件で共有したかったこともあったんだ」

「というと?」

「さっきバリツにも話したんだけど――」斉藤に問われると、バニラは懐から取り出したデジタルカメラを軽く振ってみせる。
「あのきさるぎ駅とかいう場所で取った写真のデータが、こいつに一枚も残ってなかったんだ」

「おいおい、マジかよ?」

 丸椅子から立ち上がった斉藤に、バリツも手を組みながら頷く。

「斉藤君が来る前に聞かされた時――私も驚かされたものだよ。つくづくイレギュラーな場所であったことを思い知らされる話だ……」
「んー、まあ、あわよくば特ダネにならないかと思ったんだけどねえ」バニラは無表情のまま肩をすくめる。
「これじゃあ周りに信じてもらえそうにない」

「ただ、忘れる方が幸せな事件ではあるのだろう……あんなことは、二度とごめんだ」正直な気持ちをバリツがこぼしたその時。

「そりゃそうだけどよう」斉藤がうーんと唸った。
やけに憮然とした表情だ。

「どうしたかね? 斉藤君」
「俺はどうもこのままじゃ気が収まらねえんだよなあ。結局黒幕は野放しなんだろ? それに、エリックも気がかりだしよ」
「……確かにな」

 バリツは斉藤の心情を察した。
自分たちに立ち塞がった脅威は、人語を解する凶暴な猿だったが、斉藤だけは、謎めいた縁の元、猿たちと心を通わせていた。「エリック」は、その中でも、斉藤と特に深い友情で繋がっていた猿だった。

ところが、猿たちは『ミ=ゴ』と呼ばれる真の黒幕に利用されていた。
彼らはあくまでも人間への憎しみにつけ込まれ、殺戮衝動を増幅・コントロールされ、操られていたにすぎない。彼らは最終的に『ミ=ゴ』から、用済みと切り捨てられ、新たに開発された怪物たちにより粛正されてしまったのだ。

隠れ潜んでいた「エリック」だけは、唯一その粛正から逃れ、斉藤をはじめ自分たちに真相を伝え、助言をくれた。その助力があってこそ、自分たちは最終的にこの場所に立っているのだ。
エリックはその後、逃げおおせてみせると言い残し、姿をくらませたが、その安否を知る術はなかった。なにしろあの怪異は、この日常とは異なる世界で起きた出来事だったのだから。

「そうそう」バニラが思い出したように語る。
「ある筋の統計だけど、ここ数ヶ月、唐突な行方不明や、電車の人身事故の数は減っているみたいだよ」