CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(上)
幻覚ではないかと考えた。疲労が祟ったのではないかと。
現実にあり得ざる光景だったのだから。
だが、その顔の輪郭は、あまりにも現実味を帯びていた。
つぶらな水色の瞳。鼻周りのそばかす。
彼女は肩を竦めた。そして、かすかに微笑んだ。
その笑みの意図は、バリツの心理学を持ってしても、推し量れなかった。
「え――」
瞬きした後には、もうその姿はなかった。
アシュラフもいなくなっていた。
「……バリツ?」
「おーい? バリツ? 大丈夫か~?」
訝る二人の客人が声をかけてくるまでの間、バリツは立ち尽くしたまま、動けなかった。
それから程なくして、斉藤とバニラはそれぞれの帰路についた。
彼らは帰り際も体調を気遣ってくれたが、バリツは大事ないと伝えた。
それでも一日を終えようとするバリツの胸中には、困惑と、疑念が渦巻いていた。
(あれは――誰だったのだ?)
☆続
作品名:CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(上) 作家名:炬善(ごぜん)