CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(上)
1、西の壁はぶちぬかれ
「……これって、バリツの経歴か? ほうほう」
リーゼントに革ジャン姿の陶芸家、斎藤貴志。
彼は、サプライズとばかりにバリツの執務室に入り込むなり、ふと目に留まった紙片を手に取り、読み上げていたが、
「……で、こりゃどういう状況なんだ?」
目をぱちくりさせながら、まもなく状況の確認にかかる。一拍子遅れる形である。
部屋の奥の大穴。
そこから屋内へかけて、秋のそよ風がさわやかに――しかしながら無遠慮に入り込み続けていた。大穴の正体は、部屋の西側に設けられた窓だ。ただし、窓枠ごとぶちぬかれた窓からの。
十九世紀後半のイギリスをモチーフとした部屋には、跡形もない窓から広がるようにガラス片や木片が散乱していた。雰囲気が台無しだ。
そして、斉藤をみやる男2人。
来客用のイスに腰掛ける新聞記者、菓子バニラ。痛々しい古傷が目立つそのクールな表情は変わらないが、やれやれと肩をすくめている。
そして、机の上で両手を組み、項垂れてるのは――。
家主にして冒険家教授バリツ・バートンライトその人だ。
「やあ、斎藤君……」バリツはげんなりとした様子で、斎藤を出迎える。
「……散らかってて申し訳ない……」
「おう、構わねえが――ってか、バニラもおひさ!」
「どうも、斎藤」
「ちなみに斎藤君。君がさっき読んでたのは、バニラ君が昔書いてくれた、私についてのインタビュー記事……の切れ端だよ」
「ほう! バリツへのインタビューだって?」
「だが……その前に、この部屋がなんでこうなってしまったかを話した方がよさそうだね……」
こうしてバリツは語りだした。
作品名:CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(上) 作家名:炬善(ごぜん)