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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(下)

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現に、まだ飲酒によるのだろう顔の赤みは抜けきってないものの、斉藤の表情は真面目そのものだった。

「やべえことになったみてえではあるが――ノーヒントではねえみたいだな」

言いながら、(真っ先に観察を開始していたバニラにつづき)斉藤は円卓に目を向ける。
バリツ自身存在は認知していたが、詳しく調べるのはこれからだった。

そこには二枚の紙片。そして。
真っ赤な何かが入った、大きな砂時計。

「この砂時計はなんだろう?」
 バリツの声を受け、斉藤はそれを動かそうとするが、ビクとも動かない。
「ン~? 持ち上げらんねえぞ?」
「固定されてるのかもね。あと、それは砂時計じゃなくて液体時計みたいだね」

 バニラに言われて中を覗き込むと、確かにその通りだ。
 下側に少しずつ貯まっていくのは、さらさらと流れる砂ではない。
 ぽたり、ぽたりと垂れていく真っ赤な液体だ。
 バリツは嫌な予感を覚えた。

「まさか、これは――血か?」
「だろうねえ」バニラは全く動じた様子がなかったが、バリツは困惑を禁じ得なかった。

「しかし、なぜこんな所に砂時計……血時計が?」
「よくわからねえが、何かのカウントっぽくねえか?」
「かもねえ。問題は何のカウントか、だけど」
「ひとまず、紙もみようぜ」
「う、うむ」

 三人は、テーブルに置かれた紙片の一枚を覗き込む。
 文字は小さかったが、注視すれば読み取ることができた。
 総じて丸みを帯び、やたらと可愛らしい――しかしながら、角張った各所がどこか心にひっかかるような文体だった。
 
《スープ作りの世界へようこそ!》
《君だけの素材を組み合わせて 最高の毒入りスープを作り出そう》
《ちゃんと作って飲めないと ここから出ることはできないぞ!》

「スープ作りの世界へ、ようこそだとぉ?」
「なんとも……ノリが軽いな……」

なんとも緊張感のない書き方ではあるが、それにしても恐ろしい文章ではないか。
わざわざ毒入りのスープを……作って飲めと言うのか?

「ノリは癪だがよ、『君だけの』とか言われるのは、ちょっとそそられるものがあるぜ。ドリンクバーみたいでよ」
「なんの話しかね斉藤君」
「え? バリツもファミレスで混ぜるだろ? コーラとメロンソーダとか」
「まあ小学生の頃なら……?」

「紙の裏面には何か書いてないかな?」

 冷静なバニラに促され、紙をそそくさと裏返す。
 このような文章が書かれていた。

《追伸 死ぬ覚悟をもってスープを飲むように。チャンスは一度きり。》

「なんとも……ぞっとする文章だな」
「全くだぜ。というか――」いつしか斉藤は、引きつった笑みを浮かべていた。
「俺、さらっと流したけど、表面には毒のスープを作れって書かれてたよな、毒の」
「そうなのよネ……」
「苺のスープ、と読み間違えたりしてねえ?」
「してないみたいなのよねそれが……」
「カルピスじゃダメか?」
「斉藤君、まだドリンクバーの話してない?」

「んー……」バニラが顎に手を当てる。「とにかく、言いたいことはわかったよ」
「というと?」
「もし血時計が時間制限だと仮定するなら――」

バニラの要約は、恐ろしい現実を突きつけるものだった。
このなにもかもわけのわからない、夢の世界で。

「ここから出たければ、血時計のカウントが尽きるまでに毒入りスープを作り、飲み干し――そして自害しろ。そういうことだよね」


☆続