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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(下)

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「ただ、何でそんな俺たちが選ばれたのかということと、このゲームが何のためのものかということ――それらは今は考えても仕方ないと思う」
「まあそうだよなあ」

「ともあれ、アシュラフ君とタン君が巻き込まれなかったことは、不幸中の幸いなのかもしれない」
「タンがいねえから、今回は『おーい』も起こらないわけだしな」

 『おーい』とは、「きさるぎ駅」の怪異の最中、助手のタンが危うく自ら死を招きかけた一件を指す象徴的な言葉だった。危険はないと判断して軽はずみな大声を出した結果、当初敵意丸出しだった猿のエリックを呼び寄せてしまったのだ。

 「あー、まあ、うん……」斉藤の機転と不思議な縁のおかげで死を免れたものの……思い出したバリツは乾いた笑いで答える他なかった。

「とにかく、状況整理はこんな感じかな。血時計もそろそろ気にした方がいい」
「うむ」
「だな」

 バニラが話を切り挙げたのを期に、情報整理は一段落ついた。

 結局、バリツは、自身がこの場所で目覚める以前に見ていた夢――否、体験というべき何かについて、打ち明けることはしなかった。今置かれている状況との結びつきが見いだせなかったし、血時計についての推測が正しければ時間も限られている。
当然気がかりではあったけれど――まずは目の前の課題を乗り越え、生き残らねばならないのだ。スープを作り上げるために、四つの部屋を探索しなければならないとなると、やるべきことは必然的に増えてくるだろう。

「問題はどこから回るか、であるが――」

「ヘイ! それなんだけどよ!」

にわかに活気づいた斉藤が、パンと手を叩き、人差し指を掲げた。
先ほどまでの真面目な雰囲気はどこへやらである。

「『小娘』の部屋ってのは俺にまかせな!!」

 数秒間の沈黙。
 バリツは呆然とした後、恐る恐る聞き返す。

「え……さ、斉藤君?」
「この極限状態での小娘。いわば、お姫様。お姫様なら、王子様が迎えにいくのは当然だろ?」
「王子様って、え」

 先ほどまでの緻密さもどこへやら、である。
 不敵に微笑む壺職人の目と歯が、キラーン、と輝いた気がした。

「いやー……しかし」

 古代ギリシャの戦士めいた斉藤の美貌について、バリツは文句の付けようもなかった。鍛えられた肉体美についてもだ。
 だが、そんな彼も、今は崩れたリーゼントヘアーに、くまさんパンツ一丁の姿である。王子は王子でも変態王子である。

バニラですら少なからず呆れた表情を浮かべていた。

「どこから回るかについてだけど……」彼は冷静に言う。
「実際、優先度が高いのは書物庫か、調理室だと思う。調理室はスープを作れっていうなら言わずもがな。書物庫もわざわざ用意されてるなら、何か調べるべき資料があるはずだからね」
「ふむ……なるほどな、バニラ」
「そもそもスープを作れとは言われてるけれど、肝心のレシピも素材もない。レシピは我流にお任せの可能性もあるけれどどの道、重要度が高い何かがあるとしたら、その二つの部屋がしっくり来ると思うんだ」
 斉藤は神妙な面持ちでうんうんと腕を組んでいる。納得したと言わんばかりだ。
「流石だバニラ君」バリツもバニラに同意した。「では書物庫か調理室を――」

「『小娘』の部屋ってのは俺にまかせな!」

「斉藤君、話聞いてた!?」
「任せな!」

 斉藤はそんなの関係ねえとばかりに復唱する。
 いったい何のスイッチが入ってしまったのだろう。これも晩酌の影響だというのだろうか?
 バニラが(バリツが見たこともないような)なんとも言えない表情のまま改めて忠告する。

「水を差すようだけど……斉藤。そもそもあの部屋にいるのが君のイメージするお姫さまとは限らないと思うよ?」

 彼の指摘は道理にかなっていた。
 『小娘』――斉藤が解釈する通り、お姫様というべき少女がいると考えても不自然ではない。
だが、やはりその一言だけでは明らかに説明が不足している。そもそも「女の子」や「娘」とも表記できように、わざわざ忌むかのように記載する意味も読み取れなかった。

 だが、斉藤の意志はやはり揺るがない様子だった。

「いや、俺は腹を決めた。『小娘』の部屋は任せな!」
「もう3~4回は聞いてるんだけど……」

「それによう」唐突に真顔の斉藤。
「どの道、全部の部屋を調べねえといけないんだ。こういうときは、直感に従ってもいいと思うんだよな」

 そしてフフフ、と笑む。めまぐるしい表情の変化だ。
 やる気まんまんといった様子で、譲る気配はない。
 バニラも根負けした様子で、ため息をついた。

 だが、バリツは、彼のくまさんパンツ一丁の服装とくだけたモヒカンヘアーとを見比べる。万が一、小娘、というのが斉藤がイメージするお嬢様だったとして、いささか刺激が強すぎるビジュアル。おまけに少なからず酔っ払いだ。

「ならばせめて……斉藤君、ちょっと一緒についてっていいかね?」
「お? 構わねえが」

 バリツの提案を、斉藤は受け入れてくれた。自分がついて行った所で、フォローしきれるものかは怪しいところではあるが……。
バニラが話しかけてくる。

「じゃあ――バリツも『小娘』の部屋を行くってことでいいかい?」
(なんだか少なからず「教授も同類なの?」という圧を覚える気がする……)

そう思いながらも、バリツは真面目に答える。

「うむ。ただし、安全を確認したら直ちに他の部屋を調べようと思う。書物庫か調理室を。いかがだろうか?」
「んー。わかった。俺はまず書物庫から当たってみるよ。書物とやらを漁るのにどれだけ時間を食うかわからないからさ」
「わかった。……いや、待てよ? バニラ君がはじめは一人になってしまうのか……」
「どの道みんなが固まって動いてばかりってワケにはいかないでしょ? バリツは、斉藤に付き添った後に、調理室を調べてくれないかな」
「了解した――ちなみに、残った『礼拝堂』はどうするかね?」
「最後でいいと思う。小娘の部屋もだけど――スープとの因果関係が見えないからね」
「承知した」

「うっし! 決まりだな」斉藤が親指を立てる。「じゃあ行っとくか!」

 かくして、バニラは書物庫のドアに。
バリツと斉藤は「小娘」のドアの前に立った。
 
バニラはドアを数秒観察した後開き、クルタパジャマの裾の尾を引かせながら、中へと踏み入った。

それを見届けた後、バリツも改めて眼前のドアを観察する。

 あちらこちらが赤さびだらけの、鉄の扉。どこか、ただでさえ他の三つとは一線を画する威圧感だ。その取っ手に触れることも躊躇われた。

 そして観察の最中、バリツは思った。

(そもそも『小娘』とは何なのだ? 小さい女の子……今まで私が出会った中で、深く縁してきたのは――)

 だが、脳内で情報の検索を開始せんとしたその時、斉藤が声をかけてきた。

「どうした? バリツ?」
「あ。――すまない、何でもない」
「しっかりしろよ? バリツ」

 斉藤は生き生きと言ってのける。 

「娘っ子が俺に惚れても文句をいうなよ」
「やっぱ何か変なスイッチ入ってるよネ? 斉藤君。ひとまず、開ける前に――」
「それ、いくぜ!」