CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(下)
「え、ちょっ!? 物音確認したりとか――」
斉藤は、答える代わりと言わんばかりに引き戸を開け放った。
「ヘイ! お姫様!」
ドアを開くと同時の大声。
この非常時において、なんたるハイテンションか。
「……あれ?」
ところが、中を見通すことは叶わなかった。
部屋の中は、真っ暗闇だった。
自分たちが目覚めた、中央の部屋の明りだけでは、とても照らしきれていなかった。
嫌な湿り気と、真夏の氷室のような心地よい涼しさ。
それらが混じりあったような、奇妙な空気が肌を撫でる。
斉藤も流石に言葉を失った様子だ。
「……もしもーし? ヘイ彼女~?」
斉藤は(先ほどよりも明らかにテンションを押さえた声で)再度呼びかける。
バリツは思わず身をこわばらせながら、中の音に聞き入った。
奥から何かが聞こえる。
ぺたり、ぺたり、ぺたり。
ガガガガガ……ズリズリズリ……。
肌と石とが触れ合うような音。
重い金属を引きずる音。
この部屋には、なるほど誰かが……何かがいる。
明らかに、尋常な音ではない。
斉藤にも間違いなく聞こえているのだろう。
バリツ半ば呆然としながら呟いた。
「斉藤君……君の望むお姫様が、どうやらお出ましのようだぞ」
☆続
作品名:CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』前編(下) 作家名:炬善(ごぜん)