CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(上)
恐ろしいほどに美しい黄昏の空だった。
まるで世界の終わりのような――真っ赤な夕焼け空。
目覚めたバリツは病室のベッドに横たわっていた。
節々がやたらめったら痛かった。
ベッド脇の窓の傍ら、一人の男が、外を見つめていた。
その服装から、それが誰なのかすぐにわかった。
なにかがおかしかったけれど。
「……ラムおじさん?」
「困難を前にして、決して傍観者であってはならない。そして君を助けてくれた者の思いに敬意を払え」大男はこちらを振り返ることなく、続ける。
「――私は常々、そう考えてきたし、君にも伝え残したかった」
「……え……?」
「だが君の父さん……我が友リー・バートンライトは、生前こう語った。――『例えいかなる善人でも。一度も罪を犯したことがない者でも。信じる何かを違えれば等しく不幸になる』」
「……なんですか、それは?」
知らない。
そんな言葉は知らない。
初耳だ。聞いたことなど……。
「そんな……あるはずが――」
「私を信じてくれた君はどうなった? そしてあの子は……」
「待ってください。何の話を――」
ラムはバリツの言葉に答えなかった。
ただただ、一つの言葉を、続けた。
「――許してくれ」
「……えっ?」
その後ろ姿の、しゃくり上げる声。
あのラムおじさんが……泣いている?
「ラムおじさ――……ッ!?」
ゆっくりとこちらへ振り向いたラム教授。
それは、すっかり落ちぶれた老人。
所々に師の面影があるが……皺とシミだらけの肌、ミイラめいた細い顔つき、パサパサの髭と髪。
バリツの知る恩師とは、到底かけ離れた何者か。
屈強な肉体にはあまりに不釣り合いなその様は、まるで、頑強な戦士の首を切り落とし、死体の顔を代わりに乗っけたかのようだった。
「バリツ! 愚かな私を許してくれええええ……!」
死体めいた顔が叫ぶ。歯並びだけは不気味なほど整っていたが、ひどく黄ばんでいた。発するガラガラ声に、バリツが知る師の生命力は感じられなかった。
その老人は、ゾンビのように両腕を掲げると、バリツに覆い被さってきた。
「わああああああああああああ!」
全身の痛みに身動きのとれないバリツは、悲鳴を上げる他なかった。
★☆繧ォ繝?ヨ?√き繝?ヨ?√い繧ッ繧キ繝ァ繝ウ?√い繧ッ繧キ繝ァ繝ウ?★☆
自分の知らないラム・ホルトの顔。
見たこともないような、恐ろしい形相。
眼は飛び出さんばかりに見開かれ、歯はむき出しとなり、顔のあらゆる筋肉が狂気に歪んでいた。
男は無慈悲なパンチを繰り返す。
師匠は――自分の胸部を、腕を、顔面を、容赦なく殴り付ける。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
上半身の前面のあちらこちらに激痛が殺到する。
「どうした! どおしたあ!」
(――――おじさん……どうして……)
「その程度か! 守るんじゃなかったのかね! ええ!?」
こんな日が訪れるはずがなかった。あり得ないはずだった。
だが、遠のく意識の中でバリツが見いだすラム・ホルトは、歯をむき出しにあざ笑い、眼をぎょろりと見開いたまま、バリツを確かに殺そうとしている。口々に嘲りを叫びながら。
迫り来る驚異を前に、余計にもがく。ただただ悔しかった。
両腕でガードと捌きを試みるも、元ヘビー級ボクサーの、凶器にも等しい鉄拳によるダメージは蓄積するばかりだった。
『チェックメイトだあああ!!』
やがて、渾身の一撃を見舞おうと、師匠が大きく拳を振りかぶった――。
★☆★☆★☆繧ゅ▲縺ィ蠑キ縺擾シ√b縺」縺ィ蠑キ縺擾シ★☆★☆★☆
息も絶え絶えに、バリツは――10年前のバリツは、横たわる。
ここは地下の石室。師匠ラム・ホルトの秘密の工房。
全身が熱い。傷だらけで、血だらけだ。
きっと骨も折れている。ろくに動けない。
ヘビー級の拳をガードし続けた前腕も、感覚がなくなっていた。
横目に映る大男。ラム・ホルトその人。
拳は血で染まっている。若きバリツを殴打したことによる血で。
師匠の目は、らんらんと輝いていた。まるで何かに操られているかのように。
その手には、大型のナイフ。
「捧げます、捧げます、捧げます――……」
ラム・ホルトはぶつぶつと呟いている。
彼が見つめる石坦には――意識を失っているのだろう赤毛の少女が横たわっている。
「……やめろ……」
バリツは切願する。ラムホルトは、奥歯が見えるほどに、異常な笑みを浮かべた。
そして思い切り振り上げたナイフを、少女の胸に――。
「やめろおおお★お★★繧?a繧阪♀縺翫♀縺翫♀縺★☆★☆繝ェ繧オ?√Μ繧オ縺ゅ≠縺ゅ≠縺★☆★
☆★縺顔夢繧梧ァ倥〒縺励◆?∵遠縺。荳翫£謇薙■荳翫£?☆
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……ふふふっ……
……。
…………。
………………。
作品名:CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(上) 作家名:炬善(ごぜん)