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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(上)

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こんな狂気のゲームの中でなければ、これからできあがる料理への期待に胸を膨らませているところだ。

「スープとやらがあるという話だったが……この鍋かな?」

バリツは手始めに、コンロに置かれた大きな鍋を覗き込むが、すぐに後ずさった。
「――っ!?」猛烈な鉄の香りが、執拗に鼻孔にまとわりついた。
スープとは――鍋いっぱいの血だったのだ。

「本当にこれを飲めというのか……!?」
「流石にコンソメスープは諦めたよ」

 言いながら、バニラはコンロの火に着火する。素材が集まりきっているかはともかく、今のうちに温めることで時間短縮を試みているのだ。

「――そういえば、施錠されていたという冷蔵庫は?」

 バリツが書物庫で見つけたあの本には鍵が隠されていた。
 その本はスライムが出現するトリガーと判断したバニラによって戻されたが、確か鍵は回収していたと語っていた。
 目論見通りなら、あの鍵は冷蔵庫のものであるはずだった。

「それがねえ。鍵はあったんだけど――」

 施錠されていたという冷蔵庫の鍵穴をみやると、あの小瓶に入っていた鍵が突き刺さっていた。扉をひらくと、ひんやりした空気が舞い上がる。
 
「なんだこれは?」

 中身はすべて、白と透明の塊。
仕切り一面に、砕かれた氷がぎっしり収まっているではないか。
 これは冷蔵庫、ではなく、冷凍庫だったのだ。

「素材なんてものはなかったよ」お玉で血のスープの鍋をかき混ぜながら、バニラは肩をすくめる。

「代わりにメモが入ってたんだ」
「メモ?」
「ウホ、そこの野菜の横に置いてあるぜ」

斉藤に促され、台所を改めて見遣ると、他の材料や道具の傍らにまじり、一枚のメモが置かれていた。バリツは訝りながら、それを手に取る。


『君の腕を信じて さあ スープ作りに レッツチャレンジ!』


すぐに裏を見遣ると、やけに左上に寄った文章が書かれていた。


『太陽の血涙が 寒さに震えるならば あたりはみんな 静まりかえ
る              』


「表面は白々しい文言だが……裏面はなんだろう? 詩だろうか?」
「さっぱり意味がわからねえ」斉藤は長いため息をつく。
「何かのヒントの可能性は否めないけどね」バニラはつぶやき、メモの傍らにあった野菜を鍋の中に加えると、火を弱火に設定し、鍋に蓋をした。

「バリツに見てほしいのは、あそこなんだ」

彼はキッチン脇の戸棚を指し示す。
 戸棚の中に多くの小瓶があるが、文字が読み取れないという話を受けていたのを思い出す。

 引き出しを開くと、そこには確かに、焦げ茶色の小瓶がずらりと並べられていた。
 一件調味料のようだが、瓶が着色されており、中身がパッと見て判別できない。そして、ラベルが貼られているが――どうやら外国語だ。

「書いてある文字が、俺や斉藤に読めないものばかりなんだ」バニラは語る。

 もし解読が難しければ、書物庫から該当する辞書を探すという案もあったが、あの膨大な蔵書の中からそれを探し出すことは効率的とはいえなかった。それに、辞書を持ち出してしまえば、またスライムが出現することは目に見えているのだ。

「ふむ……」

 まだ例のショックは当然覚めやらなかったが、二人のおかげでなんとか目の前の成すべき事に集中できる。

バリツは目をこらし、小瓶の文字を、一つずつ、できるだけ早く読み取っていく。

ほとんどは英語やラテン語。
すべての文字を読めたわけではなかったが、バリツはまもなく気づいた。

「どうやらここにあるのは調味料ではない――そもそも食用でない顔料や染料ばかりだ……中身は液体とも限らないようだ」

「毒っぽいのはねえのか? いっそ全部混ぜちまいたくなるぜ」
「そうはいかないんだよねえ。レシピにも、『使っていいのは一つだけだよ!』と明記されてる」

「あー、そういやそうだったよなあ!」斉藤はポリポリと頭を掻く。
「銀の食器とかはなかったっけか? なんか、毒を判別できるって聞いたことあるけどよ?」
「いや――なかったんだよね、それが。あっても不思議じゃないと思ったんだけど」
「なかなか上手くいかねえもんだな」
「銀は、毒薬に多用された硫化ヒ素に触れると黒ずむ性質があるからね。歴史上においても――ん? 待ちたまえよ……」

 バリツは小瓶の一つを棚から取り出した。
「これは――」
「こ……に……? バリツよう、そいつはなんだ?」
「コニウムと書かれているね」

バリツが見いだしたのは、『Conium』と表記された小瓶だった
 それは冒険家教授としての知識に含まれる単語だった。

「聞いたことがある……コニウムとは、毒人参の英語名だ。古代ギリシャの哲学者ソクラテスもこれをもって薬殺刑に処されたという」
「ってことは、こいつが?」
「毒とみて、間違いないと思う」
「おお……! 流石だぜバリツ」
「皮肉な話だが、自ら毒杯をあおったソクラテスの勇気に感謝だ。詳しい成分は、タン君がいれば聞けるのだが……」
「必要ないよ。それで構わないと思う」

 バニラが頷いた。
 血も。野菜も。毒もそろった。
 残るは肉のみ。
だが……。
 
「冷蔵庫の中にもなかったとなると……一体どこに?」

 書物庫も調べた。
 礼拝堂には、象の像と修道女のみ。
 小娘の部屋は、鉈を持つあの「幼女」がいたほかは注射器があったのみ。
 そして調理室は、調べ尽くした。

「最後の最後に、肉が品切れとは……」
「斉藤を追いかけてた怪物の肉も、蒸発しちゃったんだよねえ」

その時、ふとバリツが思い出した文章があった。

「そういえば中央の円卓の地図の裏面に――誰も傷つけることなく出られるなど、ゆめゆめ思うな……という趣旨の文章があったが……」

そして、嫌な想像が浮かんだ。

 肉がないにもかかわらず、大量の包丁。形状も様々。
 植物人間を打ち倒すことにも用いた肉切り包丁は、ただの料理に使うにしては大仰だった。

 その包丁に、他の使い道があるとしたら……人を切り裂くこと。
 切り裂く誰かがこの世界に存在するとするならば――。

「……あの礼拝堂の修道女を殺して、材料にしろということか?」

☆続