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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(上)

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12、肉



 スープ。野菜。毒。
 この悪趣味極まるゲームの世界で、三つの材料を手に入れてきた。
だが、最後の材料――肉だけがない。

まっとうな調理用の肉の不在が、ほぼ確定的と言っても過言でもない今。
この悪夢の世界に、肉にあたる何かがあるとするならば――。

 まるで人形のように、同じ事しか喋らない修道女。
 感情という物があるのか、ないのか、あまりに怪しい存在――。

「彼女を――材料にしろと?」

「……俺は見てないからなんとも言えねえけどよう」斉藤が頭を掻く。
「それは流石に、なんか嫌だぜ、俺は……」
「んー、ただ」バニラは顎に手を当てる。
「現状肉を調達する手段がないとなると、あとは俺たち自身の体くらいしか……」
「え」
「マジかよ」
「――いや、待った。それだ!」

突如として円卓の部屋のテーブルに向かったバニラだったが、紙片を手に調理室へ戻ってきた。

「……バニラ君?」「ウホ?」
「これ――」
彼は二人にメモを改めてみせる。
この世界で目覚めて真っ先に目にした文章だった。


《スープ作りの世界へようこそ!》
《君だけの素材を組み合わせて 最高の毒入りスープを作り出そう》
《ちゃんと作って飲めないと ここから出ることはできないぞ!》


「えっ?」「ウホゥ……?」
 訝る二人に、バニラは更に、台所で発見したメモの表面も見せる。


『君の腕を信じて さあ スープ作りに レッツチャレンジ!』


「バニラ君? 一体……」
「『君だけの素材を組み合わせて』、それから『君の腕を信じて』……」
 バニラが諳んじたその時、
「ウホォ! わかったぜ!」斉藤も叫んだ。
「え?」
「そういや、レシピの裏面にも書かれてたな! 『料理人は君だ。スープの仕上がりは“君の腕”にかかってる』……とかよう! ウっホ!」
「――ああ!」

 そこでバリツはようやく理解する。
 恐ろしい結論に。

「“腕”の肉を切り落として材料にしろということか……!」
「そういうことになるね」

 謎が解明され、沸き立つ一同。
だが――

「けど、っていうか……マジで腕切るの……?」

 バリツはぽつりと呟く。

沈黙。
 煮えたぎる血のスープの音だけが、調理室の中に響く。

 この世界は、夢の世界。そう何度も明言されている。

 だが、痛覚は現実と相違ない。
 それに、この世界では、指定された方法――正しく完成させた毒入りスープを飲み干す以外での死は十中八九、現実においても完全なる死を意味する。切り方にもよろうが、腕を切り裂いた拍子に失血死することもあり得るのだ。ある意味、人形のような修道女に手をかけるにも匹敵して躊躇われた。

「――躊躇っても仕方がねえ、ここは俺様が人肌脱ぐぜ」斉藤が至極真面目に提案し、最も大きな包丁に手を伸ばす。
「俺様の猿の肉体は、この為にあったってワケだ」

「待った」再び、バニラが何かに気づいた。
「バリツが『小娘』の部屋で見つけた注射器は、きっとこのためのものだ」

「このため? というと……?」
「麻酔薬を作る方法が、どこかに隠れているはずだ」
「――ウホ! それを突き刺した上で肉を切り落とせってことか!」
「しかし、一体どこに……? 戸棚の小瓶の中にあると?」

 バリツが見た限りでは、明白に役割を見いだせたのは毒物たる「コニウム」のみだった。他の何かを組み合わせることで麻酔にあたる何かを生成できる可能性はあったが、それは薬学の知識のあるタン・タカタンなしでは導き出せない。

「いや――恐らく、ヒントはこっちだ」

 バニラが提示するのは、冷蔵庫の中に入っていたメモ。
 その裏側だ。


『太陽の血涙が 寒さに震えるならば あたりはみんな 静まりかえ
る              』


「『あたりはみんな静まりかえる』……この下りは、麻酔の比喩だと思う」
「では『太陽の血涙が寒さに震える』なる文言が、製法にあたると?」
「『寒さに震える』ってのが指してるのは、冷凍庫か?」
「いや……それじゃあ血時計のカウントに間に合わない。氷と何かを混ぜるんだと思う」
「太陽と言えば――炎? コンロの火かな?」
「あるいは――明り」

「ウホぃ、二人とも。あれじゃねえか?」

 斉藤に促され見遣る先――中央の、円卓の部屋の天井。
 この世界で目覚めた時、真っ先に視認した、むき出しの暖色電球。

 そこでバリツの眼は、ある事実を捉えた。

「! あの電球の中に、何か入ってないかね?」

 電球の先端部に――黒い何かが貯まっている。
 意識しなければ、単なる汚れとしか認識できなかっただろう。
 バニラと斉藤も発見に至ったようだ。

「ウホッ、任せな! 取ってやる」
「待ちたまえ、斉藤君。流石に素手だと火傷するんじゃないかね?」
「大丈夫大丈夫――ウオッホホホゥ! あっぢい!」
「いやいや! 忠告したよね!?」
「こんな時にまたコントやってるのかい……」

 バニラが呆れる傍らではあったが、斉藤はほどなくして、無事に電球を取ることに成功した。

瞬く間に、円卓の部屋の景色は、恐ろしい暗闇に飲み込まれた。
書物庫から燭台の明りがかすかに伸びてはいるが――明りらしい明りがあるのは、もはや調理室の電灯だけだ。

 電球の中を検めると、バリツが目視した通り、ドロッとした黒い液体が貯まっていた。

「ウッホ、こりゃまた……まるでタールだな」
「とにかく、試してみよう」

 バニラが用意していた氷入りの小鍋に、電球の中に入っていた液体を混ぜると、シュワシュワと音を立てて、氷が瞬く間に溶け出した。
恐る恐る見守るうちに――それはやがて、黄色みを帯びた透明な液体に変化した。
できあがった液体の一部を注射器に移すと、その見た目は立派な麻酔そのものだった。

「しかしよう、これで本当に……麻酔になるのか?」
「どうやらそれで合ってるみたいだよ」

別の作業を行っていたバニラが即答する。
彼は冷蔵庫のメモの裏面――その右下に、不自然な空白があったのが気がかりだったらしい。
 バリツが検める傍ら、彼は周到にも、コンロの火にメモを近づけていた。隙間に隠された文字があれば、これであぶり出せると考えたのだ。
 
 そしてその予測は、的中した。バニラは、メモの不自然な空白に、新たな文字を見いだしていたのだ。

「……? どういうことだ?」
 だが、バニラが訝った。
「どうしたね? バニラ君」
 斉藤とバリツは、新たな小さな文章を見遣る――。

『中央の部屋の電球の中身✕冷凍庫の氷=血止め機能付き局所麻酔 だよ! でも肝心の注射器はないんだな! ざんねんでした!』

「この主催者よう、完全にケンカ売ってやがるよなあ」
 猿人斉藤は、鼻息を荒くして唸る。
 だが三人は、明らかな矛盾にすぐに気づいた。

「注射針、思いっきりあるよね? ……ここに」
「これが注射針じゃない、なんてことはないよな?」

「引っかかるな」バニラは首を傾げる。「ここまで悪趣味なゲームを仕組んできた黒幕が、なんでこんな変なところに限って変なミスをしてるのかな」

「もしかして、罠なのか?」

「いや――」バリツは、二人(一人と一匹)に語りかける。