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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(上)

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斉藤は、あの部屋に飛び込んだ瞬間、信じられないほど大きく口を開けた怪物に、下半身から飲み込まれかけた。

だが、目の前で無数のきらめきが起きたと同時に、風を感じた。
何が起きたかわからなかった。
確かなのは――なにやら逆さまになっていた自分の体が、瞬く間にバラバラになったこと。
その後ろにいた怪物の全身も、あっけなく吹き飛んだこと。
自分の首が切り落とされ、宙を舞っていたということ。
そうして苦痛を感じる暇もなく、意識は途絶えた。


……だが、終わりではなかった。
斉藤は再び目覚めたのだ。

そこはどこかで見覚えのある電車の中。
というか……かつて自分が作ったアトラクション電車。

「全く、随分とオマエも無茶をしたようだな」

目の前には、どこかで見た猿。
『きさるぎ駅』の怪異で最終的に味方となった猿。
斉藤貴志の、心の友。

「お前は……エリックか!」
「現実ではなく夢だったから、ドウニカ干渉してヤルことができた」
「お前が助けてくれたのか? なんていいやつなんだ!」

エリックに歩み寄るが、ようやく違和感に気づく。
エリックは自分より背丈は元々低いが、ここまで差があったか?
そもそもやたらと視点が高くなっている。頭は天井すれすれだ。

自分の右手を見る。でけえ。ゴツゴツ。
左手。やっぱでけえ。かっけえ。
ってか、人間の手じゃねえ!

「悪いな、今使えるボディはそれしかないんだ」

 そうして斉藤は悟った。
どうやら自分は、巨大なゴリラになってしまったようだと。

聞けば、前回の黒幕ミ=ゴからの粛正を逃れたエリックは、無事に他の場所で生き残っていた仲間と合流できた。

《猿夢》の世界の片隅で、復讐の機を伺っている時、怪異に囚われた斉藤の気配を偶然感知した。

不審に思ったエリックは見守っていたが、斉藤の生命の危機に際して、仲間の猿たちと共に行動。夢の世界で首を切り落とされた斉藤が完全消滅してしまう間一髪のところで、『スペアボディ』を装着したのだ。

ミ=ゴの技術を盗用して生み出されたそれは仲間の猿が重傷に陥った時を想定して開発されたものだったが、夢の世界の斉藤の肉体――頭部は、見事にこのボディに適合した。

「スペアボディはソレだけだ。コレ以上はない。ソレから――現実でドンな影響が出ているか分からぬ。覚悟だけは決めといてほしい」
「望むところだぜ、エリック」
「次に電車が止まったら降りるんだ。オマエがいるべき場所――果たすべき役割の舞台に戻るだろう」

電車徐々に速度を落とし、やがて止まる。

斉藤はのしのしと、開かれた出入り口から外へと踏み出す。
 目の前には、光が広がっていた――。
 斉藤は振り返り、エリックに親指を立てて見せた。

「元気でな、エリック」

 エリックも彼に答えた。 

「また会おう斉藤。オレたち猿はイツでもオマエの味方だ」


 …………。