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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(上)

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「ってわけだ! すげえだろ! みてくれこの筋肉!」

天を仰々しく指し示すようにして、特撮ヒーローめいたポーズをとる斉藤。話を聞いていたバリツとバニラのテンションとは雲泥の差である。

「……そりゃあ、あの」ぽつぽつと語るバリツ。「すごく、いいお話、風、なの、だけど。というか、じっさい、斉藤君が生きてて実に喜ばしいんだけど」
「やっぱりさっぱり意味がわからない……」
 バニラですら額を片の平手で抱え込むほどにぶっ飛んだ話だった。

 だが、話の中で明らかになったことがある。
斉藤が生還したのはあくまでもイレギュラーであり、基本指定された方法以外でこの世界で死ぬことはそのまま消滅を意味するのだ。


「とにかくよ」斉藤はこれまでになく自信満々な笑顔で語る。「そんなワケでこの俺様も舞い戻ったわけだし、探索を続けようじゃないか」
「あ、うん……そうだネ」

 実際その通りであった。
 バニラとバリツも、斉藤がいなくなってからの経緯をかいつまんで共有する。

 まず二人は礼拝堂の様子や、そこで得たレシピについて斉藤にも教えた。

「修道女?」ゴリラと化した斉藤は、(初めて「小娘」の部屋の存在を聞いた時のように)一瞬高揚した様子だったが、

「ちょ、ちょっとだけ覗いてもいいか?」
「その人、銃を持ってたけど。行くの?」
「う、ウホぅ……?」

若干圧のあるバニラの即答を受けると、視線を天井に向けて(吹けてない)口笛を吹き始める。
猿の体を歓迎してはいるが、なんだかんだ、色好みが故の行動はあの一件で懲りてはいるのかも知れない。

 バニラからは、彼が一足先に覗いていた調理室の情報が得られた。
すぐ見つけた鍋の中には、確かに「スープ」があったらしい。
台所の上には、今手にしている他にも複数の包丁があった。なんと冷蔵庫まであったが、鍵がかけられていたらしい。
そして戸棚には、焦げ茶色の小瓶がずらりと並んでいたという。

「施錠された冷蔵庫に……色の付いた小瓶か」
「冷蔵庫はいつものツールがあれば開けられそうなんだけどねえ。小瓶は調味料ないし毒だと思うけど、俺には読めなかった」
「小瓶は私も見てみよう。ああ、それから冷蔵庫の鍵なのだが、ひょっとしたら――」

 バリツは、書物庫でみつけた書物について言及する。
先ほどの混乱の中落としてしまっていたが、特徴的な包装からすぐに再発見が叶った。
書物庫から持ち出した本を、バリツは二人に見せる。

「この本の中に、鍵が隠されていたんだ。冷蔵庫の鍵に合致しないだろうか?」
「うん、形状としても合致すると思う」

本を受け取り、瓶を確認した後その前のページをめくるバニラと、それを横から覗き込む斉藤は唸った。

「罰ゲームってのは、俺様が切り裂かれたアレのことで間違いなさそうだな」
「うん。あの部屋は元々トラップだった可能性は高いね」
「それにしても『狩り立てる恐怖』の下り――残念でしたとは、今読み返しても頭にくる一文だ……」
「黒幕はマトモじゃないのはわかりきってるけれどね」

 義憤に駆られるバリツに対し、バニラは至極冷静に答える。

「結果論だけど、あの怪物をなんとかするには、植物人間をなんとか捉えて捧げるのが正解だったのかもしれないね」
「ううむ。それにしても、とんだ初見殺しだ……」

「今の俺様ならあいつとも渡り合えるけどな」言いながら大胸筋と上腕二頭筋を誇示する斉藤は無視し、バニラは本を閉じた。

「とにかく、小瓶の中の鍵を早速試してみたいね」
「うむ」バリツは頷いた。バニラが調理室で発見したという施錠された冷蔵庫。その中にまだ見つけていない素材がある可能性は高かった。

スープはあったとのことだし、怪しい小瓶の列も見つけたという。だが、毒があるかは確定的ではなく、野菜も肉も、未だ見つかっていない。

「まだ見つけていない素材を発見できると良いのだが――」

 ぼり、ぼり、もり、もり。

 唐突な咀嚼音に振り返ると――斉藤が先ほどの植物人間を口に運んでいるではないか。

「野菜なんだがよう」

バリツはあんぐりと口を開け、バニラもその場に固まった。

「この植物、煮れば食えるんじゃないか?」モグモグと頬を脈打たせながら、猿人間は語る。煮れば食えると語ってる側で生で食しているその様は、あまりにシュールだった。「バターと醤油がほしくなる味だな……」

「まあ……どうやら野菜は手に入れたね」
 そう語るバニラに、カチコチの笑みを浮かべるバリツも頷く。(「こんなもんより俺はバナナが食いてえ!」と咆哮する斉藤は無視した。)

「と、とにかく――一度、調理室へ向かおうかね?」
「そうだね。コンソメスープ作りにも少しは目処が立ってきたみたいだ」
「バニラ君、コンソメスープ好物なの……?」

 バニラの表情も口調も変化は窺えなかったが、コンソメスープの下りは、バニラなりの冗談なのかもしれなかった。

 だが、三人(二人と一匹)が調理室に足を運ぼうと試みたそのとき、バリツはある違和感を覚えた。

 この円卓の部屋から見て、部屋は4つ。
つまり、扉も元々4つ。
 調理室の扉は吹き飛んでいるから残り3つと言うことになるはずだ。
 
だが――残り2つしか、扉が見当たらない。
錆びた鉄の扉と、小窓付きの扉のみだ。

「待てよ――?」二人に呼びかけた。
「書物庫の扉、どこに消えたのだ?」

「ん? ――ッ! 斉藤っ!」
「ウホ?」

 バニラが飛び退いた途端、斉藤の肩に何かが振ってきた。
 一体どこから現れたというのだろう?
それは、巨大なゲル状の何か。
ファンタジーゲームでいう所の、スライムと言うべき怪物。
 うねうねと光沢を放つそれは、瞬く間に肥大化し、斉藤の巨体をあっという間に包み込んでしまう!

「いい度胸だ! 猿の力を得た俺様に敵うと思ってるのか! 食ってやるぜっガバゴボボボ!!」

 叫んだ斉藤の頭部までもが、スライムに飲み込まれ、全身を覆われた斉藤は地面に転げ回り、中央の円卓や壁に激しく激突しまくる。
 
「斉藤君――!」なんとか介入を試みるが、無駄だった。暴れ回る斉藤を飲み込んだスライムに触れども、中から彼を引き出せる気配が全くなかった。せめて顔周りだけでも剥がせれば、窒息は逃れさせることができるが――。
「くそ、バニラ君、手を貸してくれまいか――」

 だが、バニラの方を向いたとき、彼はこの場に眼を向けてはいなかった。
バリツは見た。若き元戦場カメラマンが、こちらに背を向けて、淡々とした足取りで調理室の中に入る瞬間を。

 バリツはふと、考えてしまった。
自身が植物人間に襲われた時も、バニラは助けに入ったときの共倒れのリスクを真っ先に考えていた。
彼は――斉藤を切り捨てるつもりなのか?

「バニラ君!!」

ギィィィィィ……。

背後からの鈍い音に、バリツは凍り付いた。

決して大きな音ではなかったのに、それはやけに深く、深く、聴覚に染みこんだのだ。

恐る恐る振り向いた先は――《小娘》の部屋。

そのドアが、独りでに開け放たれている。中からの刃の音も、いつの間にか止んでいた。

バリツは見た。

扉の先。