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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(下)

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13、いと逞しき牙持つ神




「う、おおおおおお……っ!?」

引きずられる暗闇の中、なんとか全身をよじらせ、摩擦熱を逃がそうとする。

 向かう先は、礼拝堂。

 鉄格子の扉は独りでに開かれ、バリツは中へと一気に引き込まれる。そのまま奥へ、奥へと。

 やがて一瞬、小さく、ふわりと浮かび上がったかと思う間もなく、地面に乱雑に叩き付けられ制止する。
  
「ぐほぁ! ……あ、がっ……」

 しばらくの間、痛みのあまり動けなかった。
 起き上がるのもやっとの有様だった。

うめきながら、視線を彷徨わせるバリツは、決して薄暗くなかったはずの礼拝堂が暗闇に満ちていることに気づく。

 ただただ――頭上からの光に照らされる、眼前の像を覗いては。

今にも何かを捻り殺さんばかりの四つの腕。醜悪な蛭を思わせる長き鼻。鋭く巨大な二つの牙。

バリツは戦慄した。
その相貌は今や赤く染まっていた。矮小なバリツを見下ろし、にらみつけていた。

「……!」

激しい地鳴りと共に、像に異変が起きる。
像の表面の石はみるみるうちに崩れ落ち、代わりに、イボだらけの皮が隆起していく。ゴツゴツした、活火山の岩場めいた黒みがかった表皮が。

「……!!」

バリツは言葉を発することもできなかった。
目の前の現実を、ただただ呆然と見上げる他なかった。

石の表皮を剥がしきりやがて現れたのは、像の頭に、人間に似た四肢を持つ、巨大な怪物だった。

怪物はけたたましく吠える。
バリツはとっさに耳を覆った。まるで何十人もの太古の戦士たちが一斉に鳴らす角笛だった。

『チャウグナ―・フォーン様の登場だよおおお……!』

信じがたいことに、その怪物は言葉を発した。真っ赤に燃え、らんらんと輝くその眼光は、バリツを射止めたまま離さなかった。

「尾取村」に「猿夢」と怪異を体験してきたが――かつてこれほどまでの驚異に相対したことはなかった。スケールが違いすぎた。

(チャウグナ-・フォーン――この怪物の名前だろうか? こいつが今回の黒幕なのか!?)

 バリツは後ずさろうとするが――足が、動かない! まるで足首までが、深い泥にハマってしまったかのようだ。

どうやら周囲に斉藤とバニラの姿はなく、自分だけが囚われたようだ。
 二人が無事であるならそれに超したことはない。
 だが、なぜ自分だけがこうして黒幕と相対することになっているのか!?

 少なくとも確かなのは、どうやらこの巨大な神性と、相対する他ないということ。
 あまりに恐ろしかった。けれど。やるしかない!

「おお! いと逞しき牙持つ偉大なる神よ!」
思いつきの敬称を添えて声を張り上げる。言葉を発するならば、こちらの言葉も通じるのではないかという目論見だった。
「この世界は、あなたが生み出したものなのか!?」

『いかにも』人間の言葉を受け、邪悪なる神は四つの豪腕を広々と掲げてみせた。猿巨人と化した斉藤ですら、赤子も同然の威容だった。

『この空間は――元々我が娯楽のためにつくりあげた空間なのだな』

「娯楽……?」

 こんなふざけた娯楽を……!? そう問いたかったが、でかかった言葉をなんとか飲み込んだ。生殺与奪の権を明白に握られている今は、できうる限りでも言葉に気をつけなければならないだろう。
一呼吸の後、続けて問いかける。

「……私たちは、あなたのおっしゃるとおり、確かにスープを作った。なのに――これは一体!?」

『確かに君たち三人は、見事毒入りスープを作ってみせた。ギミックの再調整をはじめたばかりだったというのに、お見事だったよ。ただひとつの不正を覗いてねえええ!』
「ふ、不正っ?」
『あの世界に注射器はワザと用意していなかったというのに、あれをどこで手に入れたのかなあ!?』

何故かやたらと拍子抜けしそうな話しぶりだが、口から発する一言一言の度に、動物園と残飯受けを混ぜたような悪臭が広がり、その声量に臓腑が震え上がった。なによりその独特の口調が、かえって更なる圧をもたらしていた。

「そ、それは――……」

バリツは調理室のメモ――その中に隠された文字の事を思い出す。麻酔の製法に続いて記された『肝心の注射器はないんだな! ざんねんでした!』の一文。どうやら麻酔のための注射器をワザと用意していなかったという悪意は本当だったらしい。(今はそれを咎められる雰囲気では到底なかったが。)

 しかし、バリツは「小娘」の部屋で注射器を発見した。
それは大きな矛盾であり、残された疑問だった。

「小娘の部屋の――娘子が……」
『それみたことかああああ!』

長い鼻と四つの腕を天上へ掲げ、神は怒りに吠えた。
突然の絶叫、というより轟音を前に、身を竦ませざるを得なかった。

『やはり君にはエクストラゲームが必要なんだなあ……!』
「え、エクストラゲーム……!?」

 なにやら恐ろしい文言が飛び出している。パニックになりかかりながらも問わざるを得なかった。

「お待ちいただきたい! 私たちは、あなたのおっしゃるとおり、確かにスープを作った。なのに、エクストラゲームとは!?」

『白々しい~ねえええ……!』邪悪なる神性がブルルルと唸ると、湯気が口元から噴き出した。
『我はちゃんと見ていた。君は書物庫の本を読んだはずだよぉ』
「――あの本の事か……!」

 書物庫で発見した小瓶入りの書物。
その「スープの夢について」と記されたページが思い出された。

まず礼拝堂についての『神様はみているよ』との記述。それは比喩や謎かけではなく、文字通りの意味だったのだ。この巨大なる邪神が、像の姿に擬態して、ゲームに臨む者の動向を監視していると。

『書いてあったでしょう? 小娘の部屋に入ったものには罰が待っていると』

そうだ、確かに記されていた。
だが、バリツはすぐに思い出す。あの部屋に飛び込んだ怪物がバラバラに吹き飛び、多量の血を残した斉藤が消息を絶った光景を。

「記されていた罰、とは……切り刻まれることではないのか!?」

『それはそれで想定とは異なるが成立していた。誠に遺憾ながらねえ。だからこそ、始めに飛び込んだ彼は見逃した。けどさ。何故君は無事なのかなあ?』 

「あ……」

 言われてみればその通りだった。
 自分は斉藤がスライムに襲われ、ピンチに陥った際、中から手招きを受けた。想像を絶する体験を強いられ、ショックを受けはしたが、五体満足だ。
神は唸る。

『あの人間は確かに《小娘》に殺されたが、実に面白かった。どうやら外部から魔力の干渉を受けたようだけど、バラバラにされたくせに異なる肉体を持って、復帰してみせたのだから。なかなか楽しませてもらったよ――なのに君はどうしたものかなあ!?』

「……っ!」

『バラバラにもなってないし、体も何も変わってない。どころか、なかったはずのアイテムを受け取ってのうのうとしている! おかしくないかなあ!』

 異なる体をもって復帰したことについては、猿と特異な縁で結ばれていた斉藤と同列に語られてはたまったものではなかったが、突っ込んでいる場合ではなかった。