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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(下)

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「不正」といえば、本来あり得ないはずの死からの蘇りは、この邪神にとっても想定外のはず。だが彼は、「幼女」に切り刻まれた斉藤がエリックたち猿の手助けを借りて蘇ったことについては不問としているらしい。むしろ、面白がっていた節すらある。

一方で、あるはずのないアイテムを「幼女」から受け取ったバリツについては非常な憤りを覚えている。

 恐らく――あの「幼女」から手を借りた。それがこの怪異が固執する一点なのだ。

 バリツは「幼女」が黒幕ではないと直感していたが、どうやら事実この邪神と幼女は結託していたわけではない。むしろ、「幼女」はこの邪神に酷く毛嫌いされているようだ。

 だが、ますますわからなかった。

「……ゲームの主よ! 私は確かにあの娘子から注射器を受け取った! しかし、決して不正を意図してのことではないとご理解いただきたい!」
『この後に及んで言い訳かいいぃ?』

 火に油を注いでしまったかもしれないことを、バリツは一瞬後悔しかかった。だが、ここまで来たら引き下がれない。
バリツは問う。長きにわたる疑問を。

「どうか教えていただけまいか!? ――あの幼女……あの娘は何者なのか!?」

 怪異はブルルル……と気怠げに息を吐いた。
 数秒の間があった後、象牙の神は身じろぎした。

『本当に知らないのかいい? 本当にいい? まあいいやあ。教えて差し上げようぅ』

「……!」

『あの娘は、我に言わせれば、ちょこまか動き回る不細工な羽虫ってところだよ』

邪神は四つの腕のうち、下方に当たる二つの腕を組む。

『イブ=ツトゥル氏やニャルラトテップ氏にまで目にかけてもらっているときてるんだから、将来をよっぽど期待されているんだろうねえ。まあ、我はそう思わないけど』

(イブ……にゃる、なんだ? 神々の名前か?)バリツが疑問に思うまもなく、彼はその名を聞いた。

忘れがたき名称を――「幼女」を指す言霊を。

『大仰にも、《未だ孵らざる神の卵》なんて二つ名もらっちゃってさあ。うらやましいこと、うらやましいこと』

「未だ孵らざる……神の卵……!?」

『ところでだ。始めに行った通り、この空間は我が手塩にかけて作り上げたゲームの世界だ。眠りについている貴様ら人間の魂を駒として集め、観察するという娯楽のためのねえ』

呆然とするバリツを尻目に、怪異は延々と語り続ける。
あまりにも、現実離れした話を。

『長いこと我はこのゲームを楽しんでいた――だがナマイキにも、突如現れたあの小娘はだった一人で突破してしまった。まるで始めから仕掛けを見破っていたかのように、あっさりとだよ……! 駒どもの単位で言うなら、ものの1分8秒だ!』

「な……あの子が私たちより以前にこのゲームに挑み、あっさり攻略したと? いったいどういう――」

『しゃべってるのは我なんだけどおおおお!?』

 怪異の一喝に、バリツは震え上がった。

ここまで一件(圧倒的な力の差が前提とは言え)意思疎通が成り立っていたかのようだが、そうではない。

この怪異はバリツと対話する気などない。一件疑問に答えているように見えるかもしれないが――元々言いたかった不満を、一方的にぶちまけているだけなのだ。目の前のちっぽけな虫けらをきっかけとして。

現に先ほどから、バリツを見るのではなく、自身の忌々しい記憶をたどるようにあちらこちらの宙ばかりを追っているのだ。

『あの娘はそれだけでは飽き足らず、《しもべの部屋》に居座り、刃物を振り回す遊びなどを始めちゃったのだ。つまみだそうものの、あの娘は他の神々か何かの加護があるのか、何故か我の魔術がすり抜けてしまうのだ――』

(《しもべの部屋》とは――《小娘》と記された部屋のことか……?)

 幼女――《未だ孵らざる神の卵》は、どうやら自分たち三人がこの世界に囚われる以前、同じくこのゲームに挑んだ。しかも自ら進み出て。
 そしてあっという間に攻略したばかりか、ゲームの世界に居座ってしまった。どうやらこの邪神の手を持っても、追い出すことができない。
これだけでも頭がクラクラしてくるような話だった。

『あの小娘はいつまで経っても部屋から去る気配がない。故に、《しもべの部屋》を実質封じた上でゲームを再構築せざるを得なかった。だがこのままでは腹の虫も収まらない――』

だが最大の疑問があった。

(そこから何故――私と斉藤君、そしてバニラ君は巻き込まれたというのだ……?)

しかしながらバリツが問うまでもなく、邪神の饒舌はその疑問に結果的に応えることになった。

『そこで、考えた。あの小娘は、人間どもの世界や夢の世界を遊歩する中、そこの者どもと少なからず接触している。ならば、近頃接触した手頃な虫けらを、作り替えたゲームに巻き込んでやろうとね。そうして痕跡を辿ったところ、一つの建物に接触の後がある人間が三人も集まっていたというわけだ。人間どもが攻略できたならそれはそれで面白い余興。死んだら死んだでざまあみろというわけだよ』

(なんてやつだ……!)

 バリツは思考を回転させる。
 バニラが毒入りスープを飲す直前、投げかけた疑問が脳裏を過ぎる。

 ――このゲームは、本来はもっと整った体裁だった気がするんだ。それを無理矢理いじくりまわしたかのような違和感がある……急ごしらえでヤケクソ改造したかのようなさ。

 邪神が語るのは、その回答だった。
 この邪神はつまり、《未だ孵らざる神の卵》によって自身のゲームを台無しにされた腹いせに、自分たち三人を呼び寄せた。
タン・タカタンだけは逃れていたが――自分たちは「猿夢」の空間で彼女と接触する機会があったのだ。

そして作り替えかけのゲームの調整と八つ当たりをかねたというわけだ。彼にとって、参加した自分たちの生死はどうでもよかったのだ。


『おしゃべりは終わりだよぅ』


 唐突な一言の後、頭上の明りが、一気に暗みを帯びた。
同時に、見えない力で拘束されていた足が、動くことを感じた。

だが、逃げるという発想は浮かばなかった。

邪神の真っ赤な両の眼は、未だ頭上に輝いていた。
そして周囲の風景はいつしか様変わりしていた。
礼拝堂ではない、無限の暗黒が広がる空間に。

出口など見いだせるはずがなかった。これが《ゲーム》を内包していた空間と言うことなのだろうか?

「…………っ」

 バリツは恐怖に身構える。
何かが起ころうとしている。
恐ろしい何かが――。

クスクスクス……。
笑い声。

声の方向を見遣ると――あの修道女が立っている。バリツは凍り付いた。
人形めいた、しかしながら柔和な微笑みはそこにはなかった。静かに……しかし嫌にニタニタと微笑んでいる。自分が初めて知る修道女が何かの抜け殻だとするならば――その抜け殻に、悪意に満ちた亡霊が取り憑いたかのようだった。
そして――その手にはあの小さな拳銃。

「――……――……」

 修道女は、何かをぶつくさと呟いている。延々と。
 バリツはまもなく、それを聞き取り、背筋を凍らせた

「あなたは罪を犯しました。あなたは罪を犯しました」

女の手が目にもとまらぬ早さで動いた瞬間、バリツと修道女の間に火花が瞬いた。

 パンッ――。