彼方から 第三部 第九話 改め 最終話
イザークが【天上鬼】であり、ノリコが【目覚め】であることが、至極自然で……当たり前のことであるかのように……
――エイジュも、
――今は何処にいるのか……
ふと、
二人のことを共に語り合いたい……
そんな思いが頭を過り、アゴルは自嘲を籠めた笑みを浮かべていた。
ガタガタと、街道の小さなの凹凸に車輪を取られ、揺れる馬車の荷台の上。
皆の荷物やジーナと共に、その揺れに身を預けながら、
「あたし――今まで何も考えず、占いの結果を受け入れて来た」
ゼーナが感慨深く、口を開く。
御者台に腰掛け、馬の手綱を持つアニタ。
その隣で共に座っているロッテニーナが、ゼーナの言葉に怪訝そうに振り向いている。
「でも、最近は色々考えるんだよ……」
俯いていた顔を上げ、遠く、想いを馳せる。
「……なぜ、あの二人が【天上鬼】と【目覚め】なんだろう」
遠く、果て無く続く空を見上げ、想う。
「なぜ…………」
と……
一台の馬車を中心に、七頭の馬を従えた一行が、見える。
誰が誰なのか、判別すら出来ないほど小さなその影を、高い山の上から、少し木々の開けた場所から二人が……
イザークとノリコが、互いに、安堵したかのように笑みを向け合い、見やっていた。
その手に一つずつ荷物を持ち、少し、名残惜しむように一行を見やり、二人は踵を返してゆく。
並び、歩を合わせ……共に――
煌めく陽光と、穏やかに吹く風に抱かれながら……
***
占者の館が、跡形も無く崩れ去った、その、三日後。
ワーザロッテとその護衛の者たちが、瓦礫の中から助け出された。
親衛隊の連中も、傷を負いながらも自力で、這い出していた。
黙面という化物に因って、人間離れした力と体力を、授けられていたからだろう。
けれどもう、今はその力も、ない……
与えられたに過ぎない、その『力』のみを頼りとしていた彼らにとって、そのことは……
力を失ってしまったことは、立ち直れない程の打撃であり――
やがて……
ワーザロッテの下を去り、散り散りに、消えていった。
親衛隊を失い――占者タザシーナと後ろ盾となっていた『黙面』をも失ったワーザロッテもまた……
同様に政界の表舞台から、姿を消していた。
途端に……
ワーザロッテの配下に甘んじていた者達が、取って代わるように、権力を誇示し始める。
その権力闘争に、国専占者として長い間務めていたゼーナを、再び利用しようと、動き始めた。
だが……
既に、彼女の姿はグゼナには無く――
ワーザロッテの後ろ盾となっていた、かの化物……『黙面』を利用しようと、その行方を捜すも、その姿も既に無く……
ただ噂だけが……
グゼナの国、占者の館で繰り広げられた出来事だけが、『噂』として――
人づてに、他の国々へと、広がっていった……
第三部 ―― 完 ――
作品名:彼方から 第三部 第九話 改め 最終話 作家名:自分らしく