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その両手をポケットにしまいたい。

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「タマゴが先か、ニワトリが先か、みたいだね」稲見瓶は、少しだけ笑う。
「要するにだ、乃木坂に興味津々、て事だろうが!」磯野波平は眉を顰めて大声で言う。風秋夕は嫌そうな顔をしていた。「乃木坂が俺らの魂だって事だろうがあ!」
「ざつ」
「だね」
「うっせえ」
 トレーニングをして、汗をかいたので、風秋夕は乃木坂46のグッズであるTシャツを脱いだ。
 壁面一杯に埋め込まれた巨大な鏡に、風秋夕の細身の筋肉質な身体が映し出される。
「あれ、夕君……」
 不意に<エクササイズ・ルーム>に入ってきたのは、乃木坂46一期生、生田絵梨花であった。
「あれ、イナッチ、と波平君だ。あ……。夕君、脱いでる」絵梨花は、手の平で口元を隠して、可愛らしく驚いてみせた。
 風秋夕はそちらを振り返る。「ん。ああ、おう。いくちゃん、元気してる?」
「うん元気……、だけどあ!」
 生田絵梨花は巨大な鏡に映り込んだ、風秋夕の背中を見つめていた。
「あら、好きな人の名前って、そういう事なのう……」絵梨花はほくそ笑む。「な~るほどね、ふう~ん」
「見られちゃったね」夕は無邪気に微笑んだ。「ひなちまにも見せなきゃな。約束だから」
「俺は何も言ってないよ」稲見は無表情で淡々と言った。
「普通いれっかあ?」磯野は鼻息を吐いて、呆れた顔をする。
「俺の、誇りなんだ」夕は絵梨花ににっこりと微笑んだ。「いくちゃんもうご飯食べた?」
 巨大な鏡に映し出された風秋夕の大きな背中には、大きく羽ばたいたフクロウが一匹いて、その片足には、宝玉が握りしめられている。
宝玉の中には、こう記されている。
 乃木坂46と――。


                    二千二十一年五月十七日 完