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ミノスを待ちながら

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(ヨウイチロウ、まだかな?)
 
檻の上に寝そべりながら、ガマは村の入り口となる方向を見続けていた。何度目の朝を迎えたのか、多くを数えられないガマは数を数えるのをやめていた。もともと、それほど多くは数えられない。

(お腹すいたな)

村中を回って集めた食べ物もなくなり、食べられるのは葡萄だけになっていた。

(ヨウイチロウ、まだかな・・・)

 もうすぐ冬になる。雪が降り始めたら自分は死ぬだろう。体力が落ちて歩くこともままならず、食料している葡萄を集める時以外は檻の上で横になっているだけなのだ。その葡萄すらもうほとんどない。雪が降るよりも先に死ぬかもしれない。

(まだかなあ・・・)

ヨウイチロウが迎えに来てくれる。この村から連れ出してくれる。その想いだけがガマの気力を支えていた。それでも、体力は徐々になくなっていき、一日の大半をガマは眠って過ごすようになっていた。

 そうして、来るはずのない人を待ち続けていたある日、村の入り口の方から足音が聞こえた。

 (ヨウイチロウ!?)

 待ち望んでいた人が来たかと、体を起こして、入り口に目を向けた。しかし、現れたその人影は、ガマが待ち望んでいた人ではなかった。記憶の中にある人よりも背丈が低かったのだ。

 (違う・・・)

 では誰がこの村を訪れたのかと、凝視していると向こうもガマに気づいたのか、村の億に向かおうとしていた足を止め、様子を窺っているようだった。

「お前、もしかしてガマか?」
「誰?!」

突然、村に入ってきた人物はガマを認めるとこちらに向かってきた。

「その声、やっぱりガマか。お前、ここに残ったのか?馬鹿じゃねーの。ああ、バカだったな」
「カシワ?!なんで?!」

村に入って来たのは『あの日』村を飛び出していった女だった。

「お前、こんなところで何を・・・。くっせえ」

両手に西瓜を包んだ様な物を下げてカシワはガマの所へ歩いてくると顔を顰めた。

「なんだよ、このヒデェ匂い。お前、ちゃんと風呂に入って・・・、ああサチのか」

ガマが座っている檻の中にある「それ」を見つけ、カシワは悪臭の原因に思い至った。そこには、かつてこの村の長であった老婆の死体が転がっていた。長いこと放置されていたため、その体は腐っており、骨が見える箇所出始めていた。

 「埋めてやらなかったのか」
 「俺たちを騙してたんだ。埋めてやることなんかない」
 「ハッ、それもそうか」

 (子供が出来た)

村人の前で膨れた腹を見せ、サチがそう宣言したのは何時のことだったか。もう、随分と昔な気がする。

 (これで、この村は安泰だ)

 あの時のサチはまるで神か仏のように見えたっけなぁ。

 (・・・こども・・・なくなった・・・)

 しかしあの時、ガマが腹を刺したとき、水が溢れ出てきて、サチの腹は萎んだ。サチの腹に子供はいなかった。

 ―村はもうおしまいだ。

 そして、みんな村を出て行った。
 
サチが身『籠った』子は村を、村の女たちをこの先ずっと守るはずだった。この、どこか澱んだ空気に満たされ、衰退していくのが感じられるこの村の灯りとなるはずだった。

 (アイツが現れなければ)

 カシワはサチの死体を見ながら苦い顔になる。

 (オレが、もっとシキミを信じていれば・・・)

 目を瞑れば、愛した人の顔が浮かんでくる。サチの腹の中にあるのは子供ではなくただの水だと言っていた。けれど、シキミはこの村の生まれではなく「外」から迷い込んだで来た「居候」という扱いだった。この村ではサチの言葉は絶対であり、それに反することは許されなかった。
そのため、シキミは罰を受けることになった。カシワは、罰を受けるシキミを見ていることしか出来なかった。それが彼女を見た最後の姿だった。

「それより、なんでカシワは戻ってきたの?」
 
 檻を中を見下ろしながら、感傷にふけっている様子のカシワにガマが声をかけてきた。

「戻ってきたら悪いのか?」
 
カシワはガマを睨んだ。

「ヒッ。べ、別に悪くなんかないよ。戻ってきた人なんかいないから、気になって・・・」
 
(相変わらず、イライラさせる奴だな)

 久しぶりに聞いたガマの、年齢の割には高い声が不快でつい声を荒げてしまったが、村にいた頃と変わらずにオドオドして謝る姿に、カシワは笑みがこぼしていた。
 
「まあいいや。今、オレは結構気分が良いから教えてやるよ。仇をとったから、それをアイツに知らせに来たのさ」
 
シキミは、手に持っていたものを掲げ見せながらそう言った。

「それ、なに?」
「アイツへの土産さ」

そう言って、カシワは右手のものを少しの間睨みつけていた。

「それよりも、ガマはここで何してんだ。サチの墓守か」
「・・・待ってる」
「待ってる?何を?」
「・・・ヨーイチロー」
「ヨーイチロー?なんで、アイツを」
「ここから出してくれるって。迎えに来てくれるって言った」
「ブフォッ」

洋一郎の迎えを待っている。ガマのその答えを聞いたカシワは堪えきれないといった感じで笑い出した

「何がおかしいの」
「いや、だってお前、どう考えたってアイツが迎えに来るわけないだろ」
「ヨーイチローは来る!」
「来ないって。来れるわけないって・・・」
「ヨーイチローは来る!」
 
 ガマの勢いにひるんだカシワはガマに背を向け、笑いがこみ上げてくるのを抑えようとした。暫くして立ち上がると、村の奥に向きを変えた。

 「どこへ行くの?」
 「お前のいないところだよ」
 
 ガマの問いかけにそっけなく答えて歩き出そうとしたカシワだったが、何かを思い出したかのように急に振り返り、「落とすなよ」と言って、左手に持っていたものをガマに向かって放り投げた。
 
 「なにこれ?」

その声に慌てながらも胸元に抱え込むように受け取ったガマは戸惑いながらカシワに尋ねた。

「土産だよ。お前のこと嫌いだけどな、せっかく会えたんだからやるよ」

ニヤリとした笑いを見せながらそういうと、こんどこそ村の奥へと歩き去っていった。

「それと、開けるのは日が沈むころにしてくれ。そのくらいの時間が一番いいころだから。それじゃあな」
「・・・わかった」

村の奥へと歩き去るカシワの背に向けてガマは答えた。そして、丸くて少し重みのあるものを不審に思いながらも、それを抱えたまま、いつものように村の入り口へと目を向け、そして知らず知らずのうちに横たわり、そのまま眠ってしまった。

 ガマが目覚めたときにはすでに陽が沈みかけていた。まだ、少しだけ山の頂上から太陽の欠片が見えている。ガマはカシワの言葉を思い出し、かかけていた包みを開けてみると、ゴロンと何かが転がり落ちてきた。
 丸い物の片側からは黒い毛の様な物でおおわれていた。

 「なんだ、これ・・・」

ガマは、それを両手で持って回してみた。

「ヒィッ!!」
 
 黒い毛で覆われた面の反対側を目にしたとき、ガマは驚きで心臓が止まる心地がした。
 
「え?なんで、どうして?え?」

 恐怖にひきつったかのように目は見開かれ口が大きく開かれたその顔は忘れるはずもない傍島洋一郎の顔であった。