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そして新しい今日ははじまる

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夢を、見た。
 俺はカラーギャングの一員だった。何処のギャングかは分からないが、街を歩いていると色々な人から、よお臨也、と声を掛けられたり、近況を聞かれたりしたから、ああそうなのだなと直感した。
池袋はいつもと変わらない。それなのに、人々が紡ぐ「臨也」という名前は非常に非日常的で不愉快だ。よお臨也。あっ、臨也さんだ。久し振りだな、臨也。
それらの声に初めは何も思わず一つ一つ返事をしていたのに、段々と違和感が胃にのし掛かるようになってきた。気持ち悪い。
その後からは口を開く気もなく、返事をせずに素通りだ。なんだ、今日の臨也は不機嫌だなあ。そんな声が背中の向こうから聞こえた。そうだよ、俺は不機嫌だ。その言葉すら俺を逆撫でする。

 池袋を歩き回って自分のことを考えているうちに、胃に詰まっていた違和感の正体を見い出した。俺は折原臨也。情報屋だ。決してカラーギャングなどではない。ああ、ダラーズに属してはいるが、あれは自分達の色など持たないから特に関係はない。
ではなぜ俺はこんな最下層レベルの不良どもの一員に属して街を歩いているのか?俺は池袋を上から眺めていたはずだろう。そう考えてから、自分の思考の矛盾に気付く。始めから分かっていたではないか。俺は夢を見ているんだと。そうだ、ここは夢の中だ。

 そう実感した瞬間、街の温度がぬるりと変わってざわめいた。俺はくるりともと来た道を振り返る。そこには現実と同じく、明るくて灰色な街並みが広がっているだけだった。夢の中でも、池袋という街は俺が現実に見ているそのままの姿を醸していた。俺がこんな立ち場にいるのは解せないが。
ふと、俺の身の回りの人物を思い出す。浪江、竜ヶ峰帝人、罪歌とその宿主、セルティ、サイモン、妹二人。…それから、静雄。そういえば、俺がカラーギャングなら静ちゃんは何をしているのだろう。服に見合うバーテンでもしているのか。
なんとなく気になって、静雄を探すために辺りを見回しながら、また道を歩く。もはや声を掛けてくる輩もいない。気持ち悪さはとうに消えて、俺はいつの間にか情報屋の臨也に戻っていた。


 がしゃん。暫く歩いていると、そんな大きな音が一つ向こうの道から聞こえた。これこそ俺の探し求めていたものだ。大体に於いて、静ちゃんの周りでは破壊音が聞こえる。現実の静雄が脳裏に浮かび、ポストでももぎりとって投げたのであろうか、と思うとくっくっと笑いが洩れた。
無論、静雄のことは大嫌いだ。俺の思い通りになろうとしないから。しかしだからこそそれが可笑しくて、大嫌いだからこそ突っかかりたくなる。
がしゃん、ばりばり。さらに大きな音がして、目の前を自転車が右から左に水平移動。自転車は道路を挟んだ向かいのビルに突っ込んで、これまた派手な音を立てた。
これは確実に静ちゃんだな。自転車をアメコミのように投げることができる人間が世界に何人いるだろうか。舌なめずりをする。ここは静雄の視界に入らないところに逃げるべきか。今の静雄の標的は別の人間のようではあるが、俺が静雄の目に入れば嫌でも俺がターゲットにすり替わるだろう。先程のビルように自転車を投げつけられれば、俺だって死んでしまうかもしれない。いや、夢の中だから死にはしないのか。
そんなことを考えていたら、自転車が飛んできた方の道から、見知らぬ人が恐怖をその顔に纏いながら走って出てきた。続けて、キレて抑えの利かなくなった静雄も走ってきた。静雄はいつものバーテン服で、いつものように暴れているらしかった。逃げる暇もなかったけれど、まあいい。さあ、追い掛けてこいよ。まるで俺に対するレーダーが付いているかのように、静雄はいつも俺を探し当てる。これだけ近ければ、必ず俺の方を向いて俺の名を叫びだすだろう。三歩だけ下がってから、ナイフに右手を伸ばす。ナイフを使う気はほぼない。もしもの時と、脅しの意味を込めて。もっとも、静雄には小さな刃物ごときの脅しも攻撃も効かないだろうけれど。
静雄がゆっくりとこちらを向く。あのどこか狂ったような目で。それにニヤリと笑みを返すと、静雄の目は完全に俺の姿を写して、把握した。

 把握した、はずだった。

 静雄は俺から目を反らして、先程から争っているらしい見知らぬ男に焦点を合わせた。そして、そいつを指すような言葉を叫びながら、街灯をぼきりと折り取り、振り回した。わあわあと回りの一般人がそこから逃げていく。見知らぬ男も含めて。
そんな混乱のど真ん中。俺は少しも動くことができなかった。静ちゃんが俺を認識しない?いや違う。認識したのに、無視したのだ。
再び胃の中がぐるぐると動き出した。気持ち悪い。静ちゃんが俺を見て無視するだって?そんなの有り得ない。だって静雄は俺の事が大嫌いで。俺も静雄が大嫌いで。いつも命懸けで喧嘩をして。俺は人間を愛するのとは違う意味で静雄を愛していて、静雄も俺を憎んでいるからこそ愛している。そうだろう?

 静雄は男に向かって街灯を投げた。ひいいい、と叫ぶ被害者たちの声。五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿い。
静雄の即席の武器は見知らぬ男に直撃し、彼はそのまま気絶して地面に伏した。それを確認した静雄は、落ち着きを取り戻す。そして、俺の立っている方に向かって歩いてきた。
ざっ。ざっ。足音が近付いてくる。俺は表情すら動かせない。それなのに、心臓だけは拍動を早めている。ドクドクと頭に響く音を聞きながら、俺は俯いて立ち竦んだまま斜め下のコンクリートを見詰めることしか出来ない。
ざっ。静雄の足が俺の視界に入るところまでやってきた。有り得ない、有り得ない!静雄からは殺気がまるで感じられない。街の中で出逢ったというのに。俺の目の前にいるのに。殺気が感じられないなんて有り得ない。
ざっ。俺の隣まで来ているのに。
ざっ。歩みが止まる気配は全くない。そしてそのまま歩いて行くのだ。

 おかしい。なんだこれは。俺は石のように動こうとしない身体に負荷を掛けて、無理矢理後ろを振り向いた。既に数メートル遠ざかっていた後ろ姿に向かって、口を開く。

「静ちゃん!」

 半ば必死だった。ああ愉快だ。静ちゃんという名前をこの口に紡がせるだけだというのに、俺は全神経を集中させていたのだ。
いつものように、その名前で呼ぶんじゃねえと怒ってくれ。気持ち悪さは最高潮に達していた。目が回る。静雄は顔だけ振り向いた。目が此方を認識する。そして、静雄はかったるそうに口を開いた。

「…誰だ、てめえ」

 その言葉を聞いた瞬間に、額に鋭く痛みが走り、そのまま視界がブラックアウトした。