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彼方から 余談・エイジュ・アイビスク編 最終話

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 余談 〜 エイジュ・アイビスク編 〜 

 第六話 改め 最終話


 星が、夜空一面に煌めいている。
 揺れる、黒い客車の中から聴こえる二人の話し声に耳を傾けながら、エイジュは御者台の上で一人、口元を緩めていた。

 舞踏会からの帰路……
 クレアジータの命を狙った者達の襲撃を受けた。
 ただ、金で雇われただけの、荒くれ共など敵ではなかった。
 その荒くれ共を雇った本人……ライザも、最後には殺意も戦意も、喪失していた。
 騒ぎに気付き、危険も顧みず駆けつけてくれたローリを宿へと送る為、エイジュは馬の手綱を手に、街の中心から少し離れた郊外へと向かっていた。

「御者なら、わたしが努めますが……」

 道中、何度も同じ言葉を掛けてくれるローリに、何度同じ言葉を返しただろうか……
 思い返すと、笑みを禁じ得ない。
 恐らく、己よりも強いことは分かっているがそれでも、煌びやかな服を纏った『女性』を、御者台に座らせておくことに、抵抗があるのだろう。
 断る度に渋々と、窓から顔を引っ込めるローリの表情を思い出しては、エイジュは目元を緩ませていた。

「目に見えない世界……光と――闇……ですか……」
 
 途切れ途切れに聞こえる二人の会話。
 耳を欹てなくとも、千切れた言葉を繋ぎ合わせれば、自ずと、内容も理解できる。
 彼は……ローリは、去り際に、クレアジータがライザに掛けた言葉の意味を訊ね、その話に聞き入っていた。

          ***

「あくまで、内面的な心の問題ですし、それに、具体的に書かれているわけではなく、抽象的なものなのです……ですからその意味は、一人一人が感じ取っていくしかないものなのだと思います」
「……クレアジータ様はそれを、各地の伝説や言い伝えの中から、見い出されたのですか?」
 クレアジータの話しに、頷きながら耳を傾け、ローリは真摯な眼差しを向け、訊ねてゆく。
 彼の眼差しに、
「そうですね……少し時間が掛かりましたが――」
 クレアジータも真摯に応えるべく、
「見い出したと言うよりも、それらの記述の中に、共通する『何か』を感じ取ったと言う方が、正しいかもしれません」
 言葉を選び、返している。
「……それが、光と闇の世界――わたし達の世界と、互いに影響を与え合う世界ですか……」
「そうです……私達の世界と目に見えない世界の接点は、各々が持つ心……そこに在ると思っています」
 眼に見えるわけでも、触れることが出来るわけでもない、世界……
 ただ、言葉だけで語られるには、あまりにも不確かで、心許無い世界……
 ローリは何度も、クレアジータの言葉を噛み締めるように反芻し、大きく溜め息を吐いた。
「仮に――あなたの語るその世界が実在したとして……わたしでは、その『光の世界』とやらへの道など、開けそうにありません」
 そう言って、困ったように肩を竦めながら、眉を潜めた笑みを向けてくる。
「どうして、そう思えるのですか?」
「――え?」
 どこか諦めたような感じを受ける表情のローリに、クレアジータは問いを返しながら、
「心とは、思いです」
 温かな笑みと共に、そう続けていた。
「思い……」
 言葉を繰り返し、見詰めてくる彼に、
「魔を見極め、光を求める『思い』……形のない、実体のない、目に見えないものですが――何かの『力』を、持っています。その『力』に因って、やがて『思い』は形となって現れると、私は思っています」
 クレアジータも、自分の想い、考えを、誠実に言葉にしてゆく。
「思いが、形に……」
「……はい」
 彼の、クレアジータの柔らかで確かな輝きを持つ瞳を、暫し見詰めた後、ローリは自身の心を見返すかのように、考えを巡らせるかのように黙し、客車の背凭れに身を預けていった。
 そんな彼の様を、無為に声を掛けることはせず、見守るクレアジータ。
 静かになった客車の気配を背中で感じながら、エイジュもまた、小さな笑みを浮かべていた。

          ***

 郊外の宿。
 そこは、今夜の夜会の警備の為に、各地から一時的に集めたられた保安員たちの宿泊所として、用意された宿。
 ローリも例外ではなく、自身が隊長を務める班の班員たちと共に、ここを今夜の寝床と、定められていた。
 先ほどの騒ぎで、いつの間にか馬が逃げてしまっていた為、仕方なく――二人が乗ってきた馬車で送ってもらったのだ。
「助かりました」
 客車の中のクレアジータと、御者台のエイジュに向けて、深々と頭を下げるローリ。
 クレアジータは、静かに首を横に振ると、
「こちらこそ、礼を言わせてください」
 そう言いながら、客車を降りようとしていた。
「クレアジータ様、何を仰るのですか……あなたが礼を言わなければならない様なことは、何も……」
 彼の言動にハッとし、少々焦りながらもローリは客車に戻るよう意を籠めて、両の手でクレアジータを制している。
 だが、その程度のことで、クレアジータの行動を止められるわけも無く……
「あなたは危険も顧みず、私達を助けようとしてくれたではありませんか……どうか、礼を言わせてください」
 感謝の言葉と共に差し出された彼の右手を、どうすれば良いのか対処に困り、ローリは暫し、見詰めていた。

「……いえ、わたしなど――」
 差し出された『手』に、応えて良いものかどうか……迷う。
 クレアジータの感謝の意の籠った言葉とその瞳に、却って恐縮してしまう。
 自分が現場に着いた時、既に十人ほどの荒くれ共が倒れていた。
 あれは、エイジュの仕業であるのは間違いがないのだから、自分など、行く必要などなかったのだと、今は思う。
 現場に向かった動機が何であれ、己がその場に行ったことで、彼女に、余計な手間を掛けさせてしまったと……そう思えてならない。

「そんなこと、ないのではないのかしら……」

 不意に、頭の上から降ってきた声に、思わず顔を上げる。
 まるで、頭の中を覗いたかのような彼女の言葉に、ローリは驚きを隠せない。
 彼女は口の端を軽く上げたような微笑みを向け、
「普通の人なら、見て見ぬフリをして通り過ぎてしまうのでしょうけれど、あなたは違ったわ……騒ぎを聞きつけ、何とかしようと、駆けつけてくれたのでしょう?」
 と、言ってはくれるのだが……
「それは……そうですが――」
 その言葉を、素直には受け入れられない自分が、やはり、居る……
 こちらの意を、慮ってくれるクレアジータやエイジュの言葉は、正直嬉しい。
 だが、そう思って行動し、本当に何とか出来るものなら、何も苦労はしない。
 現に、少し腕に覚えがあるからと首を突っ込み、助けるどころか反対に助けられてしまったのだから、身の程を知らぬとは正に、このようなことを言うのではないかと、ローリは思う。
 迎賓館の特別室で使用人の女性を助けた時は、こんな風に思いはしなかったのだが……
 エイジュと自身の、圧倒的な力の差というものを感じ取ってしまったが故に――なのだろうか…… 
 自戒の念に言葉を濁し、顔を俯かせてゆく彼を見やり、