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彼方から 余談・エイジュ・アイビスク編 最終話

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 そう言い置きながら椅子に戻り、
「あの報告書に書かれた人達を護る為に……彼女は白霧の森へと、向かったのではないでしょうか……」
 まだ、酒の残る器に、口を付ける。
「……『誰か』の――もしくは、『何か』の……命で――」
 その『何か』に、思い当たる節はある。
 だが、もし、その推測が当たっていたとしても、それではあまりにも、こちらの世界にとって直接的な影響なのではないかと、思えてならない。
 しかし、『影響』だけを見るのならば、今の世の時勢は確実に、『闇の世界』の影響を多大に受けていると言える。
 ……『誰か』――或いは『何か』の『意思』が、感じられるほどに……
 光と闇の均衡を、崩しかねない程に……

 ――もしかしたらエイジュは
 ――その、為に……?

 突拍子もない発想のように思える。
 だが、一度思い付いてしまった事柄は、そう簡単に頭から消すことも出来ない。
 クレアジータは酒の器を見据え、黙し、物思いに耽り始めていた。

「クレアジータ様」

 ダンジエルに名を呼ばれ、ハッとする。
 思案を巡らせすぎて、少し、惚けていたようだ。
「な……何ですか?」
 自分の世界に入り込み過ぎたことを恥じ入り、少々焦りながら問う、クレアジータ。
 ダンジエルは年を重ねた者らしい、穏やかな笑みを浮かべながら、
「わたしは、ただ単に、魔の森の噂を耳にしたエイジュが、『あなた』の為に、気を利かせただけのように思いますが……どうでしょうか」
 考えすぎる嫌いのある彼に、注意を促すかのようにそう、述べていた。
 老君の、優しく、温かみのある瞳を見ていると、すっ……と、肩から力が抜けていくように思える。
「そうですね……」
 酒肴を摘まむ。
「それだけのこと――かもしれませんね」
 口に含み、今度はゆっくりと味わうように、噛み締めてゆく。

 ダンジエルの笑みに見守られながら、揺らめく灯明の光が映り込む酒に、眼を落とす。
 ただの考えすぎ……そうかもしれないと思いながらも、どこか、頭の片隅で、自身の研究とエイジュの行動を、クレアジータは重ね合わせていた……




        余談  〜 エイジュ・アイビスク編 〜  
           
           ―― 完 ――