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BYAKUYA-the Withered Lilac-5

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 ハイドは、自らの顕現が減少したのを感じたのだった。そして対するビャクヤの顕現が増していた。
「ふっふふふ……」
 ビャクヤは、全身に青い、顕現の光を纏い始めた。これは、ビャクヤの顕現が最も充実している事を意味していた。
「それじゃあ。再開しようか? 少年……!」
 ビャクヤは、空中に蜘蛛の巣を作る。
「ここにも……」
 ビャクヤは、巣網をあちこちに張り巡らした。不規則な張り方だが、目的は何か、ハイドには分かった。
ーーあいつめ、オレを囲むつもりだな……!ーー
 断ち切ることは容易い罠である。しかし、そうやって巣網を壊すだけでも顕現は吸い取られてしまう。
 故にハイドは、ビャクヤの張る巣網の隙間を掻い潜って離れようとした。
「逃げてもムダさ!」
 ビャクヤは跳躍した。跳ぶと同時に手から糸を伸ばし、宙に張った巣網と繋げると、瞬時に巣網に身を置いた。
「なあっ!?」
 ビャクヤは、まるで空でも飛んでいるかのように、巣網と巣網の間を行き交った。
「足下……!」
 ビャクヤは、巣網の間を跳びながら地面に向けて、何かを投げつけるような動きを見せた。
「なにっ、しまっ……!?」
 ビャクヤは、地面に罠を張っていた。地面の罠は、それ自体が生き物であるかのように、ハイドが触れた瞬間に彼の体に巻き付いた。
「ほうら。捕まえた」
 ビャクヤは笑みを浮かべ、巣網を蹴って鉤爪を全て直線に伸ばし、ハイドを突き刺そうと飛びかかった。
 ハイドは、腰元まで拘束され、その場から一歩たりとも動くことができなかった。このままではビャクヤの鉤爪に貫かれ、待っているのは死である。
 しかし、ハイドにはまだ逃れる術はあった。刀を体の前に立て、それを中心に顕現を解き放った。
「イグジス、解放……うああああ!」
 体の一点に集中させた顕現を一度圧縮し、一気に放出することで爆発を起こした。
「うわっ!?」
 ビャクヤは落下するしかなく、爆風をまともに受けてしまった。吹き飛ばされた先には巣網があり、ビャクヤはそれをクッションにして体勢を整えた。
「いったいなー」
 顕現の爆発に巻き込まれた割にはダメージが全く大きくなく、ビャクヤはかすり傷も負っていなかった。
 その代わり、体以外の部分に大きなダメージがあった。
ーー今がチャンスだ。畳み掛ける!ーー
 ハイドは、爆発し、燃える炎のようになった顕現を全身に纏い、赤い輝きに包まれていた。
「逃がさねぇ!」
 ハイドは、ビャクヤに向けて駆けた。
「懲りないねぇ。キミも……」
 ビャクヤは、まるでなんの考えも無しに走ってくるようなハイドを捕らえるべく、糸を放とうとした。
「えっ。糸が出ない?」
 宙にかざしたビャクヤの手からは、何も出なかった。
 ビャクヤがダメージを負った場所は、顕現の『器』であった。一度に強力な顕現の衝撃を受けたことによって、ツクヨミほどではないが、ビャクヤの『器』も傷付いてしまったのである。
 完全に壊れてしまったわけではないため、能力の行使の一切を断たれる事はなかったが、ビャクヤは糸を作り出せなくなってしまった。
 ハイドは、走りながら刀を逆手に持ち変えた。
「円環ノ凶渦、『ブラック・オービター』!」
 ハイドが刀を真横に振ると、その軌跡から赤黒い円盤状の弾が、ビャクヤへと向かって飛び出した。
 ビャクヤは、鉤爪を前で折り曲げ、赤黒い円盤を受け止める。
「爆ぜろ!」
 ハイドが切っ先を向けると、円盤は炸裂した。辺りに顕現が散る。
「地ヲ穿ツ影、『シャドウ・スケア』!」
 ハイドは続けて、刀を地面に突き刺した。その瞬間、先に散った顕現が槍のように尖ってビャクヤの足下から襲いかかった。
 ビャクヤは、足下から突き出る槍を一本ずつ鉤爪で打ち払っている。その間にハイドは、ビャクヤへと近付き、地を蹴って高く跳び、ビャクヤの注意力が及んでいない頭上から顕現の溜まりを繰り出した。
「深淵二咲ク黒蓮、『ダーク・ロータス』!」
「ぐっ……!」
 足下、頭上と同時に攻め立てられ、ビャクヤは守りきれなくなってきていた。
「終わらねえ!」
 ハイドは、残った顕現を刀に全て込めた。
「死ぬんじゃねぇぞ!?」
 ハイドは大きく振り上げる。
「天地斬リ裂ク荒神ノ咆哮、『レイジングロアー』!」
 ハイドが振り下ろすと、弧を描いた顕現の衝撃波が、ハイドの最大の力を持って打ち出された。
 ハイドの顕現全てが炸裂し、辺りは赤黒く染まった。
「はあ……はあ……!」
 文字通り全力を尽くしたハイドは、刀を支えにして肩で息をする。少しでも気を緩めれば、そのまま倒れてしまいそうだった。
 目眩でぐらつく視界を前になんとか前に向けると、ハイドは絶句した。
「ウソ……だろ……?」
 ハイドの思いは、声になっていなかった。
 全身全霊を込めた一撃を見舞ったはずなのに、ビャクヤは目立った傷もなく立っていたのだ。
 ビャクヤは、ニッコリと笑った。そしてつかつかとハイドの近くへ寄っていく。
 ハイドは抗戦しようとするが、顕現を使いすぎたために、立っているのがやっとの状態であった。
 ハイドがそんな状態であることをいいことに、ビャクヤは至近距離まで近寄った。そして鉤爪を三本伸ばし、ハイドの体を挟み込んだ。
「目障りだよ」
 ビャクヤは、伸ばした鉤爪をひっくり返し、ハイドを地面に叩き付けた。
「あんまり手間かけさせないでよ」
 次はハイドの顔を地面に押し付けながら引き摺り回し、まだ刀を握っているハイドの腕を踏みつけた。
 やっと刀を手放したのを確認し、ビャクヤは手を広げて巣網を顕現させた。
 ビャクヤは、地面に押し付けたハイドを鉤爪で持ち上げると、顕現させた巣網に投げ飛ばした。
 顕現の蜘蛛の巣はハイドを捕らえ、鉄線ほどの強度を持つ糸が、体に食い込むほど拘束した。
「おーい。生きてる?」
 ビャクヤは、うなだれたハイドに顔を寄せて声をかける。
「……離し、やが、れ……!」
 ハイドは、息も絶え絶えに返答した。
「よかった。まだ息があったんだね。言っておきたいことがあるんだ。もう少しだけ生きててよね」
 ビャクヤは、顔を離し、ハイドの鼻先に指をさした。
「悪気はないけれど。邪魔はさせてもらった。正義の味方面したその表情がさぁ。なんだか無性にイライラしちゃってね」
 ビャクヤがハイドに因縁をつけた理由であった。正義の味方然としていた事もビャクヤの癇に障るものだったが、ハイドの自分とは真逆の人間性にも苛立っていた。
「キミさぁ。最後の攻撃。何て言ったかな? あまりに痛々しい名前だったから忘れたけど。その時こう言ってたよね? 死ぬんじゃねぇぞ。って」
 ビャクヤは、呆れたように両手を広げた。
「殺す気でやられてれば。さすがに危なかったよ。けど。キミはそうしなかった。罪を憎んで人を憎まずってやつかい? まったく。そう言うやつを見てると。心底ムカムカしてくるよ……!」
 ビャクヤは、鉤爪を一本ハイドの肩口に突き刺した。
「がああ……!」
 ハイドから苦痛の声と共に血煙が上がった。
「ふーん。さっきのでほとんど顕現を使っちゃったのか。食べられるところがない。ついてないや……」
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac-5 作家名:綾田宗