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BYAKUYA-the Withered Lilac-5

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「そうだよ。命あっての物種というじゃないか。この祭壇は放棄して逃げてくれ」
「放棄なんてあっさり言ってくれるわねぇ。アタシがこの祭壇を造るのに、一体いくらかけたと思っているのかしらぁ? ま、たった一千万ぽっちだけどぉ」
「こんな祭壇、またいくらでも造ればいいだろう? アジ・ダハーカが喰らわれて戦う能力が無くなってしまったけど、僕の担当は頭脳労働だ。『深淵』が出現する位置ならまた予測できる。だから今回は……」
「あら?」
 ふと、二人は巨大な顕現の高まりを感じた。それは、紋章のある扉の奥、この祭壇の中核である『深淵』からである。
「なんて顕現なんだ……! ロジャーが堕ちてしまったのも分かる気がするよ……」
 ケイアスは、虚無に落ちて死亡したかつての仲間を思い出す。
 胸が悪くなるような顕現の量に、嫌悪を示すケイアスとは真逆に、ヒルダは歓喜していた。
「これよ! この顕現、あの時とは大違いだわ、量も大きさも! ケイアス、アタシは今夜こそ『再誕(リヴァース)』を目指すわよぉ!」
 『深淵』の顕現を自らの『器』に取り込み、『偽誕者』を超えた存在、『再誕者』となる。ヒルダが『忘却の螺旋』という組織を作り上げたのは、全てこのためであった。
「そのためにもぉ、今こっちに向かっている子も糧としてあげましょ」
 ヒルダは、すぐそばで凄まじい『深淵』の顕現を感じながら、この場に迫っている者の存在を感知していた。
「……ヒルダ。もう君には付き合いきれない。君が『再誕者』を目指すこと自体はこの組織の決まりだ、止めはしないよ。けど僕は退散させてもらうよ。君も、精々命を無駄にしないことだ」
 ケイアスは、戦いに巻き込まれるのを避けるため、そそくさと祭壇を後にした。
「全く、臆病ねぇ。仇を討つなんてガラじゃないけどぉ、アタシが倒してあげるわ!」
 どんどん近付いてくる顕現の気配を、ヒルダは嬉々として待ち受ける。
 ヒルダの野望は、まさに成ろうとしている。そのように今は、見えていた。
    ※※※
 ビャクヤが、『煌と朧の祭壇』の扉を開いた。
 外見は寂れた雑居ビルであるのに、ここだけは舞踏会に使われそうな荘厳な部屋になっている。
「これはすごいね。大金持ちの住む大豪邸みたいじゃないか」
 ビャクヤが驚いているのをしり目に、ツクヨミは部屋の真ん中へと歩く。
 そこに、女が待ち受けていた。
 この世界に於いて最強にして最大の能力者集団組織、『忘却の螺旋』のトップであり、『眩き闇』と呼ばれる女、ヒルダである。
「ようこそ我が『煌と朧の祭壇』へ。夜も更けた今、今夜の挑戦者はアンタたちで最後かしらぁ?」
 ツクヨミは、険しい表情である。
「相変わらずやることが大仰ね。無駄だとは思うけど一応言っておく。久しぶりね、『眩き闇』」
 ヒルダは、片方眉を上げる。
「久しぶりぃ? アタシ、アンタにどこかで会ったかしらぁ? なにせ刺客来客の多い身、覚えられる事は多いけど、誰かを覚えることは少ないのよねぇ……」
 ヒルダは、自らが潰した、当時『忘却の螺旋』に次ぐ勢力を持っていた組織、『万鬼会』の幹部であったツクヨミを覚えていなかった。
「まぁ、さしずめ、アタシに掃除された雑魚が恨みで復讐しに来たっ、て所かしらぁ? うふふ、そういうリターンマッチなら大歓迎よぉ?」
 ツクヨミは眉ひとつ動かさない。
「やはり覚えてはいない、か……」
 今のツクヨミは、かつて『万鬼会』に属していた頃に比べれば、かなり趣味様相が変わっていた。あの日のような戦闘服姿であれば、思い出してもらえたかも知れないが、ツクヨミにはどうでもよかった。
「私が、いえ、私たちが来たのは復讐のためではないわ。あなたを倒すのは、私の目的を達成するための過程に過ぎない」
「なんでもいいけどぉ、なんなら二人まとめて相手するし。でもアンタ、大したイグジスを感じないけど、本当に戦えるのぉ?」
「おあいにく様、私は能力を持たない一般人。無力な弱者をいたぶるのが趣味なら、好きにすればいい。今夜、あなたの相手をするのは、私ではなく、この子、弟のビャクヤよ」
 指名を受けたビャクヤは、ニッコリと笑い、照れたような仕草で片手を頭にやり、ヒルダに会釈する。
「やあやあ。どもども……」
 今度は、終始ツクヨミを見下したようなヒルダが、ツクヨミのような険しい表情をする番だった。
「……暗くて底の見えないイグジス。アタシが言うのもなんだけど、気味の悪い感じねぇ」
 ビャクヤから感じる顕現は、大して強くはないように思えた。力の強さならこちらが勝っていると、ヒルダは思った。
「けどぉ、興味深いわねぇそのイグジス! こんな時じゃなきゃ仲良くしたい所なのに」
 微笑を浮かべ、目を伏せ、ビャクヤは首を横に振る。
「美しいおねーさんに良くしてもらえるのは悪くない。けどダメだ。それはこの姉が許してくれない」
 ツクヨミは、わざと驚いたような素振りを見せた。
「あら、私は別に、あなたを縛っているつもりはないのよ? あなたが、その女の許に行きたいと言うのなら、止めるつもりはなくってよ?」
 ビャクヤもやはり、わざと悲しいような表情を作る。
「何を仰るのですか。お姉様。僕は貴女だけを愛しているというのに」
 ツクヨミは微笑む。
「正直ね、それでこそ我が誇りの弟よ、ビャクヤ」
「このアタシを前にしてイチャイチャするなんて、随分舐められたものねぇ」
 ヒルダは、二人の茶番にしびれを切らしていた。
「そのふてぶてしい態度。気に入ったわ、ズタズタにしてあげるわ!」
 ヒルダは、戦意を剥き出しにする。
「おお。こわいね。姉さんにも襲いかかってきそうだ。姉さん。こいつには手加減の必要はないよね?」
「ええ、何も気にせずに殺ってしまいなさい。そしてその女に見せてあげるのよ。この世の地獄でも、あの世の地獄でもお好きな方を、ね」
 ビャクヤは、ニッコリと笑った。
「オーケーだ。後は任せておいてよ。お姉様」
 ツクヨミは、二人から離れ、丁度いい所に腰かけた。
「と言うわけだ。僕はおねーさんに恨みはないんだけど。姉の命令(シスハラ)でね。消えてもらうよ」
 ビャクヤは、ヒルダを小馬鹿にしたように、ニコニコと笑い続けている。
「その減らず口、いつまで続くかしらね? そのにやけ面もいつまでそうしていられるかしら。……あぁ! 見てみたいわぁ! 姉弟揃って絶望し、泣き崩れる顔をね!」
 ヒルダの周りに、黒い顕現の衣が渦巻いた。剣にも槍にも、更には鈍器にも変化させられる、変幻自在の能力だった。
「さあ。今宵のラストバトルと行きましょう! 精々抗いなさい、アタシが『再誕者』へと至る糧にしてあげるわぁ!」
 人当たりの良いビャクヤの笑顔が、一瞬にして殺戮者の笑みに変わった。
「なら。精々弱々しく抗わせてもらうよ。僕もおねーさんの泣き崩れる顔。見たいからね」
 ビャクヤは、背中に四対八本の鉤爪を顕現させた。
 最強の力を持つ『眩き闇』と、あらゆる顕現を喰らう『捕食者』の決戦が、始まった。
 先手を打ったのはヒルダであった。
「刺しなさい!」
 ヒルダの周りを渦巻く黒い顕現が巨大な刃となり、ビャクヤへと迫る。
 ビャクヤは、慌てる様子もなく後退した。
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac-5 作家名:綾田宗