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BYAKUYA-the Withered Lilac-5

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Chapter12 永劫の七日間(Seven Days Immortal)


 その日も暮れ、『夜』がやってきた。
 夜空には、一つの欠けもない満月が、煌々と闇夜を照らしている。
 顕現の捕食者(プレデター)、ビャクヤとその主、ツクヨミは、日が傾くと同時に家を出て、『夜』の入り口となる場所を目指した。
 ツクヨミにとっては、久方ぶりの『夜』への訪れであった。此度に『夜』に赴いたのは、『光輪』の紅騎士ワーグナーとの接触以来の事である。
 金色に煌々と輝いていた月は、ビャクヤたちが『夜』に入ると、真っ赤に変色し、かすかにかかる霧を赤く照らし、周囲を不気味な様相にしていた。
 そんな不気味な空間にも関わらず、人、『偽誕者』であるが、それの気配は方々に散り、虚無の気配は、八方を塞ぐように点在していた。
「へえ……」
 これまでも何度となく足を踏み入れてきた公園に差し掛かったところで、ビャクヤは、感嘆の声をあげた。
「これが姉さんの目指していた。『虚ろの夜』なんだ……」
 予想に反して人が多い、とビャクヤは思った。顕現が最も満ち溢れる夜だと言うからには、人よりも虚無が群がって互いに喰らいあっている。そんな風景を予想していた。
「もっと怖いお兄さんだらけの。そんな地獄絵図を想像してたんだけど……」
 ビャクヤは、歩きながら伸びをすると、頭の後ろで手を組んだ。
「これなら。いつも通りの僕で大丈夫かな?」
「ビャクヤ、油断はしないこと。これから目指す先は、『虚ろの夜』の核である顕現の泉『深淵』……」
 ツクヨミは、辺りの気配に気を付けつつ、ビャクヤに注意した。
 これまでも二人は、突発的に発生する小さな『夜』に向かっては、それを構成するだけの『深淵もどき』を見つけ、そこである目的を果たさんとしていた。
「今夜から始まる『虚ろの夜』は、紛れもない、本当の『深淵』が出現する。そこに宿る顕現は、今までの『深淵』の偽物とは比べ物にならない量よ。虚無、『偽誕者』問わず彼らは『深淵』の顕現を求め、集い、そして一様に果てていく。まるで蠱毒のように、ね……」
 ビャクヤは、乾いた笑い声をあげる。
「ハハハ。そこは無理にでも。誘蛾灯とか。もう少し優雅な表現をしてほしい」
 ツクヨミは、くだらない洒落だと一蹴する。
「精々あなたのその甘さが、命取りにならないことを祈るわ。……邂逅の運命。その扉が、私の前に開いているのなら、その先にきっと『あの子』がいるはず」
「んー。だから何度も訊いてるけどさ。結局姉さんの目的ってのはなんなのさ?」
 ビャクヤは、眉根を寄せて口を尖らせる。
「『あの子』って人を捜している以外なーんにも分かんない。二日も顕現の食事を禁止させた上に。こんな物騒な『夜』に付き合わせているんだ。そろそろ教えてくれてもいいじゃない?」
 ツクヨミは、目付き鋭く、答えを否とした。
「ええ。それは何度も答えているはず。あなたが知る必要はない、と。あなたは、私を守るための爪。私たちはそれだけの関係であるべきなのよ……」
 ビャクヤに向けた言葉であるが、ツクヨミは自身にも言い聞かせる。
 ビャクヤに情を持ってはいけない。持てば、互いにとって必ず悪いことが起こる。ツクヨミはそう思い込むのだった。
 そんなツクヨミの気持ちを知る由もないビャクヤは、やはり口を尖らせる。
「ちぇー。黙って働くのもモチベーションがさ。ろーどーいよくって大事じゃない? こういうのに」
「あら、奴隷にそのようなもの必要かしら。それに、私と共に来る事が、かなりの劣悪環境だということ、最初から分かっていたのではなくて?」
 ビャクヤは、観念したようにため息をついた。
「はいはい。そうでした。分かっていましたとも。考えてみれば。姉さんと一緒にいられる。それだけで僕にとっては。十分すぎる報酬だったよ」
 ツクヨミはふと、立ち止まった。ビャクヤは更に数歩進んでから気付き、足を止めてツクヨミを見る。
「姉さん? どうしたんだい」
 ツクヨミは、すまなそうな目をしていた。
「……ビャクヤ。頼むわね。私にはもう、あなたしかいないのだから……」
 ツクヨミがかつて所属していた能力者集団、『万鬼会』が『忘却の螺旋』によって潰された事で、ツクヨミは多くの仲間を失った。
 仲間は多かったが、ツクヨミが本当に心を許せていたのは、今もこうして捜している『あの子』、ゾハルであった。
 もう一人、よく一緒にいた仲間、『鬼哭王』オーガがいたが、『忘却の螺旋』との戦いに果てている。
 ゾハルとは、『万鬼会』発足以前よりの親友であった。『深淵』の顕現に侵され、最早元に戻る希望は無いものに等しいが、せめて、親友として終わらせてやりたい。それがツクヨミの、ただ一つの願いであった。
「何を今さら……」
 ビャクヤは、微笑んでいた。
「我が顕現は。貴女よりの贈り物。全ては。姉さんのためにあるのだから。たとえこの身が朽ち果てようとも。姉さんに襲いかかる全てを。この爪が捕らえ。喰らうから……」
 ビャクヤは前を向く。
「さあ。お喋りはこの辺にして進もうか。僕はどうってこともないけど。この空気。今の姉さんにはよくない。先を急いだ方がいい」
 ビャクヤの言う通り、今回の『虚ろの夜』には、『深淵』の顕現が方々に散っていた。
 まだ『深淵』までは距離があるものの、鼻を貫き、喉を突き刺すような、思わずむせ返るほどの異質な感じがする。
 『器』の割れているツクヨミがこの空気に曝されていれば、虚無に落ちるまでは行かないまでも、体の一部を毒される可能性は十分にあった。
「……そうね。ビャクヤ、今宵の私たちの目的は、『深淵』の側にいるであろう、『眩き闇』。できるだけ無駄な戦闘は避けていきましょう」
「そうだね。パラドクス? って言ったっけ。そいつの顕現残さず食べられるなら。雑魚を喰らってうっかり。お腹いっぱいにならないようにしないとね」
 ツクヨミは、ビャクヤの答えが意外に思った。
「ん。どうしたんだい。姉さん? 何をそんなに驚いてるのさ?」
「いえ。あなたにしては妙に聞き分けがいいと、そう思っただけよ」
「失礼だなー。僕はいつだって。姉さんの言いつけは守ってきたじゃないか。この二日間。姉さんの言う通り。顕現を喰らうのを我慢したしね」
 ビャクヤは、ツクヨミの言うことには基本的に従ってきたが、必ず一言二言、文句の言葉が伴っていた。
 今この瞬間も、辺りに漂う虚無の顕現を喰らえない事に口を尖らせるかと思われたが、ビャクヤは微笑を浮かべて、一切文句を言わない。
ーー何か企んでいるのかしら?ーー
 ツクヨミは思うのだった。
「おや。ここは?」
 二人は、とある場所にたどり着いた。
 黒焦げになった街路樹が倒れ、辛うじて立っていられた木に、立ち入り禁止の黄色いテープが巻き付けられている。
 二人にとって、記憶にとても鮮明な場所であった。
「ここ。あの時の。リヒトなんとかの。三下騎士だっけ?」
 戦いの記憶はあったものの、ビャクヤの言葉は何一つ合っていなかった。
「……『光輪』の第四位。紅騎士ワーグナー、でしょう?」
「そうそう。それそれ! 姉さんよく覚えてるねぇ。あんなに横文字だらけの名前で。いかにもその手の趣味の人が好みそうな格好してたのに」
「…………」
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac-5 作家名:綾田宗