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BYAKUYA-the Withered Lilac-5

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 ツクヨミは、一応辺りの気配を探ってみた。
 ここは、以前の『夜』にて『深淵もどき』が発生していた場所である。その上ワーグナーに焼かれた木々は、現実にも焼けた姿で見つけられるほどに顕現の影響を受けた。
 しかし、今はもう『深淵』の気配は露ほどもない。それは、ここより更に、先に進んだところにあると思われた。
「もしかして、と思ったけど、ここは違うようね。『深淵』はまだまだ先。ビャクヤ、先を急ぎましょう」
 はいはい。というビャクヤの返事と共に、二人は『夜』の更に奥へと行こうとした。その時だった。
「おい、お前ら!」
 何者かの声が、ビャクヤたちを引き止めた。
 二人は、さして驚く様子もなく、後ろを振り返った。
「怪しい連中だな。学生が制服のまま、こんな時間にこんな場所で、一体何を企んでやがる」
 二人に声をかけてきたのも、紛う事なき男子学生であった。
 改造を施したかと思われる着崩した制服姿で、ブレザーの上から巻き付けた太いベルトが特徴的である。
 ビャクヤ以上にシャツのボタンを開け、緋色のネクタイの結び目は、みぞおち辺りまで垂れ下がっていた。
 何よりこの少年を特徴付けていたのは、その髪色である。前面が金色、後は全て黒という、自然にはあり得ないものだった。
 見た目こそ真面目な男子学生といった体ではなかったが、その目はとても真っ直ぐであり、正義感の溢れるものだった。
ーー気に入らないね……ーー
 ビャクヤは、突然現れたこの少年の目が気に食わなかった。相手がただのチンピラであるなら、この場で有無を言わさず倒すだけであるが、目の前の少年は、それすらもしたくなくなるほどの嫌悪感を、ビャクヤに抱かせた。
 故に、ここは黙りを決め込んで無視しようと思ったが、ツクヨミが返事をしてしまった。
「面白いことをいうのね。それを言うなら、あなただって同じではなくて?」
 ツクヨミは、当たり障りなく問い返した。
「オレは『虚ろの夜(ここ)』でやらなきゃならない事がある。『眩き闇』をぶっ倒す。そしてこの『夜』を終わらせる!」
 少年の目的は、いつぞやの紅騎士ワーグナーと同じものであった。『虚ろの夜』の核である『深淵』を破壊するつもりであった。
「『眩き闇』を倒すだなんて、ずいぶん大きく出たものね。あなた程度が、果たしてあの女の足元に及べるのかしらね?」
 ツクヨミは、少年を挑発するような態度を取る。
「舐めんなよ。オレにだって、この『夜』に集まる奴らと十分戦えるだけの能力(ちから)がある……」
 言うと少年は、両手を合わせた。
「出ろ! 『断罪の免罪符(インスレーター)』!」
 少年の手が真っ赤に輝くと、左手のひらから刀の柄のようなものが顕現した。
 少年は、自らの手から出現した柄を取り、刀を鞘から抜くかのように、その刀身を露にした。
 少年が自らの手より抜き出したのは、刃が赤黒く、刀身の長い、鍔のない刀のような姿をした顕現であった。
「この力で終わらせる! この狂った世界全てをな!」
 少年は、抜き放った刃を振るった。まるで血のように、刃が纏っていた顕現が、空中に飛び散って消えた。
ーー『断罪の免罪符』、と言っていたわね。以前に聞いたことがある。『再誕(リヴァース)』にいたる宝具の一つだとーー
 ツクヨミがまだ、『万鬼会』のメンバーとして活動していた頃、『忘却の螺旋』との戦いに向け、『眩き闇』が何を目的として『虚ろの夜』にて最強であろうとしているのか、調べたことがあった。
 その時に、今、目の前の少年の持っている剣について知ったのだった。
 『眩き闇』の目指す、『再誕』とは、『偽誕者』を超越した顕現を宿した存在とされている。『深淵』の顕現を溢れさせる事なく受け入れられる『器』を持つ者だけが至れる領域である。
 ゾハルもまた、顕現を求め、そして『眩き闇』の命を狙っている。どこかでこの少年とぶつかっているかもしれない、とツクヨミは考えた。
「一つだけ訊きたいことがあるわ……て、なに? どうしたのビャクヤ?」
 ゾハルについて何か知っているか、訊ねようとしたツクヨミは、不意に肩をつつかれた。
「まあまあ。姉さん。相手はもう刀を抜いているから。もう無礼討ちになりそうなものだけど。今はそんな時代じゃない。無駄な時間はもったいないし。ここは平和に話し合いで解決しようじゃないか」
 ここは任せろ、と言わんばかりにツクヨミの肩に手を置くと、ビャクヤは彼女の前に出る。
「と言うわけだ少年。ここから先の話は僕が聞こう」
 ばーん、とビャクヤは言って、自らの登場を誇大なもののようにし、仰々しく両手を広げた。
「なんだ? 面倒そうなのが出てきたな……」
 今までツクヨミの後ろで、ずっとそっぽを向いていたビャクヤが、突然に出てきた。ビャクヤを見た一瞬で、少年は二つの事を見抜いた。
 一つは、見た目どおり偏屈そうな質の人間ということ。もう一つは、底知れない、途轍もない顕現の能力を有しているという事だった。
「……別に、あっちの美人のお姉さんと話したかった訳じゃないから、強くは言わねえけどよ」
 少年は、同様を悟られないように言葉を続ける。
「大体、偉そうに人の事少年って言ってるのは何なんだよ。お前の方が年下に見えるぞ。中学生か?」
「あはは。分かってると思うけど。今の姉さんに顕現はないからね。キミと戦うとしたら僕なんだし。僕と話しをするのは当然だろう?」
 やはり偏屈さを感じる言い方だが、ビャクヤの言葉は筋が通っていた。
「……だろうな。オレだってもう立派な『偽誕者』なんだ。力については分かってるつもりだ。お前の方がとんでもない力を持ってる、って事もな」
 ビャクヤは、少し感心した。
「誉められると。照れるね。たとえそれが。弱そうな新人から。でもさ……」
 ビャクヤは、口元を大きくつり上げた。しかし、その目は全く笑っていない。
「なんだと、テメぇ……!」
 あまりにはっきりと挑発され、少年はいきり立った。
 自分から煽っておきながら、まあまあ、とビャクヤは手を前で振る。
「姉さんの目的は人捜しみたいだけど。僕は違う……」
 ビャクヤは、少年を抑えて話を続けた。
「僕の姉さんに危害を及ぼしそうな奴を。片っ端から壊したいんだ。現にキミは。そんな刀を抜いたりしてやる気満々だ。姉さんに危害を及ぼさない可能性を考える方が難しい」
「大人しそうな顔してそれが本心ってわけか。いいぜ、オレにだって覚悟がある。お前みたいなのに舐められて黙っちゃいられねぇ。準備はできてるだろうな? 今すぐ斬り捨ててやる!」
 ビャクヤは一変して、ニッコリと笑った。
「うん。ちょっと待っててね」
 言うと、ビャクヤはツクヨミの手を握り、少年から少し離れていった。
「いちいち話し合いに戻るなよ! めんどくせぇ奴だな!」
 喚く少年を無視して、ビャクヤは笑みをツクヨミに向ける。
「姉さん。お待たせ。話がまとまった」
 ツクヨミは、ため息をついた。
「ケンカすることになった。やっつけるよ。あの辻斬り男」
「呆れた。戦うのはあなたなのだから、どうでもいいのだけど。あなたがあの程度の者に敗れるとは思えないし、ね」
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac-5 作家名:綾田宗