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GLIM NOSTALGIA

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一幕 奇跡の町


「…人体の一部を…培養…?」
 呆然と繰り返し、ゆっくりと頭にその台詞の意味するところが染み込んできた。そして、背筋を震えが伝った。
 それは恐らく目指すものとどこか似ている。だが、何かが違うように思えた。
 目の前の男は神妙な顔で頷いた。
 常は食えない笑みを浮かべているその年齢不詳の――どちらかといえば若く見える顔は、今珍しく真剣な表情を浮かべていた。
 既に人払いされた部屋。重厚な扉は防音という与えられた仕事を間違いなくこなすだろうし、そもそも部屋がある区画からして基本的にある程度以上の位階にない者が容易に立ち入れるわけでもない。まして盗聴器など、あるはずもない。あるとすれば、交換機を通す電話くらいだ。
 それでも男の声はけして大きくなかった。むしろ潜めた声といってもよかっただろう。
「――未確認だが、そういう噂がある。北部の小さな町で、欠けた体の一部を得ることができる、と」
 男の黒い目は瞬きもせず目の前の少年を見つめていた。
 少年の金色の瞳も、それを受けて立つように真っ直ぐに見つめ返す。
 そうすれば、男は、ほんのわずか愉快そうに目を細めた。本当にほんの少しだが。
「…もう君は知っているかと思っていた」
 いや、と答えて少年は首を振った。だが微かに歪んだ眉根は悔しがってでもいるのか。彼らしい、と思いながらも、男は声のトーンを緩めたりはしなかった。
「しかし、知らなかったならちょうどいい。いいか、鋼の」
 呼ばれ――銘を口にされ、金髪の少年は顔を上げた。青い衣服を纏った黒髪黒目の男は、淡々と続ける。
「ソフィアに近づくな」
「……?」
 誰だそりゃ、とでも言いたそうに顔をしかめた少年――鋼の錬金術師、エドワードに、男は補足する。
 男、錬金術師の後見的な立場にある、ロイ・マスタング大佐は。
「その町の名前だ。ソフィアには軍の目も集まり始めている。…まだ一部だが」
「…どういうことだ?」
 年の差や身分の差などものともせず、少年は胸をそらして足を組み、聞き返した。ただの子供であれば生意気としか見えなかっただろうが、彼は不思議としっくりきていた。
 「自分達」の目的を知っている彼が、そんな情報をぶら下げておいて牽制してきた意味は正直分からなかった。軍が目をつけている。なるほどそれは危険であろう。だが、自分もまた軍に属する者だ。しかも佐官相当の権益を認められてもいる。一般人よりはまだ危険がないと思うのだが…。
 しかし、男の考えは違ったようだ。
「…まあ、素直に言うことを聞くとは思っていなかったがね」
 ロイは軽く苦笑して、それから椅子に背をもたれ、こちらも幾分楽な姿勢をとった。表情もわずかだが普段のものに近づく。
「もう少し説明してやろう。鋼のは錬金術師ソフィアを知っているか?」
 少年は首を捻った。その心の内訳は、やっぱり人名かよというのがひとつ、そんな名前今まで聞いたことあったかな、というのがひとつ。後もうひとつ付け加えるのなら、この男の関係者だろうか、という疑問。
 そんな少年の心中などどうでもよさそうな顔で、男は話を続けた。
「まあ、およそ百年前の人だし、特に本を書いたわけでもない。それに極力自分の足跡を残さないようにしていたようにも取れる節がある。君が知らなくても無理はない。どちらかといえばマイナーだし、多分専攻的にも君とは異なるだろう」
 知らなくても無理はない、の部分に少年は正直ほんの少しむっとした。馬鹿にされたような気がしたからだ。だがそこでは口を挟まなかった。ただ眉をひそめただけである。
 ロイがそれに気付いたかどうかはわからないが、とりあえず彼の話にはまだ続きがあった。
 …まあ、抜け目のない男だ。気付いて無視しているのかもしれないが。
「当時は天才とも聖女とも呼ばれていたそうだ。ちなみに先に言っておくが、別に女性だから興味を持ったわけではない。単純に気体の練成に関する研究をしているとその名前が出てくるから知っているだけだからな」
「…別にそんなことどうでもいいけど」
 白けた顔で言ってやれば、つまらなそうな顔をして「まあそうだが」と返ってきた。もしかしたら語りたかったのかもしれない。
 錬金術師同士でしか出来ない会話には、もしかしたら彼の方が飢えているのかもしれないし。
「…彼女に関するエピソードは伝説に近いものがほとんどで、研究者の中には実在した人物ではないのではないか、と考えている者もいる。まあなんといっても資料が極端にないからな…。だが、実在したか架空だったかはともかくとして、幾つか興味深いエピソードがあるんだ」
「…はぁ」
 それで一体いつ本題が始まるんだ、と少年は微妙に苛立ちを感じつつ、仕方なく相槌を打った。本当に適当なものだったが。
 しかし、次に発された言葉を聞いては、息を飲むしかなかった。
「――ソフィアは両手を合わせただけで練成をすることができた、といわれている」
 黒い目が探るような光を帯びた。だが少年はそれどころではなかった。
「…そんな、」
 息を飲み、音もなく唇でそう紡いだ少年に、男は告げた。
「ソフィアは初めからそういったことが出来たわけではないといわれている。元々北の生まれでもないようだ。だが、ある時北のその小さな町…当時は村だったかもしれないが、とにかくそこに現れ、その錬金術で町を幾度も救った。土地の人々は彼女を敬慕し、その名を町の名とした。――今も」
 そこで彼は区切った。話術の巧みさとでも言おうか、少年はもう彼の会話に引き込まれていた。この場合は話題のせいもあったが。
「ソフィアの奇跡は、その町に生きている」
「…奇跡?」
 あんたが、らしくないな、そんな言葉が出てしまいそうだった少年のその意外そうな顔に、男は澄ました顔で笑った。
「そう。奇跡だ。ソフィアはなかなかに寒い地域にあるんだが、真冬でも作物がとれ、凍えるということがない。そして、不審者を立ち入らせない」
「…はあ?」
 エドワードの顔は困惑から呆れへと変わった。そんな馬鹿な話はない。しかし…。
「ソフィアには申し訳程度に壁があるが、そんなものがなかったとしても、山賊夜盗の類はあの町に近寄れないんだよ。勿論、軍部(われわれ)もな」
「…?」
 再び眉を顰めた少年に、男は説明した。
「結界のようなものだろうな。恐らくどうやってか消えないように陣をひいているのだろうが、…ソフィアの半径数キロ…恐らく五キロくらいだろうな、その区域に火薬を持って入ると、その時点で爆発する」
「……爆発?」
「そうだ。だから火気弾薬の類を持って立ち入ることは出来ない。ソフィアの結界に一歩立ち入れば――」
 男は両の手のひらを上にして、軽く外側へ、上の方へと突き出す仕種を取った。
「ドカン! ――だな」
「…なんだそれ、…探知機みたいなもんなのか?」
「だから奇跡なんだ。百年も前に、火薬に反応して爆発を起こすなんて高度な練成を…。しかも、反応するのは火薬だけじゃない」
「なに? …って、まあそうか…百年前だったら火器なんて今ほどは…」
作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ