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GLIM NOSTALGIA

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 背の高い、彼の髪とよく似た金髪の、眼鏡の男だ。声は低く渋みがあって、ちびりちびりと傾けている割に、酔っている風ではない。
「…どなたかわからないが…感謝する!」
 後になっても、何故その時見ず知らずのそんな男を信じたのかロイには判らない。だが、その時はそれが真実だと思い、毛ほどの疑念もなかったのは事実だ。
 ロイが行ってしまうと、金髪の年齢不詳の男は、空を見上げた。
 髪は長く結われ、瞳の色は髪と同じ金に染まっている。
「――汝らに幸あれ、だ」
 彼は機嫌よさそうに呟いて、そのままふらつくこともなく、ホールの方へ歩いていく。
「…ソフィアがあの歌を譜面に残していたとはね」
 遠い遠い昔、絶望の縁にあった女性が、どうしても錬金術を学びたいとついてきた。その執念に根負けして錬金術をいちから教えたのは、あれはもう、百年も前の話。それから長いような短いような時間が経って、夢にも思わなかった自分の息子が、あの曲をあるべき場所に届けてくれた。人の繋がりの深さというものに感嘆する。強く残っていた残留思念を幽霊に仕上げたのはちょっとした悪戯だ。子供と遊ぶ間もなく出てきてしまったけれど、あれだけ大きく…はないがまあ小さい頃よりは大きくなり、何よりもふてぶてしくなった子供なら、それくらいの悪戯にへこたれはしないだろう、そう思ったから。
 ホールに近づいていけば万来の拍手が聞こえる。
 これが限りある人間にだからこそ出せる力。
「…俺も、いつか」
 彼の万感のこもった呟きを、星だけが聞いていた。

 見知らぬ男に教えられた通りの道を走り、ロイは、とうとう、木の根元にしゃがみこんでいる赤い塊を見つけた。夜目にも浮かび上がる金髪と、白い肌の。
「……はがね、のっ…」
 声をかければ、びくりと赤い小山が揺れた。
 走ってきたので息切れがひどかったが、ロイは、それでも小山の近くまで進み、片膝をついた。
「…顔を、…見せて、…くれないか…」
 ぶんぶん、とおさげが揺れた。
「…子供じゃ、ないんだろ。…だったら、わがまま言わないで、…こっちを見てくれ」
「………ずりぃ…!」
 挑発すれば、批難を跳ね除けて上げられた顔。
 目は潤んで、けれど眉は強気に吊り上げられていた。エドワードらしい、とロイは笑ってしまった。
「なに笑ってんだよ!」
「…だって、」
 ロイは、ああ、と声をあげて地面に座り込んだ。
「ばっ、…礼服!汚れるだろ!」
「かまわない」
「なにが…」
「だから、かまわない。礼服なんてクリーニングに出せばいい。洗濯屋は喜んで洗ってくれるさ」
 ロイは、膝を抱えて不恰好に丸くなっている体に、腕を伸ばした。
「うわっ」
「すきだ」
「……へ?」
 だから、とロイは内緒話を打ち明けるように顔を近づけて、エドワードの鼻先で繰り返した。
「君が好きだよ」
「………はっ、ちょ…」
 それに反論しようとしたエドワードだったが、…天然気質の男は、自由奔放にエドワードに手首を掴み、抱き寄せ、唇をふさいだ。驚いたのはエドワードだ。確かに自分からキス、のようなもの、をしたけれど、だがしかし、これは…。
 あまりのことに硬直して目を見開いていたが、舌がねっとりと口腔内に差し入れられるに至って、脳が限界を訴えた。
「…んんーっ!」
 ようやく気がついて相手の胸板を叩くものの、一向に堪えた様子がない。
いよいよ酸欠がひどくなってきた所で、がば、と離された。何と言うかもはや息も絶え絶えといった様子のエドワードは、何となく悔しいような気持ちで相手を睨み上げる。
いざとなったらこうやって、力でなんか勝てないのだ。それなのに普段は弱かったりエドワードの我が儘にわざと折れてくれたり。手の上で転がされているみたいだ、と思う。それが悔しい。
しかし…。
「…エド」
嬉しそうに目を細めて、背後に星をしょった男はそんな風に呼ぶから。
「…オレの方が」
「…?」
「…オレの方がっ!あんたのこと、ずっとずっと好きなんだからな!」
まいったか、と鼻息荒く怒鳴ったら…、
「君…それは…」
唖然呆然のロイに小気味よさを感じていられたのなんて、短い時間に過ぎなかった。
「…それは、…ありがとう」
その人を食ったような笑みを見て後悔しても遅い。
「な…ナシ!今のやり直し!」
「人生は一度きりだよ」
ふわりと笑ったロイの顔は本当に幸せそうなものだった。だから、…そんな顔を見せられたら、強く言えるわけもなく。
「大丈夫。後悔はさせないから」
「……何がだよ…!」
 いいから上からどけ、と言いたかったが、目の毒としか言いようのない笑顔を見ていたら、どう考えてもエドワードに分の悪い勝負だということだけが理解できた。
「………くそ」
 とうとう、エドワードが根負けした。まあ、惚れた方が負けだと昔から言う。
「…責任とりやがれ。こんちくしょう…」
 勿論、と楽しげに笑うロイに、エドワードはようやくすっかり諦めて、白旗を振った。どの道好きだったのだから問題はないのだ。ただちょっとだけ、悔しいというだけで。
「もちろん」
そうして落ちてきた唇はまた深く重なって離れない。鼻にかかった甘い声が人の通らぬ脇道から上がっても、仕方がない。今はもう春なのだから。
少し冷えた春宵の空気はどんどんほてっていく肌に心地よい。朧な春の夜だけでは心が重なった喜びを伝えあうにはきっと足りないけれど、それでもまだ、夜は始まったばかり。



万雷の拍手が小さな歌姫に捧げられる。幼い頬をばら色に染めて、少女は精一杯のお辞儀をした。
アンコールだ。
今はあの日のように二人はいないけれど、フィリアはぎゅっと拳を握って震えを抑えた。
顔を上げて、少女は勇気を出して声を出した。
「ありがとうございます。…それでは、もうひとつだけ…どうか歌わせてください」
勿論聴衆に否やのあろうはずがない。またもや盛大な拍手が贈られた。
「…私の故郷の町を作った方が、残してくださった歌です。苦しい旅の果てに私の町へやってきてくださった方が伝えてくれた――」



「タイトルは――――」
作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ